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優雅な曲が流れる中、テオドールは踊っていた。社交の場で踊るなどいつ振りだろうか。
随分前は、踊っていた事もあった。だが、途中からある日を境に女性が嫌になり、踊る事を止めた。きっかけは何だったか……。確か、何処ぞの令嬢達が、何方が先に自分と踊るかで揉めた事だった。
「意外と上手ですね、殿下」
「それは、お褒め頂きありがとう。君も、意外に上手だよ……レナード王子」
テオドールは顔を引き攣らせる。何が悲しくて、レナードと踊らないといけないんだ。
「殿下から、お褒めに与り光栄ですね」
レナードは、かなり大袈裟にそう言って鼻で笑った。本当に一々嫌味な男だ。
それにしても、異様な光景だ。男同士で、踊るなど前代未聞だろう……。どうして自分は、「女性とは踊らない主義」などと言ってしまったのか。
アドラと踊る事を回避しようとしたのだが、言い回しを間違えた……これでは明日にでも「テオドール殿下はやはり男色だった」と社交界で噂が広がる事間違いなしだ。
頭が痛い。無論胃も痛い……。
「僕に、男色の趣味はない」
思わずそう口に出してしまった。
「奇遇ですね、僕にもありませんよ。僕は、ヴィオラ一筋なので……。でも、殿下は違いますよね」
レナードは、不敵な笑みを浮かべた。
「どういう意味かな」
「先程の女性と、随分と親密そうな間柄でしたよね?」
いやいや、どこからどう見たらそう見える⁉︎テオドールは、頗る嫌そうな表情を浮かべる。
「彼女とはどの様な関係なんですか?もう、夜の方は済まされたんですか」
嫌な物言いをしながらも、爽やかにそう話すレナードに、テオドールの表情は固まる。
「貴方がどんな女性を抱こうと興味はありませんが……ヴィオラにだけは、手を出す事は赦さない。ヴィオラは僕のモノだ」
瞬間、テオドールの頭の中にヴィオラを押し倒した時の事が過った。身体が熱くなり、顔もきっと赤くなっているだろう。それを見たレナードは、勘違いをした様子で詰め寄る。
「まさか、ヴィオラに何かしたわけじゃないよね⁈」
「……」
テオドールは何も言えなかった。まだ、何もしていない。未遂だ。だが、しようとした事には変わりない。
「っ……ヴィオラに触れていいのは僕だけなのにっ」
レナードは穏やかな雰囲気から一変して、怒気を含んだものに変わる。
「ヴィオラは、君のモノじゃない」
「じゃあ、誰のモノだというつもり⁈まさか、殿下のモノとか言わないですよね⁈」
「彼女は誰のモノでもないよ。彼女は、彼女自身のモノだ。それ以上でも、それ以下でもない。仮に誰かのモノになるというなら、それは僕や君が決める事じゃない。彼女自身が決める事だ」
テオドールの言葉に、レナードは音がする程奥歯を噛み締めると、突き放す様にテオドールの身体を離した。
曲はまだ続いつていたが、レナードはそのまま広間から出て行ってしまった。