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「フィーサ。その前に、試したいことがあるけどいいかな?」
「何かは分からないけど、イスティさまがやりたいようにやっていいなの!」
まずは光属性をフィーサにエンチャント。エドラに向け、氷魔法を放ちながら斬り込む。ルティほど高く飛ぶことが出来ないが、せり上がった丘のような岩を利用する。
頭上に飛び、スキュラの全身を真っ二つに斬ることに成功した。
だが――
「――フフッフフフ! そんな程度でしたかしら? 少し熱いだけで、ダメージすら負っていませんわよ?」
「いや、自分の姿をよく見てみたらどうだ?」
「醜い怪物の姿を今さら……。――ど、どういうこと!? 何故、どうして……」
「何てことは無い。スキュラは体を自在に変えることが出来る軟体生物だ。スキュラの力を得たようだし、スキュラの体はあんたがずっと使えばいい」
「わたくしの……、王女としての体が、何故、なぜ――!?」
宝剣フィーサは邪悪な存在を斬ることが出来る剣でもある。そんなフィーサを使って、スキュラの体を真っ二つに分けてやった。
「神殿の外に来ているあんたの護衛騎士がシーフェル王女と行動を共にしていた。その姿に見せていたのはあんたではなくスキュラ自身だ。おそらくあんたの記憶を読み取って王女となっていたんだろうな」
「醜い生物ごときがわたくしの記憶を盗んだ挙句、姿を変えていた? まぁいいわ。体が二つに分かれようと、王女の体には魂が入っていないのですもの。そんな体には何の意味もありませんわ!」
スキュラの魂の行方は現時点で分からない。しかし、姿を変えたことのある王女の体に意識が残っていればいくらでもやりようはある。邪悪な力を得たエドラの魂そのものがスキュラの体に魂ごと残ったからだ。
「イスティさま、上手くいったなの?」
「ああ。事前に凍らせて固めたから上手く斬れた」
宝剣フィーサは軟体生物には不向きの剣。しかし一部分でも凍らせて固めればすんなりと斬ることが可能になる。
だが問題は、
「無駄なことをされるものですわね。あなたのお味方である醜い怪物の魂はわたくしから消え、わたくしは自由となりましたのよ? 姿と中身が違うからと言って、容赦なく攻撃が出来るとでもお思いなのかしら。フフ、怪物の魂の行方も分からないままでどうされるのかしらね?」
今の時点でスキュラ本人は目覚めず、意思の疎通が出来ていない。エドラの言うとおりスキュラの体に攻撃をするだけなら簡単だ。中身がエドラでもスキュラを傷つけるのはさすがに躊躇する。彼女の実力は戦ったから分かるが、人間である聖女エドラよりも遥かに上だ。
それなのに彼女の意識は未だおれの前に出て来ていない。
何かの狙いがあってエドラの好きなようにさせている――そんな気がしてならない。
ドレイングローブでダメージを受けていたのはエドラ自身だった。スキュラなら自分の魂を王女の方に移すことが出来る。その為に意識を切り離しているとすれば、必要なのは器だけ。
このまま魔法攻撃、もしくはエンチャント攻撃をしたところで同じことの繰り返しだ。試すとしたらまずは宝珠で釣るしかない。
「……待たせてしまって悪いな」
「フフッフフフ! 随分とお悩みですこと。わたくしも暇じゃありませんのよ? 攻撃が効かないからといって手段が見つからない。そんなことにはならないのですわよ」
「入る時の仕掛け扉はあんたの仕業か?」
これだけは確かめておかなければ。
「何のことかしらね? わたくしが自在に動かしたのは、せいぜい洞窟をぐちゃぐちゃにしてあなたに対する魔物の敵対心を上げたくらいのもの。下らないことをする必要なんてありませんわね」
「そうか。なら、あんたは宝珠には目もくれないわけか」
やはり意識は分かれている。
「宝珠? あんな目くらましな宝石を好むのは下民か魔物くらいなのではなくて?」
「……よく分かった」
スキュラは完全に乗っ取られたわけじゃないようだ。もしスキュラの狙いが封じ込めにあるとすれば試す価値は十分ある。
「フフ、荷物持ちアック。あなたのガチャ……魔石は、あれからどれくらい役に立っているのかしら?」
「どういう意味だ?」
「グルート様の前でゴミしか出さなかったガチャが嘘じゃないなら、ここでお見せ下さらない?」
「……いいだろう。しかしあんたが望むものが出るとは限らない。それでもガチャを引けと?」
「構わないわ」
何かを企んでいることは明らかで、おれではなくエドラの視線は魔石に集中している。それならこちらも魔石に仕掛けを施しておく。もっとも、レアな魔石というよりスキルを覚醒させた魔石以外は実のところただの石。魔石同士で表面を削りながら刻印を施す。
そのままスキュラとエドラの名前をそれぞれの石に刻んだ。特に魔力は込めていないが、スキュラと刻んだ魔石の方には精霊獣の欠片をはめ込む。後は魔石を使うフリをして隙を生じさせるだけ。
「これが魔石だ。今からこれを使ってガチャを引く! 何が出るかは分からないが、本当に引いていいんだな?」
「フフフ……あなたが今まで生き延び無様に姿を晒すことが出来ているのは、魔石のおかげ。そうなのでしょう?」
「それがどうかしたのか?」
「わたくしが手にしても?」
「……好きにしろ。魔石はきっかけに過ぎないからな」
そうは言いつつ、レア魔石だけは袋から出さなかった。魔石に何かをしようとしているエドラの行動に期待しているからだが……。
「ガチャスキルがあればグルート様は死なずに済んだ……フフ。スキルではなく、ここに転がっている魔石のおかげで荷物持ちだけがのうのうと生きていい気になっている。そんな魔石は――」
エドラは不敵な笑みを浮かべながら地面に置かれた魔石を手に取った。
そして――
「クソッたれの荷物持ちごとき雑魚が!! 下らない魔石は全て破壊、破壊してやるっっ!」
エドラは予想通りの行動で魔石をガァンッ、と思いきり投げつけた。おれの実力全ての原因が魔石にあると結論付けたらしい。
「アハハハハッ!! 壊れろっ!」
魔石を壁にぶつけるも、弾かれることなくその場に落下しまくっている。
それを拾い上げ、
「へぇ……、わたくしの名とスキュラ? ……あぁ、醜い怪物の名前だったかしらね。これこそいらない魔石だわ!!」
エドラは自分の名とスキュラの名が刻まれた魔石があることに気付いたようだ。直後、スキュラの名が刻まれた魔石を岩壁に思いきり投げつけていた。
「ウニャッ!? 狼、消えた。消えたのだ!」
シーニャの声が聞こえると同時に、異変が生じ始める。
「ギッィヤアァァァァッ……!? か、壁に吸い込まれ……ぐぞがあぁぁ!! 何をしやがっぁぁ――」
エドラは岩壁の中へと吸い込まれ始めた。