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瞼を開けると、眩しい光が目に入った。涼しい風に、若い葉が揺れている。どこか遠くで、知らない鳥の鳴き声が響いている。
感じたことのないくらい綺麗な朝だ。
昨日は、確か、気の済むまでゲームをした後、二人で少し話をしながら眠りについた。苦しい気持ちもなく寝ることが出来たのは昨日が初めてかもしれない。
隣を見ると、まだ彼は寝息を立てている。その顔が驚くほど穏やかで、今の自分達の現状も忘れそうになった。そのまま起こさずに観察していると、ふいにまぶたがピクリと動いて、目を開かれた。
「おはよー」
「、、、おはようございます」
言い慣れない言葉に少し戸惑いつつも、眠い目を擦って支度を始める。
今日もまた晴れそうだ。
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昨日の続きを歩く。暗くてじめっとしていた印象の道は、木漏れ日のスポットライトに照らされていた。 今自分達が上に向かっているのか下に向かっているのかすらも分からないが、とにかく前へ進む。
そんな行動を何回か繰り返していたその時、先頭にいたフランスがあっと声を上げた。
「見て!あれ、なんかある」
駆け寄ってみると、石で作られた建造物があった。トンネルに近しい形だが何本かの柱で作られていて、柱の間からは光が差し込んでいる。まるで何かの神殿のようだ。
「あ、これ線路だ!まあ多分使われて無いけど、、、」
中に入っていた彼はそう言った。つられて覗き込むと、確かに線路が走っている。草はひどく生い茂っていて、線路の間から必死に顔を出している。
「この線路辿って行ったらさ、どこに繋がってるんだろうね」
「多分電車は走らないとは思いますが、山を抜けるでしょうね」
「ちょっと山道飽きてきちゃってさ、こっち歩いてもいい?」
「うん、いいですよ。行きましょう」
そうして、誰にも縛られないまま2人は線路の上を歩き始めた。
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想像通り山を抜けて、あのよく分からないトンネルも緑と一緒に遠くに霞んで行った。今となっては辺りに何も無い。強いていえば草が絡まった電信柱と、ズボンに引っ付く背の高い雑草、くらい。あとは途方もなく続く線路だ。
歩いていくうちに昨日の疲れが足にキシキシとのしかかってきた。普段あまり外に出ない自分にとっては、1歩1歩に重い鎖が掛けられているようだった。
ただ、それよりも、前を颯爽と歩くフランスの方に気が行く。前々から、(昨日の今日のことだが)言動や行動に大分人間味が欠けすぎていると思う。
その、追いつくことの出来ない背中は、よっぽど、『綺麗な場所』に行きたいのか、
、、、早く人生を終わらせたいのか。
そんなことを考えるたび、また得体の知れない不快感が脳内を満たしていく。どうして、どうして自分はこんなに吐きそうな思いになっている?
答えは簡単、この旅を終わらせたくないのだ。この人の傍にいるのが楽しいと気づいてしまった、あの時から。自分達は今、死ぬためだけに歩いている。終点には必ず死がある。そんなこと分かっていたはずなのに、今まで見てきた青が緑が、貴方の笑顔が、それを薄れさせていた。
馬鹿げた考えをようやく認めたら、身体の軽くなったと同時に莫大な恐怖を覚えた。この人が、死ぬ。死にたがっている。それだけで怖かった。
「、、、あの、本当に死ぬ気なんですか、、?」
だから、縋るようにその背中に投げかけた。
「、、、うん。そうだよ。だってもう元には戻れないし。」
「でも、生きてさえいればこの先どうにかなるかも、」
「僕はその命を奪ったんだ。それはもう、取り返しのつかない、ちゃんと償わなきゃいけないことだもん」
「、、、っいつか先生が言っていた、『命はみな平等』なんて言葉が、もし本当なんだとすれば、」
そう言って、足元に這っていた蟻の上に1歩踏み出す。
「、、、私が今潰した命だって、同じだ。今までに、気付かぬうちに殺した命も。
人殺しなんてそこら中に湧いてる。なんで貴方だけがそこまで罪を負わなければいけないんですか!」
握りしめた拳に力が入った。我ながら身勝手だとは思うが、ずっと言いたかったことだ。
「、、、貴方は、何も悪くないよ、、、」
全部の力を失ったみたいな声が出た。届かないことは分かっていたけれど、少し、願いを込めすぎたかもしれない。
「、、、自分は何も悪くないって、誰もがきっと思ってるよ。自分も、アイツも、多分お前も。」
そういって、またフランスはへらりと笑う。ああ、嫌だ。それは、私の嫌いな笑顔だ。
どこも見ていない目も、口角を上げただけの口も、じっとりとした声も。そのどれもが頭の不快感の促進剤となる。
原因が分かったとて解決するはずもなく、
また振り出しに戻ってしまった。