【 1話 】
※多田ちゃんが登場します
※不幸体質ネタぶちこみます(ニッコリ)
※冬設定。今現在みたいな時間です
※ぴゃ~!吉良くん出してぇ~!!
「行ってらっしゃい、世っちゃん」
「ああ、行ってきます母さん!」
元気に母である伊世にそう言うと、自転車に跨がり漕ぎ始めた。段々と実家から距離が遠くなっていく。自分の頬を撫でる風がとても気持ちいい。
いつもと同じ景色。始発の電車だろうか、とても早いスピードで走っていく。
(俺、実家生活…そろそろやめようかな)
もう自分は大学二年生。そろそろ独り立ちしても可笑しくない年頃。多田ちゃんにでも聞いてみるか、と思った。情報に鋭い多田ちゃんなら、きっといいアパートを見つけてくれるだろう。
ベチョ、と頭の上から何かついたような音がした。自転車を一旦止め、人差し指で”それ”を掬ってみると、まさかの鳥の糞だった。
「アーッ!?最悪!!!!」
ハンカチをすぐさまポケットから取り、犠牲になってしまった人差し指を拭き取ろうとする。
…がしかし、ハンカチを落としてしまった。しかも昨日の雨で作られてしまった水溜まりだ。黒く濁っている。潔はため息をつくと、水でぐしゃぐしゃに濡れてしまったハンカチをそっと取った。一応誕生日プレゼントとして貰ったものなのに…と落胆する。
体制を崩したからか、自転車が傾いてしまい、自転車ごと水溜まりに突っ込んでいってしまった。勿論、潔の下半身は水溜まりを踏んでしまったのでぐしゃぐしゃに濡れてしまったのである。
「えぇ…?まじかよ……」
はぁ、と本日二回目のため息を溢す。パッパッ、とついてしまった砂と水を払い、荷物をかごに入れて実家の方向へとまた漕ぎ始めた。
どうして、こんなに潔が慣れているかって?
____潔世一は、不幸体質だから、こんなことがよくあるのだ。
嗚呼、今日も講義に遅刻するかもしれない。
と、潔は本気で思った。漕いでいる力を最大限に出し、実家に猛ダッシュした。
「っていうことがあったから、今日の講義も遅刻したんだよ」
「っははは!お前の不幸体質は相変わらずだな~!!三連コンボじゃねぇか!」
「う、うっさいな多田ちゃん!!」
ゲラゲラと笑うのは、潔の知り合いである多田ちゃんこと多田友也。高校時からのよき友達だ。
潔の不幸体質事情は、彼がよく知っている。いつものように体質の愚痴を聞いてやっている彼は、案外いい奴なのかもしれない。否、きっとそう。
多田の奢りで買った暖かいココアをチビチビとゆっくり飲む。潔自身、猫舌だから暖かいものには敏感なのだ。
「で?相談ってなんだよ」
“俺彼女できたから早く終わらせてぇんだけど!”と、無駄な一言を告げた。前例撤回。こんな奴いい奴ではなかったようだ。
潔はムスッ、と気にくわなさそうな顔をしながら口を開いた。
「あのさ、俺独り暮らしそろそろ始めたくて。安くていいところない?」
「はぁ?不動産屋に聞けや!俺はそんなに暇人じゃないんだよ~!」
「…フッ、じゃあこれを出されても言えるのか?」
嫌だ嫌だ!と、駄々をこねる多田に、潔はある紙をチラチラと見せた。……諭吉である。それも二枚。大学生にしてはとてもじゃないが大金だ。しかも、いいところを進めるだけでその大金が貰えるだなんて。なんて美味しい話なのだろう。
多田は激しく首を上下に縦へ動かす。潔は満足そうに笑うと、もう一口ココアを飲んだ。
その後、進められたアパートに不動産屋と共に行ってみると、安いし広いしで一発合格だった。
ちなみに両親からは泣きながら了承を貰ったらしい。
今日は、潔の好物のきんつばを持って、家主の部屋へ来たのだ。色々な手続きを終え、やっと此方に移住することができたから、これからお世話になりますという感謝の気持ちを込めて買ってきた。
ピーンポーン、とインターホンが鳴る。インターホン自体は結構昔風な物だ。だが、ボロボロなアパートよりはましだろう。
「……はい、潔さん…ですよね。家主です」
「あっ…家主さん、改めまして潔世一です!これからお世話になります!ご迷惑にならないのでしたら、これ受け取ってくれたら嬉しいです」
「…!まぁ!きんつば?ありがとうございます!有り難く貰っておきますね!」
嬉しそうにニコニコと笑う家主さん。ゆったりとした服を着ていて、優しげな人だ。優しそうな人でよかったぁ…と安堵していると、”でもね”と、家主さんが眉を下げて口を開いた。
「気を付けてね、潔さん。…その、あなたの部屋って訳アリだから…」
「…?わ、訳アリ?」
「ええ。そうなのよ。あなたの部屋ってね…あっ!あらいけないっ、私パートだったわ!
…申し訳無いわね、もう仕事なの。また今度、ゆっくりお話しましょうね!」
「エッ、ちょ______」
呼び止めたが、家主さんは急いで荷物を持って行ってしまった。”訳アリ”の意味がよくわからなくて、少しモヤモヤする。でも、モヤモヤしてもしょうがないので仕方なく自分の部屋に戻った。
まだ整理整頓もされていない自分の部屋。ほとんど置いてあるものが段ボールであり、引っ越してきてまだ日が経っていないのがよくわかる。
ポツン、と置いてある一丁前に新しく買ったベッドに寝っ転がる。真っ白な天井をボーッと見つめ、さっき言われたことを妄想し始めた。
…もしかして、ここ事故物件とか?
それか、変なことが起きる部屋とか?
…うわ、全部あり得る。訳アリなんだから、全部含まれても可笑しくないだろう。
グー…と、腹の音が鳴る。そういえば、朝から何も食べていないことに気がついた。ベッドから起き上がり、何か作ろうと思いキッチンへと向かった。
向かった時だった。
“黒い影”が、潔の目の前を通っていったのは。
コメント
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こわあああいいい
潔幽霊にもモテるのね.....流石だわ((?))