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生姜とニンニクなどで下味をつけたから揚げ、春雨サラダ、キャベツのお味噌汁、セロリの浅漬け。
きっと、喜んでくれるはず。
「今日はパパの好きなものばかり作ってみたの」
三人揃っての食事開始から数分。
千愛の宿題が多かった話が一段落したところで、私は夫を見た。
夫は私を一瞥したあと
「から揚げ、春雨サラダ、キャベツの味噌汁、セロリの浅漬け……」
とテーブルを見渡す。
「そうよ。パパの好きなものばかりでしょ?」
「どうやったらこんなメニューになるんだ?」
「……ぇ…?」
「献立を考える時間なんて、たっぷりとあるだろう。有り余る時間があるのに、どうしてこんなメニューになるのか、理解できない」
きっと喜んでくれるはず…という期待は、私の勝手な期待でしかなかったのだと、夫の口調で知る。
一度首を傾げた千愛が、またから揚げを取って食べるのを見ながら
「ずっと専業主婦でありながら、まだ全部言わないとわからないのか。全く……のほほんと過ごすことしか出来ない人間ってのは、どうしようもないな」
と、言いながら私を見た夫と目が合う。
普段の視線が合わなくなって…夫と視線が合うのは、物申すってときだけだわ。
そう気づくと、変な緊張を感じた。
「千愛の好きなものと組み合わせた献立を考えろよ。4品のうち2品は千愛の好物にできただろ。千愛がしっかり食べて栄養を摂れないような食事はありえない!」
ああ…千愛のことが最優先の夫には、気に入らない献立なのか。
「全部食べられるよ、私」
「千愛、セロリはもう頑張らなくていい。よく我慢したな。千愛は他の野菜が食べられるんだから、セロリが嫌いでもいいんだぞ。他にいっぱい栄養の摂り方はある。それを考えるのはママの仕事」
「うん。だからパパがちょっと怒ったの?」
「怒ってないよ、注意しただけ。そうだよな、ママ?」
「ぁ…うん……週末は、みんなの好きなものをお弁当にして植物園に行かない?今日、アレンジメント教室で、この時期の植物園がすごく素敵だって聞いたの」
「植物園?」
「ええ……バラ園とか今、素敵みたい。お弁当を食べる場所もたくさんあるって」
夫はすぐに返事をしない。
その無表情な顔を見ていると、先ほど口に入れたセロリが苦い香りをもたらした気がして、ごくんと唾を飲み込む。
変な緊張が
“私は不幸な女”
という言葉を脳裏に焼き付け始めたのを振り払うように、私は言葉を発する。
「天気もいいみたい」
中西さんのような夫なら、自分の好きなメニューが並ぶテーブルを見て感激してくれるのではないか。
私自身の幸せを確かめたいために行ったことが、真逆の効果になるなんて……
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