「ウニャニャッ!? アック、狼と怪物が消えたのだ!! どこへ行ったのだ?」
どうやら成功したようだな。スキュラの精霊狼と一体化したことで上手く行った。
「シーニャ、こっちへ」
「分かったのだ」
スキュラの体を岩に戻すことが出来たのは狙い通りだ。元々スキュラは神殿の洞窟に生息していた生物。岩に擬態するのも普通のことだった。それだけに驚きも無かった。スキュラの魂はすでにスキュラの体から剥がされている。つまり、ここに残っているのはシーフェル王女の体のみ。器さえあれば問題無いということだ。
「……あははっ! 思い切りましたわね、アックさま」
「ス、スキュラ……か?」
「スキュラじゃなくて今はシーフェルですわ。あなたさまが思っていたとおり、あたしはたかが聖女ごときに乗っ取られていましたの。まぁ、それならそれで姿を変えた体の方に魂ごと移せばいいと思っていましたから良かったですわ」
おれがすることを全て見越して黙っていたわけか。
「そ、そうか」
「あたくしも脱皮を考えていましたので、丁度良かったですわ!」
「脱皮って……」
こういうのを聞くと生物なんだなと実感してしまうな。
「そういうわけですので、あたしはこれよりシーフェル王女として動くことにしますわ!」
「精霊狼はあのままでいいのか?」
「……そのうち何とかなりますわ。それより、壁でもがく女の始末はどうされますの?」
やはりエドラのことが気になるのか。
だが、
「名を刻んだ魔石ごと神殿の壁となった。辛うじて魂は消えて無いが、もはや出られないはずだ。このまま放置でもいいと思う」
「お甘いことですわね。あたくしも生まれ変わりましたし、ここを崩壊させるのが賢明かと思いますわ」
ここに生息していた彼女が言うならそうするべきなんだろう。
「それはそうと、王女として生きるってことは今後一緒に行動することは出来なくなると思うぞ?」
「それもいい考えがありますわ。まずは、まだ息のあるあちらを黙らせるのが先ですわね」
「まだ何か出来る力が?」
「ええ。あたしの力もあちらに奪わせてしまいましたので、何かしらのあがきをしてもおかしくありませんわね」
彼女の言葉どおり壁に封じられたエドラはまだ息がある。時間を与えてしまうと魔法詠唱の機会を与えてしまいかねない。
「ごのっ……怪物めがぁっ!! その体を返せっ、返せっっ――!」
聖女とはいえ、どうしてここまでの精神力があるのか。壁となった以上放置でもいいかとは思っていたが、ここで終わらせるべきだな。おれが破壊するよりも壁に対し容赦の無い彼女に託すことにする。
「ルティシア! こっちへ来ていいぞ」
「は、はいっっ!! 今すぐに!」
護衛と見張りでルティは下がっていたが、おれの呼びかけですぐ来た。
「アック様っ、来ましたっ!」
「ルティにやって欲しいことがある」
「何なりと!」
やる気満々だな。
「この神殿を壁ごと破壊しろ! もちろんすぐに崩壊しないようにだぞ?」
「えぇ? そ、それは……」
「いいんだろ?」
ルティが気にしていたので彼女を見てみると、
「構いませんわ。あたくしも生まれ変わりますもの! あたしに構わずおやりなさいね、ルティ」
「はわぁっ!? え、スキュラさ……? あれぇ?」
壁の存在と見比べながらルティは戸惑っている。しかし雰囲気と感じ方ですぐに分かったらしく、すぐに気合を入れ始めた。
「ルティ。いいな、粉砕だぞ? 遠慮するなよ」
「お任せ下さいっ! あ、アック様、でもでもあのぅ……」
「……無事に済んだらたっぷりと可愛が……ではなく、褒美を取らせるから」
決して変な意味じゃない。
「本当ですねっっ! よぉぉぉし、よぉぉぉぉぉし~!!」
シーニャやフィーサからの視線が痛いだけに、ここでうかつなことを言うのは避けねば。
「はっ、はあぁっ……お、王女さま!! 王女さまではございませぬか! ご、ご無事で……」
ルティの気合いの直後、息を切らせたリエンスがかけ寄りざまに膝をつく。忘れていたがリエンスの存在があった。本物の王女はすでに壁に埋め込まれているが、成り代わりの王女なら今は目の前にいる。
成り代わった彼女はリエンスをどうするつもりなのか。
だが、
「フフッ、ご心配をおかけしましたね。リエンス」
「――ハッ! で、では、王国へお戻りになられるのですね?」
「王国……ええ、それもいいかもしれませんね」
「そ、それでしたら、ぜひここにいるアックさんをお連れしませんか? 僕の恩人なのです!」
「そう願いますわ」
リエンスは王女の姿を見るや、周りの環境を気にすることなく話を進めだす。成り代わり直後の再会ではあるが、もしかしたら同船していた時からある種の信頼関係を築いていたのかもしれない。
「スキュ……シーフェル王女。そういうことでいいのか?」
「ええ、そのつもりでしたわ。上手く行きましたでしょう?」
感心することしか出来ないがひとまず解決ってところか。
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