月日は流れ、木兎さんは卒業し春が来た。本格的に新体制のチームでの練習が始まった。
流石は強豪校 新1年生もしごきがいがある筋の良い奴が多い。
だからついつい自主練に巻き込んでいたら尾長に
「なんか赤葦さん、木兎さんに似てきましたよね。」
って言われてしまった。
忙しいけど充実した日々、木兎さんに会えないのは寂しいけど あの人だって新しい環境で頑張っているんだから俺も頑張らないと!と思っていた矢先。
俺に初めての発情期が来た。
大学では友達も出来てバレーも絶好調。
赤葦が隣にいないのにはまだなれないけど時々電話したりしてるし、今度家に遊びに来てくれるって言ってた。
今日は午後は特に予定が入ってなくて適当に家でダラダラしていたらスマホの着信音が鳴った。
『木兎さん』『たすけて』
と2件の新着メッセージに『今どこにいる?』と打っている最中、赤葦からの電話がきた。
「もしもし?どうしたの?」
「わかんなッ…けど、なんか…身体が熱くて…」
もしかして…
「わかった。大丈夫だから、落ち着いて」
「はい…」
「今どこ?あと周りに人はいる?」
「家、です 家に1人で…」
「すぐ行くから待ってて」
いつもの赤葦からは考えられないような焦った声だった。
電話を切ると直ぐに赤葦の家に向かった。
赤葦の家に着きインターホンを鳴らすが返事は無い。
ないとは思うけど一応…とドアを引いてみると鍵がかかっていない。
「赤葦?入るよ?」
部屋の中に入ると部屋の隅で丸まっている赤葦の姿が見えた。
「赤葦!」
声をかけるまで俺の事には気づいていなかったようで赤葦は驚いた様子でこちらを見上げた。
赤葦に駆け寄ろうと近づいた途端、甘い香りがして確信した。
「発情期…赤葦、薬!薬は?飲んだ?」
「これが…発情期?」
キョトンとした顔をした赤葦。分かってなくて俺を呼んだのか…
「うん。すごいいい匂いすんの。フェロモンってやつ。」
「フェロモン…」
まだ理解出来ていないのかぼんやりとしている赤葦にもう一度薬は?と聞くと鞄を指さしたので漁ってみた。
その中にはまだひとつも飲まれていない様子で1袋まるまる残っている薬があった。
しんどそうな赤葦の代わりにキッチンにお邪魔してコップ1杯の水を用意する。
それを抑制剤とともに赤葦に渡した。
「…これ」
「お前の鞄に入ってた抑制剤。飲んだら良くなるから。」
そう言うと素直に薬を口の中に放り込み飲み込んだ。
「いい子。もう少ししたら効いてくるはずだから、俺はちょっと外にいるね。」
今これ以上赤葦といたら暴走しかねないと判断した俺はそう言って立ち上がった。
「まって、どこ行くんですか」
赤葦が立ち上がった俺の足にしがみついてきて動けなくなった。
「だから!俺αなの!お前のフェロモンで色々やばいんだって!」
「やだ、1人にしないで」
そんなこと言われたら流石に置いていく訳には行かない。
赤葦の隣に座ると膝の上に登ってきた。
普段なら絶対してくれない貴重なデレだ。
そのまま優しく抱きしめていたら薬が効いて落ち着いてきたのか赤葦はスヤスヤと眠ってしまった。
可愛い。でも発情期中にαと2人っきりで眠るとか無防備が過ぎる。
鍵開けっ放しだったのも含めて後で言い聞かせておかないと…
目が覚めると何故か木兎さんの腕の中にいた。
そして俺を抱きかかえている木兎さんも眠っていた。
色々とやらかしたような気しかしないがとりあえず木兎さんを起こそう。
「木兎さん」
声をかけながら軽く揺すっただけで目覚めたようだ。
本当に寝起きがいいんだよな、この人。
「あかーし、おはよ。」
「おはようございます。その、色々とすみませんでした。」
「全然!むしろ俺を頼ってくれたのうれしいし!」
「ありがとうございます。」
木兎さんを玄関まで見送ると念入りに 鍵を閉めるように と言われた。
言われた通りに鍵を閉め、部屋に戻ると静まり返っている部屋がいつも以上に寂しく感じた。
1度目の発情期は訳も分からず大変だったが2度目以降は生活に支障が出るほどではなかった。
そして現在、4度目の発情期が来ていた。
発情期は大体3ヶ月に1度のペースなので今は1月、冬休み中。
抑制剤を切らしていたが家に居ればいい。
そう思っていたのだがついさっき冷蔵庫を覗くと調味料類以外は何も無かった。
もちろん家に両親は不在。
少し迷ったけど体調も悪くないしαなんてそうそう出会うこともないだろう。
近所のスーパーくらいなら…そう思い俺は買い物に出かけた。
無事スーパーに着き、何日か分の食材を買うことが出来た。
ミッションをクリアした俺は完全に気が抜けていた。
帰り道で突然腕を掴まれるまで後をつけられていたことに気づかないほどに。
「ねぇ、君。Ωだよね?」
知らない男に腕を掴まれた。そんなことよりこいつがそれに気づいているということは…
さっと血の気が引いてすぐに逃げようとしたが腕を振り払うことが出来ない。
「その反応、やっぱりそうなんだ?」
「…離してください。」
「発情期中に外で歩いて、何?襲って欲しいの?」
早く逃げないと…どうすれば…
「ねぇ番は?いないの?いないよね?じゃあ、彼氏は?」
相手が腕を掴む力を少し弱めた隙を狙って逃げようとしたが結果は虚しくさらに強く掴まれてしまった。
そのまま路地裏に引き込まれ買い物袋が落ちた。
「俺が番になってあげるよ。男は興味なかったけどよく見たら可愛いし全然いけるわ」
片手で両手首を掴まれ男がズボンに手をかけてきた。
「やめっ…ぼくとさん…」
「なんだ。彼氏いたんだ?」
そういって笑いかけてきた。
もしかして解放してもらえる…
「まぁどうでもいいけど。むしろ寝取りとか最高じゃん」
ダメだ。
こいつに常識は通じそうにないから話しかけても無駄だろう。
でも嫌だ。番は木兎さんがいい。
そこにすぐ近くを中学生2人組が通りかかった。
それに男が気を取られた隙に思い切り脚を蹴飛ばし逃げることが出来た。
急いで路地裏を抜けて大通りに出る。
ひたすら家まで走って走って走ってようやく家にたどり着いた。
部屋の明かりがついていて鍵も空いていた。
家には珍しく両親が帰宅していた。
「京治、どこ行ってたの?てか冷蔵庫空っぽなんだけど」
今まで頼りにしていなかった両親だが今は1人になりたくなかったので嬉しかった。
先程あったことを2人に話したらきっと慰めてくれる。
そう思ってしまった。
話を聞き終わって両親が俺に行った言葉は
「どうせならちゃんと犯されてこいよ。そしたら警察なりなんなりできたのに。」
「ほんとに要領悪いよね。」
言葉が出てこなかった。
物心ついたころから親らしいことされた覚えもない奴らに勝手に期待した俺が馬鹿だった。
「ごめん。俺、買い物袋置いてきちゃったから取りに行ってくる。」
たった今帰ってきたばかりの家を飛び出して俺は走った。
さっきのスーパーの道とは反対方向の駅に向かって走っていた。
そして気づけば木兎さんの家の前に来ていた。
冷静になって考えてみたら普通に迷惑だな…でも家に帰るのも嫌だな…
思い切ってインターホンを鳴らしてみたが留守のようだった。
他に泊めてもらえる当てもないしどうしたものか…
「あなた、光ちゃんの知り合い?」
大学生くらいの女性に話しかけられた。
光ちゃんとは木兎さんのことだろう。
「そうです。」
「私、光ちゃんの姉!でね、私も光ちゃんに用事があったんだけど 留守だった?」
「はい。」
顔や見た目は似てないのに雰囲気というか喋り方が木兎さんに似ている。
「ちょっと連絡してみるね!待ってて!」
そういって木兎さんの姉は電話を始めた。
木兎さんに前聞いた話によると1番上の姉は社会人で歳の近い方の姉が大学生と言っていたので彼女は木兎家の次女だろうか。
「今、実家に帰ってるみたい!一緒に行こ!」
実家にまで押しかけるつもりはなかったのに木兎さんの姉に当然の如く連れていかれついに来てしまった。
「ただいま〜!」
「おかえり、姉ちゃん!…あれ?赤葦!?」
やっぱり急に来たら驚くよな…
「光ちゃんの家の前に居たから連れてきたよ!」
「え!赤葦なんかあった?」
その時中から木兎さんの母親らしき人物が出てきた。
「あなたたち寒いでしょ。とりあえず上がりなさい。」
「ほら、赤葦くんもおいで」
「お邪魔します。」
家の中までお邪魔することになって本当に申し訳ない。
せっかくの実家での家族の時間を邪魔するくらいなら来なければよかった…
「赤葦は俺の部屋来る?」
「あ、はい。お邪魔します。」
木兎さんについていき部屋に案内された。
木兎さんが引っ越したからだろう、前に来た時よりもものがなくてスッキリとしていた。
ベットに座るよう促され木兎さんの隣に腰をかけた。
「赤葦 急にどうしたの?」
「あ…急に押しかけてすみません。」
「あ〜そんなつもりで言ったんじゃなくて!何かあった?」
急な来訪に対して攻めることも無くひたすら俺の心配だけしてくれる木兎さんにこれ以上迷惑はかけたくなかったけど、キャパオーバーな出来事を消化しきれなかった俺はそれを吐き出すかのように全てを木兎さんに話し始めた。
「赤葦ッ…ごめん。守ってやれなくてごめんな…」
そう言い目に涙を貯めた木兎さんに抱きしめられて涙が止まらなくなった。
「木兎さんが…っ、謝ることじゃないです…俺が悪いから…」
木兎さんは「赤葦は悪くないよ」と言いながら俺が落ち着くまで抱きしめてくれた。
「ねぇ、赤葦。俺と番になってくれませんか」
「俺で良ければ。」
「いいの!?」
まだ気持ちの整理がとか言ってずっと返事を先延ばしにしていたがずっと前から分かっていた。
「俺、木兎さんとじゃなきゃ嫌だ…」
「赤葦」
木兎さんに突然押し倒される。
「え…今すぐですか?」
「嫌だ?」
「いや…では無いですけど。木兎さんの家族いるじゃないですか…」
「大丈夫!鍵閉めとくから!」
木兎さんの家族は1階にいてここは2階だし…大丈夫…なのかな。
「わかりました。お願いします。」
初めての行為でお互い慣れない手つきだった。
俺の発情期もあって木兎さんはかなり興奮している様子。
でも木兎さんの愛を直で感じられとても暖かかった。
「赤葦、可愛い」
「可愛くないです」
「可愛いよ。 ねぇ赤葦、噛んでもいい?」
理性なんてとっくに残っていないだろうに俺を大切にしようとしてくれているのが伝わってきた。
「噛んで、木兎さん。俺 木兎さんの事、世界一愛してます。」
ガリッと思い切り項を噛まれた。
痛い…けど幸せで、この人のものになれたんだなと思ったら嬉しくて涙が溢れてきた。
「ごめん、赤葦!痛かった?」
「大丈夫です。ただ…嬉しくて」
「ホントに赤葦可愛すぎ」
その後、後処理とか諸々は木兎さんがやってくれた。
というか俺は体力の限界で動けなかった。
「誰かさんが何回もやるから…俺、初めてなのに」
「ごめんって!でも赤葦のフェロモンやばいんだって!」
「冗談ですよ。それより、これでちゃんと番になれたんですかね?」
「確認してもらう?」
「えっと…?誰に…?」
「ねーちゃん!」
木兎さんの提案に理解を苦しんでいたら木兎さんが「1番上のねーちゃんもαなんだ!」と付け足した。
「つまり、木兎さんのご家族に報告するってことですか」
「まぁそういうこと?せっかく実家にいる訳だし!早く自慢したい!」
「いや、心の準備が…」
「大丈夫!母ちゃんも父ちゃんも姉ちゃん達もみんな優しいから!」
そういう問題ではないのだが俺は嫌なことは早めに終わらすタチだ。
深呼吸をして覚悟を決めた。
「菓子折りだけ買ってくるのでもう少し時間下さい。」
「今の雰囲気、覚悟決めたんじゃなかったの!?菓子折りとか気遣わなくて大丈夫だって!」
木兎さんと共に1階におりてリビングに行くと木兎さんの両親と姉達が揃っていた。
そして木兎さんが話があると切り出した。
「というわけで赤葦と番になりました。」
「あっ…えと、光太郎さんとお付き合いさせて頂いてます。赤葦京治です。」
木兎さんに紹介されて緊張しつつも頑張って喋った。…のに
「光ちゃんの言ってた可愛い黒髪ショートの美人が恋人って本当だったんだ!」
「私も拗らせた弟の妄想だと思ってた。」
木兎さんの2人の姉に取り囲まれていた。
「それで、ねーちゃん。俺と赤葦、ちゃんと番になれてる?」
木兎さんがそう聞くと木兎さんの姉、年の離れた方 が俺の側に来た。
「私も番がいるから誘惑はされないけど匂いは分かるはず、でも安心しな全然匂いしないよ。光太郎の匂いがベッタリだからね。」
「良かった〜!な、赤葦!」
「はい。」
やった〜と子供のようにはしゃいでる木兎さんは放っておこう。
そこでお姉さんに話しかけられた。
「光太郎と番か…ちょっとうるさいけど赤葦くんのこと溺愛してるから。ちゃんと幸せにしてもらいなね」
「はい。えっと、木兎さ…光太郎さんのお姉さんも番がいるんですね。」
「うん。この間結婚したの。」
「結婚。」
「そう!幸せ真っ盛り。 ていうかお姉さん呼びおかわりいい?呼ばれたことなくてさ…」
「ずるい!私もお姉ちゃんって呼んで!」
もう1人の姉が再びやってきてまたもや取り囲まれてしまった。
「ちょっと2人とも俺の赤葦を困らせないで!…でも俺も光太郎さん呼びおかわりしたい。」
……To be continued
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