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息を吸うたびに、胸の奥が痛んだ。もう、どこが傷ついているのかすら分からない。
ただ1つだけ……
美咲さんを愛していたことだけは、最後まで曖昧にならなかった……。
あの日の俺は、ただのストーカーだった。
美咲さんにとっては、気持ち悪くて、鬱陶しくて、怖い存在だったと思う。
なのに……
どうしてだろう。
美咲さんに監禁されて、鎖に繋がれて、自由を奪われて、 薬で眠らされて……
いつからか……
その檻の中で、僕は安らぎを感じるようになった。
本当に、おかしい話だよね。
けど、真実だった。
美咲さんの作る食事が温かくて、美咲さんの笑う声が耳に優しくて、美咲さんの狂った瞳の奥に、確かに“僕だけを見てくれている”気配があった。
それだけで、生きていられた。
俺は、美咲さんに支配されていたんじゃない。
美咲に”包まれて”いたんだと思う。
だから……
あの日、美咲さんが注射器を差し出したとき、俺は恐怖を感じなかった。
むしろ、ほっとした。
『やっと、終わるんだな』って……。
注射を打ったあと、世界がゆっくりと滲んでいった。
視界がぼやけて、美咲さんの輪郭も曖昧になっていく。
だけど、美咲さんの声だけは、はっきりと聞こえたんだ。
「ありがとう、良規くん……追いかけてくれて、狂ってくれて、壊れてくれて……最後まで、愛してくれて……」
……バカだなぁ。
そんなの、こっちのセリフなのに。
こっちこそ、ありがとうだよ。
俺みたいな、どうしようもなく歪んだ人間を見つけてくれて。
誰にもいられなかった僕を、最後まで、自分のものにしてくれて。
意識が落ちていく中で、ふと思い出したのは、美咲さんを初めて見かけたあの日。
駅のホーム。
スマホを落とした美咲さんが、しゃがみこんで拾っている姿。
その背中に、なぜか涙がこぼれそうになった。
“この人を、助けなきゃいけない気がする”
そんな風に思ったんだ……。
助けたかったはずなのに……
いつの間にか、俺のほうが“救われていた”。
おかしいね……。
……もう、身体の感覚がない。
指も、足も、重い。
でも、美咲さんの体温だけは、まだ頬に残っている。
美咲さんが、俺にもたれかかってきたこと、ちゃんと分かってる。
ふたりで倒れていく瞬間……
俺は、笑っていたと思う。
「美咲さんのために死ねることが、嬉しい!」
そんな気持ちでいっぱいだったから。
最後に見たのは、君の顔。
笑ってた。
涙を流しながら、笑っていた。
美咲さん……
俺たち、間違ってたのかな?
それとも……
正しかったのかな……?
どっちでも、もう構わないよ。
だって僕は、君と出会って、君に壊されて、君の檻の中で、“愛”を知ったから。
誰がなんと言おうと、美咲さんと出会えてよかった。
ありがとう、愛してる。
ずっと、ずっと……
ずっと……
…… また、生まれ変わっても。
俺の檻に、美咲さんを閉じ込めるから。
今度は俺が、美咲さんを離さない。
絶対に。