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彼らが発見された日、警察は慎重にその現場を調べた。
鍵のかかった地下室。
封じられた窓。
散らばる鎖、破かれた契約書、そして2人の穏やかな死顔。
所轄(しょかつ)の刑事たちは皆、同じ言葉を口にした。
【……これは事件、なのか?】
だが、証拠のすべてが奇妙に曖昧だった。
確かに監禁の痕跡はある。
しかしそれを“望んでいた”ような形跡も、また確かに存在していた。
例えば……
冷蔵庫に残された食材のレシート。
2人の名前で記された“恋人契約”の紙。
そして、壁に貼られていた1枚のポラロイド写真。
そこには、手錠をつけた良規と、鍵を持った美咲が、互いに見つめ合いながら笑っている姿が写っていた。
2人の瞳は、確かに“幸せ”を知っていた。
そして……
その写真の裏には、こう書かれていた。
「世界が敵でも、君がいればよかった。」
事件の報道は、小さくニュースになった。
[自殺か?監禁か?男女の異常な愛:真相は謎のまま]
[“恋人契約書”に込められた執着]
[恋が終わる場所、それは監禁か、心中か]
ネット上では賛否が分かれ、2人の写真が流出することはなかったが、一部のユーザーたちの間でこう語り継がれることになる。
{誰にも理解されない愛が、確かにそこにあった}
{狂っていたのはどちら?……多分、世界のほうだと思う}
数か月後。
美咲の部屋のあった建物は取り壊され、更地になった。
けれど……
その片隅に、誰が植えたとも知れない一輪の花が咲いた。
それは、アネモネ。
花言葉は、「あなたを愛します」「儚い夢」。
誰もそれに気づかない。
でも、もしもその花が語れるなら……
きっと、こんなふうに言っただろう……
–––“この場所で、ふたりは最後まで愛し合っていたよ”–––
あるいはこれは、ただの幻想だったのかもしれない。
狂気に堕ちた2人。
でも、その瞳には嘘がなかった……。
世界がどんなに”間違っている”と断じても、彼らにとっては、それが“真実”だった。
愛は時に、檻となり、毒となり、命すら奪う。
だけど……
それでも、彼らはそれを選んだ……。
心を縛り合いながら、永遠を夢見て、共に死ぬという形で“自由”を得た。
2人だけの、小さな世界で。