テラーノベル
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🌸視点
俺は半ば強引に、すちを連れ出した。
人通りの少ない事務所の屋上、 重い扉を開けると、少しだけ強い風が吹き抜けた。
「あのっ、!」
後ろから、すちの慌てた声がする。
「俺、タバコ吸いませんし!それにここ、喫煙所じゃないですよね!?」
「いいよいいよ、バレないって笑」
適当に返しながら、俺は懐へ手を入れる。
そして 取り出したものを見た瞬間
すちの目が、大きく見開かれた。
「ココアシガレット…???」
「あはは」
俺は一本取り出して笑う。
「非喫煙者でした笑」
「……」
完全に拍子抜けした顔。 さっきまであんなに怒っていたから、てっきり文句でも言われると思った。
「よかった…」
すちは、小さく息を吐いた
俺は 柵へ近づき、手をかける。
箱から取り出した、白とピンクの境目みたいな色をしたココアシガレットを口に咥える 。
「あの監督が担当って決まった時、 嫌だった?」
すちは少し黙った。
風が、緑色の髪を揺らす。
「……はい」
やがて、小さな声で答えた。
「あの監督が実写化する映画って、 賛否両論とか、炎上とか…結構多くて。 嫌ですって、マネージャーに言ったんです」
すちの視線が落ちる。
「けど… 気づいたら、話が進んでて」
「あー……」
俺はココアシガレットを指でくるくる回した。
「そーいうマネはクビにした方がいいよ〜?」
「え」
すちが顔を上げる。
「嫌だって言ったのに、勝手に進めるとか、
マネージャーとしてどうなの?って感じじゃない?俺だけ?」
「…っ、」
「すちさんは原作者なんだから」
俺はちらりと彼を見る。
「作品について意見を言う権利、普通にあるでしょ。」
「でも…俺が、わがまま言ってるだけなのかなって」
「は?」
「実写化するために、たくさんの人が動いてて、 俺一人が嫌だって言って、 全部止めるのは…酷いんじゃないかって」
「いやいやいや」
俺はすぐに遮った。
「そこじゃないって!」
ココアシガレットを口から外す。
「すちさんが嫌なのは、実写化そのものだけじゃないでしょ? 自分の作品を適当に扱われるのが嫌なんでしょ?」
「……はい」
「なら、ちゃんと言えばいいじゃん」
俺は笑う。
「うちの子達は、こんなんじゃないって」
「……」
「さっき、めちゃくちゃ言ってたけど笑」
「うっ、…すみません…」
「正直、俺は嫌いじゃなかったよ」
「えぇ…」
屋上に、少しだけ沈黙が落ちた。
すちは、手元を見つめていた。
「……俺」
小さな声
「自分の作品のことになると、 昔から、余裕なくなるんです」
苦笑いしたすちは、どこか寂しそうな顔だった。
「いいじゃん」
俺は即答した。
「余裕なくなるくらい、大事なんでしょ?」
「はい……大事です」
すちは、迷わず答えたが、 その声はあまりにも小さかった。でも、 さっきまでよりも、ずっと真っ直ぐだった。
「そっか」
俺は口に咥えていたココアシガレットを取り出す。
「じゃあ、脚本家と監督で話し合ってみたら?」
「……」
「少しくらい、わがまま言いなよ」
すちが、ぱっと顔を上げた。
「っ…はい…!」
その返事には、さっきまでなかった力が戻っていた。
「よーし!」
ぱんっと両手を叩いた。
「現場戻ろ?」
「あ、はい!」
「今回の撮影は、さすがに今すぐ全部変えられないと思うけど」
屋上の扉へ向かいながら続ける。
「演者には、こう演じて欲しいとか、 キャラクターは本当はこういう子ですーとか、 一応伝えときな」
「あ……」
すちが立ち止まる。
「はい!」
今度は、はっきりと頷いた
「せっかく原作者が現場にいるんだからさ、 俺らも、使えるもんは使わないと!」
「っ、笑 そーですね。使っちゃってください」
俺らが1歩歩いたその時
バン!!!
屋上の静かな空気を切り裂くように、重い扉が開いた。
「「!!」」
扉の前に立っていた人物を見て、すちの目が大きく見開かれた。
「はぁ、はぁ…よかった…居った…」
そこにいたのは、みことだった。
息が上がっている。
肩が大きく上下し、額にはうっすらと汗が浮かんでいた。 黄色い髪も少し乱れていて、ここまで急いで走ってきたことが一目で分かる。
「っ、みこ…ちゃん……」
すちが小さく名前を呼ぶ。 その声を聞いた瞬間、 みことの表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
「すちく…
そう言いかけた みことは、はっと口を閉じる。
そして視線を少し逸らしえ
「……夏目…さんとらんさん、探しましたよ」
その呼び方に すちは、わずかに目を伏せた。
けれど今は、そんなことを気にしている場合じゃなかった。
「何かあったの?」
俺が聞くと、 みことは乱れた呼吸を整えながら、俺たちを見る。
「今回の撮影…中止やって…」
「え?」
すちの表情が固まった。
みことは少し言いづらそうに言葉を探す。
「監督が、夏目さんの言ってたことに怒って、帰っちゃったんです…」
「あちゃー…」
俺は思わず空を見上げた。
予想していなかったわけではない。 あの監督の顔を見れば、怒っていることくらい分かっていた。
(プライドが高そうなあいつが、大人しく話し合いに応じると思っていなかった訳では無いけど… まさか撮影を放り出して帰るって、 どこまで阿呆なんだか…)
「っ……」
すちの肩が、小さく揺れた。
俺は横目で見る。
「俺の、せいで…」
ぽつり。
消えてしまいそうな声だった。
さっき屋上で、 あんなに大切だと言っていた 自分の作品をら 自分が生み出したキャラクターを
それを守りたくて、 勇気を出して、 やっと自分の気持ちを口にした。
だというのにその結果、 撮影が中止になった。
「……」
すちは俯く。
「俺が…あんなこと言わなければ…」
「ううん」
俺はすぐに否定すると、 すちが驚いたように顔を上げた。
「すちさんは悪くないよ?」
「でもっ、!」
「むしろ」
俺は少しだけ笑った。
「俺としては、あの監督には少しくらい反省してもらいたいくらいだし!」
「……」
「自分の作品を大事にしてる原作者が意見言っただけで、怒って帰るって何?」
肩をすくめる。
「子供じゃないんだからさ」
すちは、まだ不安そうな目をしていた。
だから俺は、もう一度はっきりと言った。
「すちさん」
「…はい」
「さっき、俺に何て言ったっけ? 作品、大事なんでしょ?」
「……」
すちは少しだけ目を伏せる。
そして。
「……はい」
「なら、それでいいじゃん」
俺は笑った。
「大事なものを守ろうとしただけなんだから」
「……」
すちの目が、少し揺れる。
「それにさ」
俺は屋上の柵にもたれながら、みことの方を見る。
「撮影が中止になった原因を、全部すちさん一人に押し付けるのもおかしいでしょ。 ちゃんと話し合えばいいだけなんだから」
風が吹いて すちの深い緑色の髪が、さらりと揺れた。 しばらく 誰も喋らなかった。
すると、その空気をみことが引き裂いた
「俺も、そう思う…」
「みこ、ちゃ…」
「撮影が中止になったんは」
みことは、まっすぐすちを見る。
「すちく… 夏目さんが、悪いことしたからじゃないよ。」
その声は優しかった。
けれど、 どこか苦しそうにも聞こえた。
(やっぱり…この2人は、なんかあったのかな?気になるけど、今は聞くべきじゃないよね。空気の読める男、さすが俺)
「とりあえず!」
俺はわざと明るい声を出した。
「撮影中止なら、今日は仕事終わりってことでしょ?」
「……え?」
「せっかくだし、飯でも食べに行こーよ」
「ご飯…」
「この時間帯なら、あそこ空いてるかなー…ほかの演者さんとかも集めてさ!ね?」
「そう…ですね、少し迷惑かけちゃいましたし、奢りますよ」
すちがそう小さく笑った
「っっしゃぁぁ!!!おごりだおごりー!✨️」
「ら、らんさん…少しは遠慮した方がええんじゃ…」
「いやいや、世の中遠慮しすぎるのもアレだからね!グイグイ行かなきゃ!✨️」
「えぇ…」
「ふふっ、笑」
すちが、ほんの少しだけ笑った。
その笑顔を見て、 俺は内心少しだけ安心した。
さっきまで、 自分を責めるように俯いていた顔が、 ほんの少しだけ 前を向いた気がしたから。
📢視点
「ということで!」
らんが、どんっとジョッキを掲げた。
「今回は、すちさんの奢りでーす!!夏目さんに感謝しなよ!かんぱーい!!!」
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
カチン、と。
六人分のグラスがぶつかる音が、個室に響いた。
「……」
俺はジョッキを口元へ運びながら、今日一日の出来事を思い返していた。
突然の撮影中止に 空いてしまったスケジュール。 そして なぜから らんに半強制的に連れてこられた飲み会。
場所は駅前の居酒屋、 六人用の個室。 集まっているメンバーは、 なつ、 俺、 らん、 すちさん、 みこと、 こさめ。
……なんでこうなった。
「ええっ、奢りなのー!?⸝⸝✨️」
こさめが目を輝かせながら、勢いよくメニュー表を開いた。
「こさめ、何食べよっかなぁ!」
完全に遠慮する気がない。
「いいんですか?」
なつがすちさんを見る。
「しかも六人って」
そう言いながらも、 すでに目の前のタッチパネルを操作していた。
しかも
(高いの頼んでる…)
画面に表示される値段を見て、俺はそっと目を逸らした。
「漢気ありすぎっすよ、夏目さん」
「迷惑かけちゃったし、お詫び……みたいな?」
すちさんは一瞬高いのを頼まれて、笑顔が引きつったが、すぐ取り繕うにに笑った。
本当に優しいな、この人
…というか
原作者って、そんなに稼ぐのか?
「そういえば」
らんがタッチパネルを操作しながら口を開く。
「確か、一億六千四百万部売れてるんですよね?」
「あぁ、はい」
すちさんが頷く。
「一億六千四百万部って…」
らんが、なぜか俺を見る。
「どれくらい稼げてんの?」
「は?」
「いるまくん、調べてー!」
こさめまで便乗してきた。
「人任せかよ…」
俺は呆れながらスマホを取り出した。
「いや、でも漫画家って印税あるんでしょ?
印税率とか契約によって全然違うから、正確には分からないからな…」
そう言って、 俺は検索画面を開いた。
その間にも
「これ美味しそう!」
「頼んでいいよー」
「やった!」
「なつさん、それ高くない?」
「奢りらしいから」
「お前さぁ……」
「いいよいいよ、食べな?」
俺は画面を見ながら、ふと思った。
(……)
今日の昼間。
スタジオでは あんなに重い空気だった。 みこととすちさんの間には、多分何かしらの言えない過去があって。 すちさんは作品を守ろうとして、 監督は怒って帰った。
それなのに今、 六人で同じテーブルを囲んでいる。 こさめはメニューに夢中で、 らんは好き勝手注文。 なつは遠慮なく高い料理を選び、 みことは小さく笑っている。
すちさんは、その様子を見ながら笑っていた
……不思議な光景だった。
でも、なんだか気分は 悪くない。
「で?」
なつが俺を覗き込んだ。
「どれくらい?」
「……まだ調べてる」
「遅」
らんがなつの肩に腕を置いた。
「 なつと距離近い。離れて」
「紫、仕事遅いぞー!」
こさめが届いたイカの塩辛をつまみながら言う。
「うるせぇ…💢」
「ははっ、笑⸝⸝」
なつの笑っている顔を横目で見ながら。
(……今日、撮影中止になって良かったかも)
なんて、 少しだけ思ってしまった。
「単行本一冊が500円として」
俺はスマホを見ながら呟く。
「印税10パーセントで仮定すると…一億6400万部×50円だから……」
計算アプリを開こうとした、その瞬間。
バンッ!!!
「82億!」
俺は思わず肩を跳ねさせた。 こさめが机を早押しボタンみたいに叩いていた。
「こさめちゃんすご!✨️」
みことが目を輝かせる。
「えへへ〜!」
こさめは得意げに胸を張った。
「…合ってるわ」
俺は計算アプリを開き、表示された数字をみんなに見せる。
「ほんとだ!」
「すごーい!」
「……」
俺はこさめを見る。
「雨乃小雨…」
スマホでプロフィールを確認する。
「あぁ、東大卒業してるんだっけ?」
「そ!✨️」
こさめがさらに胸を張る。
「こさちゃん、天才なんだよね〜」
「自分で言うんだ」
「事実だから!」
「強い」
なつが小さく笑った。
1時間後
「すぅ、すぅ⸝⸝」
なつが、俺の膝の上でぐっすりと眠っていた。 本当に気持ちよさそうに、夢の中へ行ってしまっている。
(お酒弱いって、本当だったんだ…)
俺はぼんやりと、その寝顔を見つめた。
(…可愛い)
俺自身も酒に強いわけじゃない。 頭が少しふわふわしている。 周りの声も、いつもより遠く聞こえる。
でも
(なつが可愛い)
それだけは なぜか、はっきり分かる。 俺はそっと、なつの髪が顔にかからないよう耳へかけた。
すやすやと眠る姿。
無防備すぎる。
(可愛いなぁ…⸝⸝)
ふと顔を上げると。
みことが、顔を真っ赤にしてふわふわしていた。 完全に酔っている。
「みこちゃーん、大丈夫そ?」
らんがみことの前で手を振る。
「…ん〜……?」
みことはゆっくり顔を上げた。
「大丈夫……♪⸝⸝」
全然大丈夫そうじゃない。
「すっちー、お酒強いんだねー!」
こさめが楽しそうに言う。
「こさめちゃんこそ」
すちさんが笑った。
「弱そうなのに、意外」
「こさめ酒豪だよ!」
わいわい がやがや
個室の中は、相変わらず騒がしい。
(……騒がしいな)
俺はもう一度、膝の上のなつを見る。
(でも、今なら)
その瞬間。
酔った勢いというのは、本当に怖いものだと思った。 普段なら、 絶対にしない。
いや、 しちゃいけないと分かっていること
頭が回っていないはずなのに、 なぜか、この瞬間だけ、 余計な考えが浮かんでしまう。
俺は少しだけ、なつへ顔を近づけ_
「んぅ……?⸝⸝」
「!」
なつが、ぱちりと目を開いた。
俺は反射的に、 ぱっ! と顔を上げた。
「……」
「……」
赤い瞳が、俺を見上げている。
「……いるま?」
「は、はい!」
「なんでそんな近いの?」
「……」
(終わった)
酔いが、一瞬で冷めた気がした。
「ご、ごみが着いてたから…」
俺はとっさにそう答えた。
「……そう」
なつは、それだけ呟いた。
疑っているのか 信じているのか、 よく分からない。 またゆっくりと目を閉じると、そのまま俺の膝へ頭を預けた。
「……」
(助かった…?)
俺が内心ほっとしていると
「いるまの匂い」
「……え?」
「いい匂いする……」
「っ、⸝⸝」
心臓が跳ねた。
なつは俺の服に少しだけ顔を寄せる。
「なんか、香水使ってんの?」
「え? あ、ぁ…はい」
「ふーん…」
眠そうな声。
「俺も同じのつけたいから、 メーカー、教えてよ」
「えっ!?」
思わず声が大きくなった。
「い、いいの?」
「……うん」
なつは薄く目を開ける。 そして、 少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らした
「お揃いにしたいの…」
「……………」
(は?持ち帰りたいんだけど?)
「……いるま?」
「はい」
「返事早、笑⸝⸝」
なつは楽しそうに頬をあかくさせたまま、にへっと笑うとまた目を閉じた。
俺は、 動けなかった。
膝の上には、ぐっすり眠り始めたなつ。
周囲では
「みこちゃん、飲み物こぼすなって〜!」
「こぼしてないもん……♪」
「こぼしてるよ!」
「すちさん、止めて!」
「なんで俺が!?」
相変わらず、騒がしいけど、 俺の頭の中には、もう何も入ってこなかった。
(……お揃いにしたい)
その言葉だけが、 何度も 何度も、 頭の中を繰り返していた。 俺はそっと、自分の胸元を押さえる。
(持ち帰る自信しかねぇ〜〜〜)
コメント
4件
とりあえず監督を殴りたい……原作者の意見を尊重しなさい!!() 茈赫が可愛すぎてどうにかなりそうでした。やっぱりお酒が絡むといいですね 赫さん可愛い…🙂↕️🙂↕️ ぜひ持ち帰って欲しいけど 寸前で何とか我慢してる茈さん好きです((
投稿された瞬間に見たのに途中で習い事挟まった…(泣) 1回読み直してからのコメントです……… とにかくきゃわちぃ…。可愛い(泣)それは反則だよ❤️っちゃん!! どうぞそのままお持ち帰りしていただいても大丈夫です。 最高です。ご馳走様でした
あっぶねぇ…親の前でニヤけるところだった… もう最っ高過ぎてやばぁい…ごめんなさい語彙力なくて… 今歯折れるくらい食いしばってますからね??? ちょっとまじで本当にめっちゃありがとうございました。
りんご
222
#すち受け
瀬那
227
クッキー
900
#御本人様とは一切関係ありません
# 一生 そばにいて .
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