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side:wki
”この世は愛に溢れている”
キラキラと輝くイルミネーション、その周りに溢れる笑顔。
赤い服を身にまとい両親に写真を撮られる子供たち、寄り添い会い自撮りする恋人たち、そして1人届かぬ想いを抱えて、愛しい人の元へ足早に向かう俺。
辛すぎる。
タクシーが捕まらなかったのも痛かった。
なんだってこんな日に呼び出すのか。
こっちからのLINEにはリアクション1つで、ろくに返事もしない癖に。
…なんて、心の中で悪態を着いてみても、進む足は一瞬たりとも緩まない。
惚れた弱みと言うやつか。
制作期間以外でも、何時でもどんな呼び出しにも備えてる自分も大概だと、自分で自分に可笑しくなる。
だって寂しがり屋の彼だから。
この狭い空から星が消えたように、いつか居なくなりそうな気がするから。
ハァ。…ハハッ
そんなわけないのになと、自分自身に対して自然と出た溜息に、自傷気味な笑いが含まれたのに気付き、マフラーに顔を埋めるように下を向いた。
元貴は消えない。分かってる。
あんなに輝くようになった星は、どんどん輝きを増すだろう。
俺を置いて。
輝きすぎて俺のこの気持ちをかき消すくらい。
1番近くにいるのに、1番遠い。
そんな事を考えていたら、いつの間にか足が止まっていた。
やばい、行かなきゃ
進まなきゃ。
あと少しで元貴の家だ。
その時だった。
「遅い!!」
聞きなれた凛とした声にパッと顔を上げる。
目の前には、でっかいダウン着てマフラーはモグルグル巻き、ニット帽を深めに被った元貴がいた。
「もーいつまで待たせんの!この俺を!!」
いたずらっ子の様に笑ったのが、見えなくても分かる。
ああ、暖かい。
いま、手が冷え切っていたことに気付いた。
血が廻りだしたのが、分かる。
「…こんな日にタクシー捕まんないから!」
泣きそうなのを耐えて、いつものように俺も笑い、憎まれ口を叩く。
「ほら!部屋温めてるから!!早く行くよ!」
グイグイ腕を引っ張る元貴に、胸も暖まる。
「涼ちゃんはもう着いてるの?」
「…………でない」
元貴にしては歯切れの悪い小さな声に、え?なに??と、聞き返すと
「呼んでない!今日は2人!!」
今度はライブ中か?!と突っ込みたくなるほどのデカい声が帰ってきた。
え、なんで?と聞きたくて元貴を見ると、ちらりと覗いた耳が見た事ないほど赤くなっていた。
…これは寒さのせい?
それとも…
俺たちの関係が、変わるかも?
そんな予感がする、5年目のクリスマス。
〜fin〜