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確かめずにはいられず、僕は走った。
近くのコンビニへ駆け込むと、自動ドアが「ピンポーン」と無人の空気に鳴り響いた。
蛍光灯が明るすぎるほどに光り、陳列棚にはパンや弁当が整然と並んでいる。
冷蔵ケースのファンが低い唸り声を立て、揚げ物コーナーからは油の匂いが漂っていた。
だが、店員はいない。
レジには小銭が散乱し、レシートが半分吐き出されたまま止まっている。
レシートには「午前7時32分」の時刻が印字されていた。
まるで、数十秒前まで会計をしていたかのように。
おでんの鍋からはまだ湯気が立ち、たまごがぷかぷか浮いている。
誰かがここにいた。
だが、突然消えた。
僕は息をのんだ。
目の前にある「生活の痕跡」と、そこにいない「人間」との矛盾が、頭の奥をじわじわと締めつける。
気がつけば僕は街中をさまよっていた。
駅前。
ロータリーに止まったバスのエンジンはかかったまま、窓ガラスの中は空っぽ。
アナウンスは「次は……」で途切れ、スピーカーから細く途切れた雑音だけが流れている。
学校の校門をのぞくと、校庭に転がったボール。
教室にはノートや筆箱が机に広がり、黒板には「数学テスト」と大きな字で書かれている。
途中で止まったままの授業。
交差点では車が信号を待っていたように並んでいるが、ハンドルを握る人間はいない。
青に変わっても誰も発進せず、ウインカーがカチ、カチ、と無意味に点滅し続ける。
街はまるで一瞬にして時間が止まったようだった。
ただし、止まったのは「人間」だけ。
僕は喉がひりつくほどの乾きを覚え、声を張り上げた。
「誰か……! 誰かいないのか!」
叫びは高層ビルに反響して返ってきたが、それ以上の返事はなかった。