テラーノベル
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鍬の強化によって作業効率は上がったものの、それでも耕すべき土地は広い。
セリオは黙々と鍬を振り続け、汗を拭う。
魔界に来てからというもの、戦うか休むかの生活だったが、こうして体を動かしていると生前の騎士団での訓練を思い出す。
「ふむ……」
ようやく一区画を耕し終えたところで、セリオは土をすくい上げてみた。
やはり痩せている。これではまともに作物を育てるのは難しいだろう。
「……肥料がいるな」
セリオは鍬を片手に立ち上がり、館の周囲を見渡した。
森の魔族たちが移住してきた影響か、以前よりも植物の成長が活発になっているように見える。
「魔界の植物が使えればいいが……」
試しに森へ向かい、見慣れない植物の葉を摘んで匂いを嗅ぐ。
「……悪くない」
生臭さもなく、むしろ薬草のような香りがする。
「それ、魔肥草よ」
背後から声をかけられ、セリオが振り向くと、リゼリアが木の根元に腰掛けてこちらを見ていた。
「魔肥草?」
「森の魔族がよく使う肥料になる草よ。そのまま土に混ぜると栄養分を蓄えてくれるの」
「そうか、ちょうど肥料が欲しいと思っていたところだ。助かる」
「ふふ、お前がこんなに真剣に農業をするなんて、少し意外ね」
「食糧の確保は生きる上で重要なことだ」
リゼリアはくすっと笑いながら、魔肥草の束を軽く振った。
「なら、これも持っていくといいわ」
「お前、持っていたのか?」
「ふふ、ちょっとした研究用にね」
「なら遠慮なくもらう」
セリオは魔肥草の束を受け取ると、館の耕した土地へと戻った。
そして、リゼリアからもらった魔肥草を細かくちぎって土に混ぜ込み、じっくりと馴染ませる。
「……よし、これで土は少しは良くなるはずだ」
セリオは満足そうに息を吐き、次に植える作物を考え始めた。
魔界の土を耕し、育てる生活。
それは、これまでの戦いとは異なる、穏やかで充実した時間だった。
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