◆エルちゃん視点
「ふぁああ~ふぅ……寝てしまった」
「――――――――?」
「あ、お姉さんすみません。何かこの身体になってから睡魔が……」
僕はゴシゴシと目を擦りながら椅子に座ります。机の上には、いい匂いのスープにお肉や美味しそうな飲み物等、色々な料理が並んでいました。どうやら僕は今、|楽園《エデン》に居るようです。
「ふおぉぁっ!? お、お肉!? しかもこんなに沢山!?」
僕の眠気は一瞬で覚めました。僕の目の前のお皿からいい匂いが漂って来ます。お肉と葉っぱかな? 何かを混ぜたような料理です! スラム育ちの僕からしたらお肉は、超が沢山付くほどの高級品です! こんな良質な肉なんて僕は生まれてから一度も食べた事がありません! と言うか見た事が無い!
「――――――♪」
「何この白い粒は……湯気が立ってる。これも食べ物なのかな?」
僕はまたしても見たことの無い未知なる食べ物に、出会ってしまいました。
「こ、これ……僕も食べても良いのかな?」
僕は恐る恐るお姉さん達を見渡しました。僕がお姉さんを見つめてると優しい表情で、ニコッと笑顔で返してくれました。
「きゅるる……」
僕のお腹が不覚にも鳴っちゃった。僕はいつの間にか涎を垂らしてしまってたみたいです。お姉さんにしっかりと綺麗な布でフキフキとされましたが、僕の涎は止まりません。それも無理も無いです。だって、目の前にご馳走があるのだから!
「――――――♪」
「無理ぃっ! お腹空いたよ!」
僕がお姉さんに切実な目を向けて訴えってたら、お姉さん達が手を合わせて何かを呟いています。僕も見よう見真似で手を合わせて、「お肉っ!」と言ってみました。もう僕の頭の中は、お肉の事でいっぱいです。
「ふふっ、メインディッシュの前にこの白い粒を食べてみよう」
僕はお姉さん達が使ってる2つの棒を手に持ち白い粒を掴もうとしましたが、上手く掴めないのです。
「むむっ……難しい……お姉さん達の手はどうなってるんだ? 器用すぎる」
「――――――♪」
「え? こう? うにゅ……もう手で食べてみようかな」
そんな僕に呆れたのかお姉さんは、ご飯を僕に食べさせてくれました。赤ちゃんみたいと思われるかもしれないけど美味しいご飯の前には、ボクのプライドや羞恥心等はほぼ皆無です。
「んふぅ~♪ おいひぃっ!」
「―――――――――♪」
「何だ、この上品な味わいに極上のタレが僕の口の中で、とろけている。お肉は柔らかく、臭みも無いし噛みごたえも素晴らしい! 恐らくコカトリスの極上のお肉何だろう……まぁ、コカトリスの肉は食べた事無いけどね!」
幸せだぁ。ここに居るだけで、美味しいご飯が無料で食べられる。まさに天国だぁ~
「ぐすんっ……いつもカビ臭い場所で、硬いパンやおこぼれ等を薄暗い所で一人寂しく食べてたけど、ここはご飯もお姉さん達も優しくて暖かい……まだ短い期間だけど、お姉さん達との出会いは僕にとってかけがえの無い出会いだよ……」
「―――――――――?」
「美味しい……美味しいよぉ……うわわわわあああああぁぁっん!!!」
「――――――!?」
ご飯を食べながら僕は盛大に泣いてしまった。2人の優しいお姉さん達に頭を撫で撫でされたり、お肉を僕に沢山食べさせてくれました。
「ぐすんっ……お姉さんに一生づいで……いぎまず……ふぅええんん!!」
スラムの生活の頃なんて、誰も助けてくれなかった。通行人からは汚物を見るような目で見られて、不良たちからご飯を巻き上げられてボコボコにされたりと踏んだり蹴ったりだった。
だけど、今の僕はこんなにも幸せな気持ちになれています。神様、こんな暖かい日常をくれてありがとうございます!
◆|楓《かえで》視点
「ふぅえええええっんんん!!」
「エルちゃん!? どうしたの!? お肉喉に詰まっちゃったのかしら!? た、大変!」
「楓、落ち着いて。エルちゃんは楓の作った料理の味に感動してるんじゃないかな? お肉入りの野菜炒めに」
「泣く程!? 特売品で買っておいた豚肉と有り合わせを焼肉のタレかけて炒めただけなんだけど……」
私があわあわと慌てている時に、2階から葵ちゃんが降りて来ました。葵ちゃんは泣いているエルちゃんを見た瞬間、また何かしたの!? と訴えるような顔で私を見て来ます。
「葵ちゃん? 私、何もして無いからね?」
「ふふっ……分かってるよ~明美さん、こんにちは! 挨拶が遅れてすみません……」
「気にしないでいいのよ、私が勝手に来ただけだし♪ 葵ちゃん今日も可愛いわねぇ♡ エルちゃんと一緒に私の妹にならない? 可愛がってあげるわよ?」
「あ~け~み?」
「楓、落ち着いて! 冗談よ、冗談!」
全く、やれやれですね。私から可愛い妹を奪うとどうなるか、一度分からせる必要があるかもしれませんね。
「――――――ぐすんっ……うぅ?」
「あぁ! ごめんね、エルちゃん! よしよし~」
もう、たまりません! 今すぐエルちゃんをベッドに連れて行って愛でて上げたいです! うるうるとした目で私とお皿を交互に見つめています!
「あぁ、何となく状況は理解したかも。お姉ちゃん、エルちゃん物欲しそうに、お姉ちゃんのお皿のお肉見てるよ?」
「―――――――――。」
「あらあらぁ~食いしん坊さんね♪ でも、エルちゃん? ピーマン沢山残ってるよ?」
エルちゃんのお皿を見るとお肉だけ綺麗さっぱりと無くなっており、野菜やピーマンが沢山残っています。なので、私はピーマンをエルちゃんの口元へと運びました。
「ぷいっ!」
「え、えっと……エルちゃん? もしかしてピーマン嫌い?」
エルちゃんは心無しか、ピーマンを見ている時だけ目が死んだ魚のようです。泣いたり感動したりと感情が豊かで忙しいエルちゃんです♪ でもここはエルちゃんの為に、私は心を鬼にします。
「エルちゃん~好き嫌いしてると大きくなれませんでちゅよ? はい、あ〜ん♪」
「―――――――――!?」
「あ! 落ち着いて!」
明美と葵ちゃんはクスクスと笑いながら、エルちゃんを見ています。
「ヒィッ……!?」
「大丈夫、大丈夫だから。ピーマンもキャベツもほうれん草も美味しくて栄養価が高いんだからね」
「―――――――――!! ―――――――――!?」
明美と葵ちゃんは、自分の口元を押さえながら笑いを堪えるのに必死の様子です。さっきまで幸せそうな顔でお肉を食べてたエルちゃんでしたけど、アイドルの推しが結婚した時のような、オタクの絶望したような顔をしておりますね。エルちゃんの耳がぴくぴくと動いて少し涙目……と言うか泣いちゃいました。
「エルちゃん……」
「――――――!?」
私は後ろを向いてポケットから秘密兵器、目薬を出して両目にさしました。そして、少しわざとらしいですが泣き真似をしてエルちゃんの方をチラッと見ました。
「うぅっ……お姉ちゃん、エルちゃんの為に一生懸命作ったのに……ううっ……チラッ」
「っ!? ――――――!!」
エルちゃんは私の名演技?を見てから激しく動揺しております。
「「ぷぷっ……」」
明美と葵ちゃんが後ろを向きながら笑いを殺しています。エルちゃんの必死な様子が面白くて、可愛くてつい意地悪したくなってしまいます。そして、エルちゃんは何かを考える様な素振りを見せた後、不器用ながらお箸でピーマンを掴んで何と私の口元に運んで来たのです!
「あいっ!」
「はうっ!? か、可愛い……」
エルちゃんはさっきから色々な表情をして忙しいです。ですが、ピーマンをお箸で掴んだエルちゃんの笑顔はお日様のように眩しくとても輝いて見えました。ですが……
「くっ……でも、エルちゃん? しれっとお姉ちゃんに食べてもらおうと言う作戦は通用しないでちゅよ?」
エルちゃんは悲しげな顔をしながら、さり気なく葵ちゃんのお皿と自分のお皿を変えていました。私達3人はがっつりと犯行現場を目撃しております。
(しょうがない、最終奥義を出すか)
「葵ちゃん、お願いがあるのだけど良いかな?」
「な〜に? お姉ちゃん」
「戸棚からシュークリームを持って来てくれるかな?」
葵ちゃんは何かを察したように、戸棚からシュークリームを持って来てくれました。
「さぁ、エルちゃん♪ ピーマン食べたらこれあげるよ♪」
「っ!?」
エルちゃんのピーマン克服大作戦の始まりです。
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