ワトリーは少し離れたところで3匹の証言を思い返していた。
シオンにいつもと変わった様子はなかった――それが共通する証言だ。
しかし、それでも引っかかることがいくつもあった。
まず、ルーカスが楽屋に入ったとき、シオンは携帯を見ていた。
しかし、その携帯はどこにも見当たらない。防犯カメラにはエイミーが携帯らしきものを持って
走り去る姿が映っていた。エイミーがそれを持ち去ったのだろうか?
そして、いつもならお弁当を食べるはずのシオンが、今回何も食べていなかった。
お弁当は無惨にも床に散らばっていて、フォークはまだ袋に入ったままだった。
ワトリーは現場をもう一度頭の中で整理し、思わずつぶやいた。
「もう一度、防犯カメラの映像を確かめるのだ。」
すると、近くにいたルーカスが答えた。
「それなら、さっき鑑識の猫たちがカメラの映像を持って行きましたよ。」
「ジョセフ、もう一度映像を見たいのだ!」ワトリーは焦りを隠せない声でジョセフに呼びかけた。
ジョセフは考え込んだ後、軽くうなずいた。「わかった、後で署に来い。そこで確認しよう。」
その時、サリーの顔色が急に悪くなったことにワトリーは気づいた。
メイク担当のイザベラがすぐに声をかける。「サリー、大丈夫?」
サリーは弱々しくうなずきながら答えた。「はい…少し休みたいです…」
仲間のシオンが殺されたショックが、彼女の体にも影響を与えているようだった。
その姿を見て、ワトリーは胸が痛んだ。自分がエイミーのことばかりを考えている間、
サリーの苦しみに気づいていなかったことを後悔した。
「サリー、ごめんなのだ。シオンは君の仲間なのに、
ボクはエイミーのことばかり気にかけていたのだ。」
サリーは優しく微笑んで首を振った。
「いいのよ。エイミーも心配だもの、私も…彼女が無事であってほしいって思ってる。」
サリーはイザベラに連れられ、楽屋へと戻っていった。
ワトリーはその姿を見送り、再び現場に向かうことを決意した。
エイミーにかけられた疑いを晴らすためにも、今一度手がかりを探す必要がある。
シオンの死、その裏に隠された謎――すべてが次第に複雑に絡み合い、ワトリーの前に立ちはだかっていた。
ワトリー、ジョセフ、そしてポテトは、もう一度事件現場に戻っていた。
楽屋の中にはまだ血痕が残っており、空気は重く冷たかった。ジョセフがふと疑問を口にした。
「なあ、ワトリー、フェリックスはどうしたんだ? あいつなら、こういう事件は得意中の得意だろ?」
ワトリーは少し間を置いて答えた。「フェリスは今休暇中で、キャットタウンにはいないのだ。」
「なに!?」ジョセフは驚き、頭を抱えた。
(しまった、これは計画が狂うぞ…。フェリックスがいると思って、全て任せてくれって大口を叩いちまったのに…)
一方で、ポテトはそんなジョセフを励ます。
「フェリックスさんがいなくても、先輩がいれば問題ないですよ!」
ジョセフは不安が拭えない。
「それはそうなんだが…。なあ、ワトリー、本当にフェリックスに来てもらったほうがいいんじゃないか?」
ワトリーは静かに首を振った。
「ルビーと海外に行っているのだ。邪魔したらボクがルビーに殺されるのだ。」
ジョセフは驚愕の表情を浮かべた。「またもやルビーと!?(どうする、これじゃ計画が全部崩れちまう…)」
ルビーは、かつてフェリックスの友人であり、元恋人だったと噂される猫だ。
ミミちゃん失踪事件で二匹は再会し、それ以来、何かと理由をつけてフェリックスを連れ出している。
今回も、ルビーはボディーガードとしてフェリックスを連れ、海外へと向かった。
そんなジョセフの心配をよそに、ワトリーは現場に注意を戻していた。
「ジョセフ、この血の跡を見てほしいのだ。」
ジョセフがその指摘に従って壁を見つめる。「うん、血の跡だな…。」
ワトリーはさらに詳しく説明する。
「違うのだ、見てほしいのは血の量と、そのつき方なのだ。」壁や床に点々とついた血痕を指さす。
ポテトが横から分析を始めた。「死因は大量に出血してショック症状になったようです」
ジョセフは困惑した表情で問いかけた。「それが何か?」
ワトリーはシオンが倒れていた位置に近づき、さらに仮説を展開した。
「ジョセフ、ちょっと協力してほしいのだ。ジョセフが犯人、ポテトがシオンだと仮定して、
正面からシオンを刺すふりをしてみてほしいのだ。」
ジョセフは言われた通り、ポテトに向かって刺すような動作を行った。
二匹は目を見合わせたが、まだよく分からない様子だった。
「?」と首を傾げるジョセフに、ワトリーは説明を続けた。
「もし、シオンが正面から刺されたなら、犯人の後ろの壁に血が飛ぶはずがないのだ。
だけど、実際には壁や床、鏡にまで血がついていた。返り血を浴びて、
そんな姿でこの楽屋から出られないのだ」
ジョセフは考え込む。「…着替えたのか?」
ワトリーはさらに推理を進めた。「いいや、きっと犯人はシオンの後ろに回って右胸を刺したのだ。
それなら返り血は最小限に抑えられるのだ。」
ポテトは納得した表情でうなずいた。「なるほど、それなら犯猫は目立たずに楽屋を出られるわけですね。」
「そ、そうだな…」ジョセフもようやく理解し始めた。
ワトリーはさらに別の手がかりに目を向けた。
「シオンには口に噛み切ったような跡があったのだ。切れて血が出ていた。」
ジョセフが続ける。「刺された痛みのせいか?」
ポテトが心配そうに「怖かったんですよ、きっと。」
ワトリー「いや、シオンは右腕の関節が外れていた、その痛みを我慢していたのだ」
ワトリーは机の下を確認した。「ここ濡れてるのだ、水がこぼれているのだ」
ジョセフ「暴れた時に水がこぼれたんだ」
ワトリー「でもコップもないし、机の下がぬれるのはおかしいのだ」
ジョセフ「うーん」
ジョセフは手をポンと叩き、「そうかわかったぞ… 犯人はシオンの楽屋に入れたんだから、
顔見知りの犯行ってことだな?」と考えをまとめ始めた。
「シオンが油断して後ろを向いた瞬間、犯猫がグサッと…」
ポテトが頷きながら言った。「なるほど、きっと歌でも歌っていたんでしょう。」
ワトリーは考えを巡らせて言った。「でも、油断して刺されたなら、お弁当は落ちないはずなのだ。」
ポテトが続けた。「もしかして、シオンが弁当を食べながら歌ってて、口をふさいだのかもしれません。」
ジョセフ「驚いたシオンは、弁当を犯猫に投げつけたんだな」
ワトリーはため息をついて、「抵抗したなら、物音や助けを呼ぶはずなのだ」
ワトリー「助けを呼べなかったシオンには何か秘密があるのだ」
3匹はその言葉を胸に刻み、事件の謎を解き明かすべくさらに深く捜査を進めることを決意した。
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