テラーノベル
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天音が『精神』の力を持っていることが判明した。昔から悩んでいたのに、俺は全く気付いてやれなかった。
「天音を、この戦いには巻き込みたくない」
「その気持ちは痛いほどわかる。でもね、あの子も選ばれた中の一人だ。覚悟を決めないといけない時が来るよ」
京子さんと真剣に話をしていると、店の扉が開いた。
「あれ、こんな時間まで何してるんだ?」
「和文こそ、こんな遅い時間までどこに行ってたんだよ」
「おいら? 神社だけど」
やはり和文は神社に行っていたらしい。この店から神社はかなり距離があるが、そんなに頻繁に行って何をしているのだろうか。
「あんまり夜中に出歩くもんじゃないよ。心配するだろう?」
「姐さん、ごめん」
「もうそろそろ店を開けるよ、傑は帰りな」
俺は半ば強制的に帰ることになった。
翌日、学校にはいつも通り天音がいた。
「おはよう、傑」
「もう、落ち着いたのか?」
「お家にいたって楽しくないでしょ」
天音の家は特に家族仲が悪いというわけでもないはずなのだが、まだ悩みでもあるのか。
「悩みがあるなら聞くけど」
「傑のくせに気が利くじゃん。でも、大丈夫だよ」
そんな簡単に言われても信じられない。
「本当か?」
「しつこいなあ。し・ん・ぱ・い、しなくていいんだってば」
天音の言葉に、俺は妙な安心感を抱いた。これは、わざと誘導している。
「もう騙されないからな。俺の気持ちを『変える』んじゃない」
「あーあ、バレちゃったか」
「俺にそんなことしないでくれよ。なんか傷つくだろ」
不安な気持ちを取り除いてくれようとしたのは分かる。しかし、長い付き合いだというのに、もう少し俺を信じてくれてもいいんじゃないかと思う。
「もしかして怒ってる……? そりゃそうだよね。勝手に心読んだりなんかして、嫌な気持ちになるよね」
「そうじゃない。そんなのはこれからどうにかしていけばいいんだ。それに故意じゃないんだろ? なら、そんな顔するな」
俺は知っている。天音が故意に人を傷つける奴じゃないことを。どこまでも優しい奴だって、十分に理解しているから。
「ありがとう……」
「そうだ、天音も特訓に参加しないか?」
「特訓?」
天音の力が戦闘向きじゃないとしても、生きていくうえで不自由のないように、コントロールの練習はした方がいいだろう。
「俺たちがほぼ毎日やっていることだ。まあ、その理由はまた店で話してやるから、とりあえず、気が向いたら店に来い」
「わ、分かった……」
元気のない天音は、見ていてむずがゆくなる。もしかしたらこれが本当の天音なのかもしれないが、俺は、あの明るい天音が全て噓だったなんて、信じたくない。
放課後、俺は和文と特訓をしていた。
「もう、おいらの力はほとんど見せちまったよ」
「俺も見せられるものは、ないかもな」
「じゃあ、力比べでもするか!」
いきなり何を言い出すかと思えば、和文らしい提案だ。
「一番最初に勝負した時は、俺が勝っただろ?」
「いいや、おいらも成長してるからな、今回は分かんないぞ」
そう言われても、どう力比べしたらいいんだ。
「ルールはどうする」
「こんなのはどうだ?」
和文が提案したルールは、直接相手に触れるのではなく、物を当てたほうの勝ち、というものだ。
「意外と面白そうじゃないか」
「名付けて、アタック勝負だ!」
「そのまんまだな」
今回は京子さんが買い出しに行っているため、自身の申告制となる。
「じゃあ、早速おいらから!」
「合図無しなんてズルいだろ!」
和文はお構いなしにポケットから何か取り出して、俺に狙いを定めた。あれは、輪ゴム?
「タイムスロー」
俺は咄嗟に避ける動作をしたが、その輪ゴムは飛んでこない。
「時が『止まって』……いや、少しずつ動いている……?」
#AI利用
「見惚れてると、痛い目見るぞ」
和文が指を鳴らした瞬間、輪ゴムが勢いよく飛んできた。
「あっぶないな! 和文お前、前から仕込んでたな……!」
「くっそー、当たらなかったかー。ちょっと、護身用に持ってただけだって」
「そんなバレバレな嘘、通用するか!」
すかさず俺も反撃体制に入る。
「突風」
周りに強い風が吹く。その拍子に散っていた葉が舞い上がる。
「確かに当てれば勝ちって言ったけど、それはないだろ!」
「和文に言われたくないね!」
俺だってそれなりにプライドはある。だが、先に仕掛けてきたのは和文だ。
「た、タイムストップ!」
和文が両手を左右に伸ばし、その周囲の時が『止まった』。
「そんなことされたら何しても当たんないじゃないか」
「からの、タイムリターン!」
葉はあっという間に、散った状態に『戻った』。
「そうくるか。じゃあ、これならどうだ?」
「ちょ、ちょっとま……」
俺は静かに祈る。
「夕立」
ぽつぽつと『雨』が降り始める。
「タイム……ストップ!」
頭上に片手を伸ばした和文は、かろうじて周りだけ『雨』を止めている。
「まだ『止める』か」
「傑……『雨』はさすがに……」
「だって水も物体だろ?」
和文は苦しそうな顔をしている。
「そんなの理不尽だあ……!」
「こんな力使える時点で理不尽もクソもない!」
俺はとどめを刺しにいく。和文の『タイムストップ』は限界だろう。
「突風」
降り続ける『雨』に加えて、強風が吹き荒れる。
「う、うわあ……『天気』は頻繁に変えれないって言ってたじゃないか……!」
「場合によっては同時発動出来たり、連続で変えたり出来るのさ」
「うう、もうダメだ……」
和文の『タイムストップ』が解除され、『雨』に濡れてしまった。さすがに力を使い過ぎて、和文は立てないようだ。
「俺の、勝ちだな」
「ちょ、ちょっと失礼……うう」
茂みに移動した和文は、『時間酔い』のせいで嘔吐していた。
「すまん、やりすぎた」
「逆に傑は大丈夫なのか……?」
「俺は、特に何も異常ない」
和文はひとしきり嘔吐した後、その辺りに大の字で寝転んだ。
「はあ、すっきりした。『晴れ』てんのに、『雨』降ってんなあ。あれ、さっきの『風』は?」
「さっきの『突風』は短時間で収まるから、条件なく発生出来るんだよ。この『夕立』も、もうすぐ止むと思う」
俺の身体には、何の変化もなかった。京子さんの言う代償、俺にはまだ感じられない。しかし、確実に嫌な予感は増している。
「どうした?」
「いや、和文みたいに分かりやすい代償が出てくれたなら、少しは安心できるだけどな」
「そんなに心配すんなよ。出た時にまた考えりゃいいだろ?」
そうは言っても、『天気』を変えるということは、俺だけに影響があるわけではないから、余計に心配だ。もしかしたら、俺の知らない所で、『天気』で迷惑を被っている人がいるかもしれない。
「とりあえず、天気予報をこまめにチェックするよ」
「それがいいぜ。今日はもう疲れた、姐さんにご飯作ってもらおう!」
「そう言うと思っていたよ。さあ、店にお入り」
こっそり俺たちの様子を見ていた京子さん。いつの間にか買い出しから帰ってきて、ご飯を作ってくれていたみたいだ。
「やったー! 傑、行くぞ!」
「ああ、俺も腹が減ったよ」
京子さんに晩御飯をごちそうになり、今日はおとなしく家に帰った。
翌日、学校が休みのため、俺は朝から店にいた。
「和文、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「おいらに質問? なんだよ」
「昨日使ってたやつ、もう一度詳しく見せてほしいんだ」
勝負の時、輪ゴムを飛ばした際に使っていた力。あの時、一体何が起こっていたのか。
「あれか。あれはな、『タイムスロー』って言うんだ」
「あんなのいつ身につけたんだよ」
「知りたいか? じゃあ、裏庭に行くぞ」
裏庭に移動すると、和文が少し水の入ったペットボトルを台の上に置く。そして、ポケットから輪ゴムを取り出し、そのペットボトルに狙いを定める。
「タイムスロー!」
放たれた輪ゴムはゆっくりとペットボトルの方へ進んでいく。これは、時を『遅らせ』ているのか。
「これって、輪ゴムにしか力が発動していないんだよな」
「その通り! 指を鳴らせばいつでも解除できるぞ」
「このままぶつかったらどうなるんだ?」
和文は静かに首を傾げた。やったことないみたいだな。いい機会だ、このまま見届けてみよう。
「なんか、遅すぎて暇だな」
「それ、和文の匙加減じゃないか?」
「あ、確かに。でも、細かい『時間』の操作って、一回やっただけでも頭痛くなんだよ」
数回力を使うと『時間酔い』が起こるのに、その精度を高めようとすると、余計に『時間酔い』が起きやすくなるという事か。
「ほら、そんなこと言っている間に、もうすぐ当たるぞ」
「お、どうなるんだ?」
輪ゴムがペットボトルに触れた瞬間、『時間』は正常に動き出し、見事ペットボトルを台から落とした。
「和文、何かやったか?」
「おいらは何も」
「そうか、なんとなく理解した」
おそらく、時を『遅らせ』た対象物が、別の物体に触れると、力が自然解除されるようになっているんだろう。
「勝手に解除されるって、前にもあったよな?」
「ああ、あれの理屈は、今回とはまた別だと思う」
前回やったのは、時を『止めた』対象物を、周りの時と合わせるように『進め』ると、『タイムパラドックス』は起きないのか、というものだ。結論、『タイムパラドックス』は起きなかったが、周りの時と同じになったら、力が自然解除される。といった感じだった。
「おいらの力って難しい」
「そういえば、『タイムスロー』は解除されるまで発動を持続させているんだろ? 身体は大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だ! ずっと続くわけじゃないから、えーっと、なんて説明すればいいんだ」
和文が言いたいのは多分、『タイムスロー』の持続時間は決まっており、その時間内だったら好きにコントロールできる、ということだと思う。
「なんとなく理解はできる。俺は俺なりに解釈しているから問題ない」
「傑はやっぱすげーな。おいらも頭が良ければなあ」
「あんまり考えすぎても頭が痛くなるだけだぞ。きっと、和文みたいに感覚で使えるのも良いことなんじゃないか?」
最初に出会った日より、全然上達している。俺も和文も、成長し続けているんだ。
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