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2 - 第2話 「ミスティア」

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2023年05月04日

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1.初対面

これはもうずっと前─ソライアがまだ10歳だった頃の話だ。

身寄りのなかったソライア、バレンシアはその頃、組織が所有する施設で暮らしていた。お世辞にもそこは快適とは言えなかったが、その頃の2人にとっては十分の場所だった。

ある日のことだった。いつものように、バレンシアが単独任務から帰ってくるのをソライアが待っていた時、隣の部屋に誰かが入ってきた音がした。

「私たち、これからどうなるの…?」

「大丈夫…お姉ちゃんがいるから…」

隣室からは2人の少女の声が聞こえていた。

施設を管理していた”黒い人”に聞くと、どうやらソライアより2歳上と、6歳下の姉妹が来たらしい。詳しいことは教えて貰えなかったが…

(誰が来ようと関係ない。私は任務を遂行すればいい)

そう思っていたから、別になんとも思わなかった。逆に言えばソライアは兄としか行動したことがなく、それ故に人付き合いが苦手なため、赤の他人への接し方が分からなかっただけなのだ。

それから3年近く経った。その日もバレンシアは単独任務へと出かけていたため、ソライアは1人施設で待っていた。

すると。

「仕事だ」

ジンが部屋の扉を開けて入ってきた。

「兄さんがまだ帰ってきてない」

「今日お前が一緒に行くのはバレンシアじゃねぇ。ミスティアだ」

「ミスティア…?」

聞き慣れない名前に眉をひそめるソライアに、ジンがこちらに何かを投げて寄越した。

「殺しのサポート側としてやり手と噂されている奴だ。そいつでさっさと殺ってこい」

渡されたのはFNハイパワー…後にソライアの相棒となる拳銃だった。

2.はじめまして

「あなたがソライアね。私はミスティア。よろしくね」

モーヴピンクのウェーブがかった髪、大きな丸い瞳。整った顔立ちをした少女だった。出し抜けに挨拶をしてきたその声に、ソライアは聞き覚えがあった。

そう、3年前、隣の部屋から聞こえていた少女の声。その少女こそが、今眼前にいる”ミスティア”なのだ。

「あなたのことは知ってるわ。ずっとお話してみたいと思ってたの」

ソライアはミスティアに対し、とりあえず軽く頭を下げておいた。

前述の通り、ソライアは人付き合いが苦手である。そのためミスティアのようなよく話しかけてくる人が好きではなかった。

その日から、ソライアが任務をするときは何故か必ずミスティアが一緒に来るようになった。

「いつからここにいるの?」「好きなことはあるの?」「生まれはどんなところなの?」

ソライアへ向けたミスティアの質問攻めは、ソライアにとっては相当キツいものだった。なので、ソライアはミスティアを毎度のこと無視していた。

だが、それが日常になりつつあったある日のことだった。

「あなたはどうしてここに来たの?」

ソライアは歩みを止めた。風が吹いて木の葉が揺れる。

「知らない。兄さんに着いて来ただけだから」

ミスティアの顔を見ず、俯いたまま告げる。

「そっか…」

「そういうそっちはどうなの?」

ソライアは横目でミスティアを見た。

「私?…そうよね、聞いたからにはこっちも答えなくちゃ」

そう言い、2人は廃ビルの屋上まで行き、錆びたベンチに座った。

3.昔の話

「私ね、家が薬局を営んでいたの」

緑豊かな田舎の、小さな店だったらしい。家族みんな仲が良かったんだとミスティアは言った。

「家族は私と、母と父と、そして妹。母がロシア人だったから、ハーフの私は虐められてばっかりだったけど、私は家族が大好きだった」

でもね、と、ミスティアが言った。

「ある日、この組織が山で人を殺してるところを家族で見てしまったの」

「…!」

「そのせいで、父と母は組織に殺された。私はただ、妹と現実を受け入れるしかなかった…」

妹はどうやら組織の研究所の方でシェリーと共に働いているらしい。妹だけでも組織から抜けさせてあげたいと、そう思っていたようだ。

「それまで明るかった妹も、父と母が死んで喋らなくなっちゃって…」

たった1人の妹を笑顔にさせるため、ずっと明るく振舞っていたんだと、ミスティアは言った。

「…見ず知らずの私にそんなに沢山話していいの?もし私が悪い奴だったら…」

「仲間だから。あなたを信じているから。悪いことなんて、あなたはそんなことしないでしょう?」

ミスティアは悲しげな目で笑った。

その目は、ずっと前に兄・バレンシアが見せたのと同じ笑顔だった。

4.悪夢

ソライアのミスティアへ対する気持ちが少し変わってきた頃。

兄が死んだ。

あまりに呆気なかった。バレンシアの遺体はどこにもなく、組織の元に戻ると皆がバレンシアのことを鼻で笑っていた。

「ざまぁないね、これが自業自得ってやつかい?」

「疑わしきは罰せよ…元からアイツは気に入らねぇ奴だったんだ」

膝をついて涙を流すソライアを目の前に、キャンティとジンはお構いなしに話を続けた。

ソライアはその場で2人を撃ち殺そうと思った。

その時。

「ダメよ」

ミスティアが後ろからソライアの肩に手を添えた。

「感情に任せて動いちゃダメ。いつかきっとその時が来るから」

ミスティアは、ミスティアだけは。

兄の死を笑わずに受け止めてくれた。

5.FBI

「じゃあソライア…協力よろしくね」

「あぁ、その時まで待機していればいいんだな?」

バレンシアが死んでから3年が経ったある日、ミスティアはFBI諜報員の殺害任務を受けに行った。妹が狙われているんだかなんとか。

妹のことはよく知らない。ソライアは勝手に”青原妹”と呼んでいたが…

暫くし、ミスティアから無線が入ったのでバイクを走らせてミスティアの元へと向かった。

「終わったんだな」

ソライアは予備のヘルメットを手に取るミスティアに声をかけた。

「えぇ、あなたには色々協力してもらったわね…改めて礼を言うわ」

その時。誰かのスマホが鳴っていた。

ソライアか?いや、ミスティアだ。

「それより…さっきからスマホ鳴ってるぞ…」

メールに気がついたミスティアは、それを見て顔が強ばった。

「ソライア!悪いけど大至急研究所までお願い!」

「了解…!」

ただ事ではないことを察知した私はすぐに研究所に向かった。

それから、ミスティアがヘリに戻ってくることはなかった。

6.お互いの傷を…

ソライアが次にミスティアに会ったのは2日後だった。いつもの元気がなかったから、ソライアは心配になりその夜にミスティアの家に押しかけた。

ぴーんぽーん、と間抜けな音が鳴る。

「邪魔だったか?」

ミスティアは目の周りを赤くしながら少し驚いた顔をした。

「青原妹…どうなったんだ…?」

コーヒーを淹れていたミスティアの手が止まった。

「さっき山に埋めてきたばかりよ」

「…!? じゃあまさか…」

「間に合わなかったわ…私が…もっと早く…」

髪で顔が隠れていたのでミスティアの顔はよく見えなかったが、それでも今のミスティアの気持ちは痛い程伝わった。

私はミスティアの横に座り、そっと肩に手を添えた。そう、いつの日か彼女がやってくれたように…。

ミスティアは再び泣き出した。ソライアは決めた。これから先、彼女と共に生きていく、と。

静まり返った夜の中で、ただ1人ミスティアのすすり泣きだけが響く。

「どうしてここにいるの…か」

ソライアは窓から空を見て笑った。

「お前を1人にはできないからだよ。ミスティア」

見上げた空には幾千もの星が散っていた。

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