テラーノベル
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──夜、レイの家。
ネグはソファに座り、両手で膝を抱えながら、ぽつりと呟いた。
「……だって……当たると思わなくて……。」
目線はテーブルの上、どこか誤魔化すような声色だった。
レイはキッチンの方から歩いてきて、冷たい水の入ったグラスをテーブルに置く。
「逃げるって言ってもさ……場所は狙えよ……」
半ば呆れたような、けれど優しい口調で。
ネグは小さく「うん」と頷き、潔く、
「ごめんなさい。」
その言葉だけをしっかりと言った。
レイはため息をつきながらも、軽く肩をすくめた。
「また逃げれなさそうだったら……今度は頭突きじゃなくて、蹴りの方がいいかもな。」
その言葉に、ネグはほんの少しだけ笑った。
声は出さずに、けれど心の中ではクスクスと。
──そして翌日。
すかーと夢魔は、朝からリビングで静かに座っていた。
すかーはまだどこか身体の調子が戻らない様子で、深く椅子にもたれかかっていた。
夢魔は横目でちらりとその様子を見ていたが、特に何も言わない。
二人の間に流れる空気は、昨日とはまた違う、微妙な緊張感を孕んでいた。
そんな中、ネグが静かにリビングへ入ってきた。
「……」
マモンたちの姿はなく、ネグはすかーと夢魔の前で一瞬立ち止まる。
すかーはその姿を見上げたまま、低く、絞り出すように言った。
「……なあ、昨日の……」
その声に、ネグの体がピクリと震える。
「……さすがに、やりすぎだろ。」
すかーの声は怒り混じりだったが、どこか本気で困っているようでもあった。
ネグは内心(どうしよ……)と焦る。
──その瞬間、ふとレイの言葉を思い出した。
『また逃げれなさそうだったら……蹴りの方がいいかもな。』
次の瞬間。
ネグは迷わず、すかーに向かって足を振り上げた。
ガスッ――!
鈍い音がリビングに響く。
見事に、昨日と同じ場所に。
「ッッッッ!!!!!」
すかーの視界が真っ白になる。
また――そこだった。
そこに、また。
「……マジかよ……お前……ッ……!」
すかーはその場に崩れ落ち、膝をつき、両手で身体を支えようとしながらも、それどころではなかった。
夢魔はその光景を横目で見て、ほんの一瞬目を逸らす。
「……見てらんねぇわ……。」
ネグはそのすかーを見下ろしながら、小さな声で、
「あっ……ごめ……」
その言葉を口にしたが、すかーはまともに返事を返せる状態ではない。
「……っ、う……ッ……!!」
喉の奥でうめき声を漏らし、額から汗がにじむ。
拳を床に叩きつけながら、なんとか耐えていた。
ネグは何度も繰り返すように、
「ごめん……ほんとに、ごめん……」
その声も、だんだん小さくなっていき――
ネグは気まずそうにその場から後ずさり、そのままリビングを後にして、静かに部屋を出ていった。
すかーはその背中を睨みつけながら、声にならない声で呟いた。
「……ほんと、何なんだよ……ネグ……」
夢魔は横でため息をつきつつ、ぽつり。
「……運が悪ぇな、お前。」
だがすかーには、それに返す力すらなかった。
拳を床についたまま、ひたすら悶えて、苦しむことしかできなかった。
──ネグは、その背中を振り返ることなく、またどこかへ消えていった。
捕まらないまま。
何度も、何度も。
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