コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(うーん、なんて言うか、思ってたのと違うんだよね……この人、結構ぐいぐい来る感じだなぁ……もう少し大人しめの人かと思ってたのに)
隼人は見た目クールな感じなのだけど、案外喋るタイプらしく話し出すと止まらない。
それはまあ退屈しなくていいのだが、咲結としてはもう少し適度な会話量が理想なのだ。
(しかも何か軽いんだよなぁ、隼人くん……明らかに女慣れしてるよね。まぁ、イケメンだししょうがないかもしれないけど……)
話せば話す程理想とかけ離れていき、彼への想いは一気に冷めていく。
そんな中で出て来た『彼氏に立候補してもいいのか』という言葉に、どう断ればいいか頭をフル回転させながら考えていた。
「えっ……と、いきなりはちょっと……出来ればお友達からがいいかな?」
考えに考え、この場の雰囲気もある事からこれが最善だと咲結は『友達から』という提案を隼人にする。
「あーそうだよね、いきなり過ぎたよね、ごめんごめん。それじゃあ友達からって事で、連絡先交換しよっか」
「う、うん」
咲結の提案を快く受け入れた隼人が連絡先を交換しよと言うので、気乗りしない咲結だったけれどスマホを取り出して連絡先交換をした。
それから皆んなでカラオケを楽しみ、四時間程が経ったところでお開きとなった。
「咲結ちゃん、ちょっといいかな?」
帰り際、一人で駅に向かおうとした咲結に声を掛けてくる隼人。
「何?」
「あのさ、この後少し時間ある?」
「あーごめん、今日はもう遅いし、帰ろかなって」
「本当に少しでいいんだ、話出来ないかな?」
「……じゃあ、少しだけなら」
「本当に? じゃあ近くに知り合いの店があるからそこでお茶でもしようっか」
「う、うん……」
少しでいいならその辺で済ませればいいのにと思いつつ、駅近くで人通りも多いから仕方ないかと割り切った咲結は隼人に手を引かれて知り合いの店とやらについて行く。
駅から少し離れて人通りは疎らになり、辺りを見渡すとホテル街に来ている事に気づく咲結。
「あの、隼人くん、知り合いのお店ってまだ――」
「咲結ちゃん、やっぱり話すなら個室の方が良くない?」
「え?」
「さっきは場の空気もあるし友達からってので納得したけど、俺ら子供じゃねぇし、そんなまどろっこしいのは止めようよ。ね?」
「あの……隼人くん?」
隼人は急に口調を変えてきたのと同時に、すぐ側のホテルの外壁に手をつくと咲結を壁に追い詰めて迫り始めた。
「なぁ、いいだろ? 友達からとか面倒くせぇし、とりあえず付き合おうよ。別に付き合うくらい問題無くね? そりゃ付き合ったらやる事はやるけどさ……。あ、もしかして初めてだから怖いとか? 大丈夫、俺処女と付き合った事もあるから優しくするし。不安な事はないからさ。何なら今からでもいいし」
その言葉で、咲結の心は完全に冷えきった。
(何なのコイツ、デリカシー無さ過ぎなんだけど! こんな奴を良いと思ってたとか……私、見る目無さ過ぎ……)
こうなると一刻も早く離れてこの場から立ち去りたいと思う咲結だけど、壁に追い詰められているせいで逃げられない。
「あの」
「何?」
「こういうの、本当に困るんだけど」
「あ?」
「友達からって言ったのは付き合う気がないから。話してみて全然理想と違うと思ったからだよ」
「は? お前何様? ちょっと可愛いからって調子乗ってる?」
「そんな訳ないでしょ?」
「人が下手に出てれば良い気になりやがって。ムカついた。来いよ!」
「っ痛!!」
強気な口調で言い返した咲結に苛立った隼人は怒りを露にしながら強引に腕を掴むと、
「やっ! 離してよ!」
「うるせぇよ、黙って付いて来いって!」
嫌がる咲結の腕を無理矢理引っ張ってすぐ側のラブホテルに連れ込もうとする。
「ヤダってば!」
制服姿の男女が言い合い、女の子が連れ込まれそうな状況なのにも関わらず通りがかる人は足を止めずに通り過ぎて行く。
(もうやだ……何でこんな目に遭うの……)
言い合いならば負ける気はしない咲結も男の力には敵う筈もなく、この危機的状況をどう切り抜ければいいか考えながら必死に抵抗していると、
「おいおい、騒ぎ声がすると思って来てみりゃ……またお前かよ……」
覚えのある声が咲結の後方から聞こえてきた。