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あれから、

どれくらいの時間が経過したのか。

高校一年生の春を越え、夏休みを無駄にし、現在は二学期の始業式で、教室に向かっている。


優斗は、あの日を境に好きな人を作らなくなり、心が眠っているかのように、ぼーっとし続けていた。それくらい、春菜とお別れをしたことがショックだったのだろう。


「……あ、おはよう。陰キャの桜木くーん」


教室に辿り着き、優斗が扉を開くと、近くに座っていた若葉が嘲笑。悪目立ちする金髪を揺らし、優斗を罵倒した。


──こいつは入学式の頃からこんな感じだ。


だからか、ある程度のことは慣れているが、やはり腹が立ってしまうことはある。優斗は、この怒りをあらわにする訳にも行かないので、無言で自分の席へ──行こうと思えば、若葉が最悪の一言で優斗を呼び止めた。


「あれれ? 無視は萎えるなあ。幼馴染みと離れ離れになった陰キャくーん」


鼻に付く声で優斗の怒りを煽る。勿論、これには我慢できず、優斗は振り返って若葉に睨みを効かせた。


「──馬鹿にするのも、いい加減にしてくれ」


その一言は重々しく、だけど加減されたように聞こえる。結構抑えたが、感情が強く出過ぎたのかもしれない。


「わあ怖い。陰キャくんガチギレ~? 」


それでも余裕そうに鼻で笑う若葉に呆れ、優斗は自分の席に戻っていった。


「はあ……」


優斗は自分の席に付き、溜息。周りの人間は助けてはくれないので、どうしようもない現状に疲れてしまう。隣の王道席を見てみれば、春菜が引っ越したことで不在となった席が静かに置かれていた。


──今頃、春菜は何をしているのだろうか。


そんなことを考えるが、今も、春菜に好意があるという訳ではない。もう、離れ離れになり、関わることなどないのだということを知っている。それに、お別れをする前に、ちょっとしたことで揉めていた。だから、今更好意なんて持っていても、どうしようもない。


そう思って、ほんの少しだけの好意に抑えて、優斗はそのことをフラッシュバックさせないようにと、日々、現実逃避に浸っているのだ。が──


それが、逆に若葉を刺激したらしく、前よりかはないが、優斗を弄るような言葉を軽々しく投げてくるように変化した。


おかげで、こっちはストレスが溜まりまくりだ。今まで夏休みだったが──。


そんな感じで、現状報告のように頭をくるくると回転させていると、チャイムと同時に担任の女教師が入ってきて、教室が静かになる。と思いきや、女教師の後ろに着いてきていた美少女を見て、皆は「転校生!? 」と驚く反応を見せた。


「……皆、驚かせてしまったと思うが、今日のHRは転校生の自己紹介にさせてもらう」


「て、転校生の自己紹介って。なんの前振りもなかったですよね? 」


クラスのある男子が担任に質問すると、担任が溜息を付き、詳しいことを説明し出した。


「お前ら、転校生って聞いたら朝から五月蝿いだろ? だから、敢えてのサプライズにしたが、逆効果みたいだな……」


静まることのないガヤガヤ。春菜が引っ越すときとは大違い。若葉の方を見てみれば、早速何かを企んでいる顔をしていた。


「あいつ……」


そんな若葉の表情は誰もが分かっていたようで、気にせず皆、転校生に夢中になる。


「まあ良い。それじゃあ、HRを始める。静かにしろー」


担任の命令に静まる教室。こういう時だけ素直になるのは、本当に終わってると思った。


「よし、早速だが、自己紹介を頼めるか? 」


そして、教室が静まるのを確認した担任が、転校生に自己紹介を頼むと、転校生は小さく頷き、黒髪の触覚を揺らした。


「私の名前は陳凛凛。一応中国人だけど、日本語は問題なく話せるわ」


お団子のチャイナガールで、キレのある自己紹介。その美貌に誘惑される男子は多く、綺麗な紅色の瞳を輝かせている。


「……え? 中国人なの!? 日本語うま! 」


「よく見たら、チャイナガールじゃね!? 中華料理店とかやってるの? 」


軽い自己紹介が終わり、再び騒がしくなる教室。


「質問は後からにしてくれ。凛凛の席は桜木の隣だ。誰も座ってないから分かるだろ? 」


担任の案内に頷き、優斗の隣に腰掛ける凛凛。それを見て、舌打ちをするクラスの男子達。


「……あなたが桜木くん? 」


凛凛の質問に動揺しつつも、優斗は視線を感じながら返答する。


「そ、そうだけど……」


さっきから視線が痛い。全身に、視線のシャワーを浴びているようだ。


「……なら、ここであっているみたいね」


凛凛は座った席があっているかを確認するために、話しかけたようで、確認ができた瞬間、担任の方を向く。横顔だけだが、確かに可愛い。


その内、生粋の美少女という称号でも付きそうだ。


「──じゃあ、これでHRを終了する。この後は始業式だから、遅れないように体育館に行くんだぞ」


担任の言葉にごく僅かの生徒が「はーい」と呑気に返事をする。次の瞬間、担任が去ると、優斗の席にぶつかり、凛凛の席へ駆け込む生徒達の姿が。


「ねえ凛凛ちゃん妹さんとかいるの!? 」


「中国ってどんな感じ? 彼氏いる!? 」


騒がしい。こいつらは自分の探求欲求のためなら人にどんなことをしても良いと思っているのだろうか。


「そんなに駆け込んだら、凛凛ちゃんが驚くだろ? 」


そう思っている時、若葉が怪しげな顔をして、凛凛へと一歩一歩近付いていく。


──こいつのことだから、

絶対に興味を示すと思った。


優斗は若葉が来るということを悟っていたので、すぐに臨機応変に顔を廊下側へ向ける。


「初めまして、僕の名前は若葉一星。君の名前は? 」


若葉の自己紹介に意外そうな顔をする凛凛。

優斗は、横目で時刻を確認した。


「……私は陳凛凛。よろしく、若葉さん? 」


改めて自己紹介をする凛凛。流石は若葉、コミュ力だけは文句が言えないくらいある。


「ああ、よろしく。そんなことよりも、君の隣の席の彼、桜木くんのことを知っているかな? 」


時計を見て、そろそろ体育館に行かねばと考えていた時、若葉が優斗の話題を振り、優斗は固まった。


「あまり分からないわ。彼がどうかしたの? 」


凛凛の問いかけ。優斗は視線を若葉に向けると、こちらを見て、ニヤけていたのを確認し、溜息を付く。


「あー実は、彼は人間観察が趣味でねえ。いつも一人でいるし、一緒に話してもつまらないから、あまり関わらない方が良いって忠告をしたくて」


まるで、凛凛の潜在意識に語り掛けるように優斗のありもしないような悪態を擦り付けるように話す若葉。


優斗はその行動に呆れ、再び溜息をついて立ち上がる。


「……言ってろ。仲良くなりたいなら、嘘なんか付かない方が良い」


──誰かと仲良くなるために、誰かを落とすなど最悪の行為だ。


そう吐き捨て、優斗は一人で体育館に向かう。

その様子を見た凛凛が嘘に気付いたのか、若葉に言葉を投げ付けるように吐いた。


「私が関わりたい人間は私が決める。少なくとも、貴方みたいな人とは絶対に有り得ないわ──」


その言葉を聞いた若葉が聞こえないくらいの舌打ちをして、その場を立ち去る。


「……まあ良い。君でなくとも、候補なんて沢山いる」


若葉の言葉を凛凛は不審に捉えたが、周りの人間は知っていた。若葉には、お嫁さん候補という特別なリストがあり、親に申し立てれば、相手の親にお金などを持ち掛け、OKさせるという悪徳なお坊ちゃま手法のこと。


もう、候補は二十人を超えているとか。考えただけで、とんでもない奴。


それから、クラスの皆も遅れて体育館に入り、説教込みの始業式が開始された。

ヒロインは一人じゃない

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