屋敷に滞在して6日目の朝。
まだ、後4日もあるのか……最悪だ。
いつもの様に朝食を終えたテオドールは、溜息を吐く。今度は、夜会か。次から次に、あの手この手を打ってくる。
なんでも、今宵この屋敷で夜会を開くと言い出した。無論半ば強制的に参加せざるを得ない。今からアドラがダンスを一緒に踊れとせがんで来るのが、目に見えるようだ。
テオドールは、無論踊るつもりなどないが、油断は出来ない。もし仮に、アドラとダンスをする事になれば、瞬く間に噂は広がり、アドラを妃に娶らなければならない状況に追い込まれそうだ……。
頭痛がしてくる。
どうして自分が、こんな下らない事に悩まされないといけないのか。
そしてその日の夜、更なる頭痛のタネが現れた。それは意外すぎて、またテオドールがもっとも会いたく無い人物だった。
「…… リュシドール国王も大概だね」
まさかの、目前にはレナードがいる。確かに、口は出さないと言ったが……自由過ぎるだろう……。全く寛大なのか、ただの莫迦なのか……。興味はないが呆れるほかない。
「どうして、君がこんな場所にいるのかな」
「愚問だね。ヴィオラを、迎えに来たに決まってる」
莫迦にした様に、鼻を鳴らすレナードにテオドールは苛っとする。
立場でいえばテオドールのが上だ。それはレナードも理解している筈だ。なのにも関わらず、この態度だ。喧嘩を売っているようにしか思えない。
「君は、立場を理解した上で、そんな振る舞いをしているのかな。レナード王子」
「十分理解していますよ、テオドール殿下」
急に丁寧な物言いになるが、逆に莫迦にされている気分にもなった。本当に性格が悪い。
「そもそも、どうやって此処まで」
「僕に不可能はない」
なんだ、その名言の様な台詞は……。テオドールは、頭を抱える。どうやら、全く懲りてないようだ。
「あぁ、そうなんだ。それはまた、凄いね」
かなり投げやりに言い放つ。アドラの事だけでも、気が重いのに何が悲しくてレナードの相手をしなくてはならない。
テオドールは、早々にリュシドール国王に連絡を入れレナードを回収させなければと、考えていた時だった。
「テオドール殿下!」
甲高い声で、テオドールを呼ぶ声がした。
胃も頭も痛くなる。今直ぐこの場から立ち去りたい……。
声の方を見遣ると、これでもかという程飾り立てたアドラが満面の笑みを浮かべこちらへと、歩いてきた。普段でもゴテゴテに飾っているのに、今夜は一段と凄い。
まるで、鎧のようだ……これは、かなりの重量があるだろう……。テオドールは、どん引いた。
「テオドール殿下、お・ま・た・せ・しました」
いや、待っていない。
「さあ、ご一緒に踊りましょう?」
当然のようにテオドールの手を掴み引っ張ってくる。テオドールは、苛つきながらもやんわりと手を解いた。
「ごめんね、アドラ嬢。僕は踊らない主義なんだ」
その言葉に瞬間アドラが、顔を顰めたのをテオドールは見逃さなかった。これが、彼女の本性だろう。
だが直ぐに笑顔に戻しアドラは、めげずにテオドールをダンスに誘ってくる。いい加減鬱陶しくなり、どうしたものかと悩んでいた時これまで黙って見ていたレナードが口を開いた。
「テオドール殿下は、ダンスがど下手で恥ずかしいから、踊らないんですよね」
ニコニコとしながら毒を吐くレナードに、テオドールは顔をひくつかせた。
「まあ、テオドール殿下はダンスが苦手なのですか?」
「そうですよね?殿下?」
2人に莫迦にされている気分だ。
「僕は、女性とは踊らない主義なんだ」
この発言の所為で、テオドールはこの後最悪な思いをする事になる。
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