ワトリーは、エイミーがこの楽屋での惨劇に驚き、
何が起こったのかを考えながら廊下をゆっくりと歩いた。
シオンが刺されて倒れている光景を思い浮かべ、エイミーがそこからどのようにして
走り去ったのかを想像してみた。エイミーが楽屋に入ったとき、シオンはすでに亡くなっていたとすると
きっと彼女はショックで動揺したに違いない。そしてシオンの携帯を掴んで、
何も考えずに裏口へと走って出て行ったのだろう。
だが――なぜ彼女はわざわざシオンの携帯を持っていったのか?
その意図がワトリーにはどうしても理解できなかった。
疑問を抱きながら、ワトリーは裏口へ続く廊下を歩き、警備室の前まで来た。
中には、デイビスという警備員が座って防犯カメラの映像を見ていた。
「警備員さんは、エイミーがここを走って行くのを見たのだ?」
デイビスはカメラの画面から目を離し、ワトリーに頷いた。
「ああ、見たさ。ものすごい勢いで走っていた。裏口のほうに向かってね。」
ワトリーはその言葉に小さく頷き、裏口のドアを見た。
「この裏口はどこにつながっているのだ?」
「そこから駐車場へいけるよ。関係者以外は入れないんだ。見てみるかい?」
「うん」
ワトリーが裏口のドアを開けると、そこには広い駐車場が広がっていた。
その奥の街道には、何事もなかったかのように猫たちが歩いている。
ワトリーは、その景色を見ながら静かにため息をつき、
「エイミーはここから出て、いったいどこへ行ってしまったのだ…」とつぶやいた。
切ない気持ちを押し隠し、もう一度デイビスに話を聞くために中に戻った。
「デイビス、なにか悲鳴や物音、異常なことは聞かなかった?」とワトリーが尋ねると、
デイビスは首を振りながら答えた。
「いや、特に聞いていないんだ。見回りで席を外すこともあるから、
タイミングによっては聞き逃すこともあるんだよ」と申し訳なさそうに言う。
「そこに怪しい猫はいた?」ワトリーが更に問うと、デイビスは少し困った顔をして返答した。
「申し訳ないね、ここは猫であふれているから、誰が怪しいとかは簡単には判断できなかった。
私のせいで情報が足りなくて…」
ワトリーはデイビスを見て、穏やかに微笑んだ。
「デイビスのせいではないのだ。大勢の猫たちの中で怪しい猫を見分けるのは難しいのだ」
ワトリーはデイビスに尋ねた。「デイビス、シオンのことは知ってるのだ?」
「ああ、彼女たちは何度もこの会場でライブをしているから、
顔くらいは知ってるさ。でも、直接話をしたことはないんだ」とデイビスは答えた。
「そうか…」ワトリーは小さくうなずき、しばし考え込む。
デイビスはワトリーの様子を見て、「で、これからどうするつもりだい?」と促した。
「防犯カメラに映っていた三匹にもう一度話を聞きにいくのだ」とワトリーは答えた。
「わかった。私も何か気づいたことがあれば、すぐ知らせるよ」とデイビスは力強く言った。
「ありがとう、頼りにしてるのだ」とワトリーは感謝を伝え、警備室を後にした。
一方ジョセフとポテトは時系列の整理 をしていた。
11:00 - ルーカスがシオンにお弁当を届ける。(約1分)
11:10 - イザベラがシオンの楽屋に入り、メイク直しを始める(約15分間滞在)。
11:35 - サリーがシオンの楽屋を訪れ、5分間滞在。
11:45 -シオンが楽屋から出て廊下の窓を閉め、楽屋に戻る。
12:05 - エイミーが楽屋に来る。わずか2分後に慌てて部屋を出て行く。
12:10 ‐ 清掃員がシオンの死体を発見
ジョセフは時系列をまとめ、冷静な口調で語り始めた。
「つまり、エイミーが楽屋に入るまではシオンは確実に生きていた。
そしてその後、エイミーがたった2分間の滞在で、シオンを右胸を刺して殺した…そういう話になる。」
ポテトは眉をひそめた。
「2分ですか…そんな短時間で殺害して逃げるなんて、
本当に可能なんでしょうか?殺し屋じゃあるまいし…。」
ジョセフは腕を組みながら低く唸った。
「だが、調べによるとエイミーは昔、ちびっこ相撲の優勝者だ、十分ありあえる話だ」
ポテトが大きくうなずいた
「昔とった杵柄というやつですね」
そのあと少し考え「でもエイミーにどんな動機があったんでしょう?
確かサリーさんはシオンとエイミーはとっても仲が良かったと言ってましたが」
ジョセフは目を細め、決意を込めて言った。
「それを確かめるために、全員に詳しく話を聞く必要があるな。
ルーカス、イザベラ、サリー、この3匹の証言をすり合わせるぞ。」
ポテトは頷き、メモ帳を取り出しながら言った。
「了解です、先輩!」
ワトリーは、物陰でジョセフとポテトの会話に耳を傾けていた。
「警察はエイミーがシオンを殺したと疑っているのだ…。」
そう思うと胸が締めつけられるようだった。エイミーが楽屋に入ったとき、
シオンはすでに亡くなっていたはずだ――ワトリーは直感でそう感じていた。
「つまり、エイミーが楽屋に来る前の20分間にシオンは殺害されたのだ。」
しかし、防犯カメラには不審な影は映っていない。
では、犯猫は楽屋に潜んでいたのか?それとも、カメラの死角を通ったのだろうか?
「それにしても、エイミーが慌てて楽屋を飛び出した理由はなんなのだ?」
ワトリーは、エイミーの行動とシオンの死には何かしらの関連があると考えていた。
それを解き明かせれば、エイミーの無実も証明できるかもしれない。
そして、エイミーが今どこにいるのかもわかるはずだ。
ワトリーは、拳をぎゅっと握りしめ、静かにその場を離れた。
エイミーを守るためにも、真相を突き止める覚悟を胸に秘めながら――。
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