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「志保……、紗枝……。来て……くれたの?」 瞬きを忘れたかのように二人を見つめたこいつの瞳からはどんどんと光るものが溢れ、言葉に詰まっていく。
「未来!」
あいつに駆け寄った女子二人は、その痩せた体を強く抱き締めていた。
「どうして言ってくれなかったの!」
「藤城くんから話聞いて、本当に驚いたんだから!」
「だって。だって……」
肩を震わすこいつに俺は病室をそっと閉め、病棟より出て行く。
良かったじゃねーかよ。
二人に吉永未来について話があると告げだら、こいつらは俺の胸ぐらを掴む勢いで何があったのか聞いてきたんだよ。話を聞いて、泣いて会わせて欲しいと言ってきたんだぞ。
迷惑なんかじゃないってよ。
もっと甘えたら良かったんだよ。これから甘えたら良いんだよ。
病院から出て見えるのは、白浜より見える茜色の夕陽。友達なんてくだらねーと思っていたが、良いものかもな。
病室から見える夕陽は、三人を明るく照らしていた。
次の日。当たり前のように病室を訪ねるが、部屋より賑わう女子の声。
あ、そっか。あいつらも面会許可が降りてるんだよな?
分かっていたはずだが、少し、ほんの少しだけ落胆の感情を覚えつつ、俺はノックの手を止めて居室ドアに背を向ける。
すると目の前にはあいつの担当看護師が丁度通り過ぎており、こっちを見てニッコリ寄ってくる。
「未来ちゃんの面会ね?」
「いえ、違います!」
俺は首を横に振るが、そのやり取りを何度も繰り返していた為か、「はいはい」と笑いこっちの話を聞いてねー!
……まあ。このお節介のおかげで、あいつとの面会が出来ていたんだが……。
コンコンコンと軽くノックした看護師は、「はい」の返答にガラガラガラと居室ドアを軽快に開け一言。
「未来ちゃーん、今日も彼氏が来てくれたよー」
まさかの爆弾発言。
「えー! やっぱり、そうだったのー!」
「言ってよー!」
女子二人が、ギャアギャア騒ぎ出したじゃねーかよ。
「か、彼氏じゃねー! ……いや、違うから!」
体全体に押し寄せる火照り。ま、マスクをしていて良かった。
はいはい。後は二人でね。
そう言いながら女子二人は帰って行きやがった。違うって言ってんのによ。
「ありがとう、直樹くん。おかげで志保と紗枝と、こうやって笑い合えた」
学校で見せていた、輝くような笑顔。
「ああ」
まあ、この姿に免じてさっきの騒動は許してやるか。
「……なあ」
「何?」
「内村のこと聞いてないか?」
どーでも良いフリをしながら、心臓はバクバクしている。我ながらちっせー男だと分かっているが、探るような言い方しか出来なかった。
「うん、聞いたよ。急に居なくなった私のこと、気にかけてくれたみたいだね。悪かったな、何も言えなかったし」
唇をキュッと噛み締める姿からは、後悔や罪悪感が滲み溢れていた。
「内村にも言っていいか?」
「え? どうして?」
「前々から思ってたんだけどよ。フェアじゃねーだろ? あいつだって……」
口を噤んでしまったのはあいつの気持ちを勝手に言ってはいけないと思ったからか、自分の気持ちを知られたくなかったからか。どっちにしても、俺はこれ以上話を続けられなくなっていた。
「何?」
「いや、何でもねーよ!」
「えー、なにぃ?」
眉を下げ俺の顔を覗き込んでくるこいつは、皆目見当がつかないと言いたげな表情をしている。
「お前、本当に気付いてないのか?」
「え? だから、何が……?」
一点の曇りもない、こいつの真っ直ぐな瞳。
そうだ、それが吉永未来だ。俺もアイツも、そんなこいつが良いんだよな。だからこそ。
「内村にも会うことは出来ないか?」
そんな言葉が出ていた。
アイツは小説の主人公みたいな奴で、こいつを光の速さで掻っ攫っていかれるかもしれない。だけどやはり、正々堂々と戦いたい。
なんて思う、どこまでも青臭い俺がいた。
「うーん、ごめんなさい。男の子はやっぱ恥ずかしいかなぁ……」
布団を被り顔を隠してくる姿に、こいつは女子なのだとヒシヒシと伝わってくる。
「まあそうだよな、悪い。……ん? いや待てよ、俺も男なんだけど?」
「直樹くんはいいの」
布団からガパッと取ったかと思えば、俺の顔をじっと見つめるこいつ。
ふん。どうせ、俺は男にも入らねーよ。