コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺は、目の前の光景に圧倒されていた。
「万里の長城かな?」
口に出すつもりはなかったが…つい、口に出してしまった。
「ホントだね。どこまで続いているんだろうね」
良かった。俺だけじゃなかったようだ。
「見てください!凄い行列ですよ!」
遠くに門っぽいモノが見える。そこに向かうように入門待ちの長い行列があった。
ただ、俺達は日本で渋滞や行列は見飽きてるからなぁ。
ミランの驚きには共感出来なかったから、
「そうだな。入るのに時間が掛かりそうだな」
それくらいのことしか言えなかった。
「でも、普通に進んでいるからすぐじゃないかな?」
もっと共感出来ない奴がいた……
そういえばテーマパークでも、嬉々として行列に並んでいたもんな。
入り口の列に並んでから、30分程で順番が来た。
これなら確かに聖奈さんの言う通りだな。
「冒険者か。馬車の中を検めるぞ」
門にいた兵士にそう告げられたので、馬車の中を見せた。
「荷物が少ないくらいだな。通ってよし」
王都なのにいい加減だな……
それだけ治安や治世がいいんだろうな。この国は江戸幕府くらい続いているし。
「ここが王都サクシードですか…」
ミランは感慨深そうだったが、正直にいうと街の入り口だから他の大きな街と大差はない。
「建物の感じは変わらないね!とりあえず宿を探そっか!」
「そうだな。長期間泊まれるところがいいな」
俺達は宿を探すため、道行く人に聞いて回った。
「ここが一番声が上がったところだな」
目の前の建物は、正面は総石造りで後は木造の綺麗な建物だった。
「小さなお城みたいだね。空いてるといいんだけど」
「かなり広そうなので空いているのではないでしょうか?」
聖奈さんとミランが降りて、宿の人に聞いて来てくれることになった。
暫く待つと2人が出てきた。
「どうだった?」
「空いてたよ!料金はみんなで一泊35,000ギルだったけど、いいよね?」
いや、どうせもう返事してるんだろ?何故聞く……
「任せてるからいいぞ。馬車は奥か?」
「はい。馬車は裏に回してと言われました。店の馬番がおられるそうなので、そのまま渡せばいいと」
俺達は馬車を預け、荷物を持って部屋へと移動した。
「この後は?」
聖奈さんの言葉に、少し考えて口を開いた。
「冒険者組合に納品しに行くくらいかな?」
「じゃあその後は外でぶらぶらしない???」
このじゃじゃ馬を俺には止められそうにないから、頷くことしか出来なかった。
宿を出た俺達は、馬車で冒険者組合を目指した。
宿の人に組合の場所を聞いているから、道には迷わないだろう。
王都のメイン通りは石畳みだが、まるでタイルのように綺麗にカットされていた。
魔改造のお陰で元々少なかった馬車の振動が、日本の電車と変わらないくらい静かなモノになった。
まぁ、人が多くてノロノロ運転だけどな。
道幅はメイン通り以外は5メートル程で、馬車がすれ違えるギリギリだったが、メイン通りは倍以上の広さで、まるで歩行者天国のように人で溢れていた。
「あれが冒険者組合ではないでしょうか?」
目の良いミランが見つけた建物には、ゴブリンに剣を突き立てる絵が描かれた看板が付いている。
「そういや、あんな看板だったな」
他の街でも見ていたが、絵が汚くて覚えていなかった。
「やっぱり王都は冒険者組合も綺麗だね!」
冒険者組合の建物は3階建てで、木の枠組みに漆喰の様な白い壁で造られていた。
窓は2階以上がガラス窓だ。
「裏手に馬車を停めよう。メイン通りだと邪魔になるからな」
「うん。じゃあ向かうね」
組合の裏に馬車を向かわせた。
裏手に回った俺達は、職員と思われる人に声を掛ける。
「すみません。組合に素材の納品に来たので停めてもいいですか?」
「もちろんです。納品物は何ですか?良ければ運びますよ?」
おお。助かる。オーク肉はかなりの量があるからな。
「助かります。オーク肉とオーガの討伐証明部位です」
オーガと聞いて少し驚いた顔をされた。
確かにこんなヒョロそうな男と、痩せ型の女性、少女の三人組で、オーガを討伐出来るとは思わないよな。
職員に後を任せて、割符を受け取った俺達は建物の中へと入っていく。
「内も綺麗だね。人も思っていたほどいないし」
「多分時間帯のせいではないでしょうか?王都の冒険者の数が、この国では一番多いですからね」
そんな雑談を暫くしていると、割符に書かれていた番号を呼ばれた。
「お待たせしました。こちらが報酬になります。
それと、オーガを討伐されていましたので、Dランクにランクアップ出来ますが、今されますか?」
「「「お願いします」」」
声を揃えてカードを提出した。
やはり格上を討伐すると、ランクが早く上がるようだ。
ミラン曰く、Dランクは普通の冒険者が最後に辿り着くランクなのだとか。
異世界の殆どの人達は剣や槍・弓で戦う。
オーガを倒せるのは一握りの剣豪か、魔法使いがいるパーティくらいだ。ただの弓では擦り傷さえつけられないだろう。
例外は魔道具を使うことだ。俺達には安価な銃火器があるから調べていなかったが、この世界の兵器は魔法が付与された武器、又は魔法が込められた道具だ。
ミランに手榴弾くらいの威力の魔道具の値段を聞いたら、使い捨てで500,000ギルはするのでは?とのことだった。
俺達が買った手榴弾は闇取引だったためか、一つ数千円だったが、実際に戦地で使われている手榴弾は、モノによるが数百円程度のモノらしい。
魔道具を今のところ買うことは無さそうだな……
納品を済ませ、ランクアップした俺達は、馬車を宿に戻してから街に出た。
「結構歩いたね!」
「そうですね。少しお腹が空きました」
「よし。何処かの店に入って、夕食にしよう」
目についた食堂に入り、料理を注文した。
「なんか一箇所に固まってると言うよりも、沢山の街が入ってる感じだったね」
聖奈さんが言う通り、住宅街、商店街、職人街という風に分かれているのではなくて、リゴルドー地区、ウィンダスター地区のように、いくつかの街を足していったような街の作りをしていた。
「組合もいくつかあるみたいだしな」
これは寄った店の人に教えてもらったことだ。
「例の商会の場所も分かりましたしね」
家具を大量に売っているだけあって、大きな店だった。
俺達の当面の目的でもあるため、すぐに見つけられたのは良かった。
「名前は確か…メイブル・ウィンクルでしたね」
どうしてこの名前をつけたのか気になるが……
調べればわかることか。
「もう!2人とも!今日はランクアップ祝いなんだから仕事の話はなしだよ!」
そうだったのか……
てっきり王都を散策しているだけだと思っていたわ。
楽しく飲み食いした後は、いつもの輸送をして、眠りへと就いた。
翌朝。朝食を宿で食べた後、部屋へと戻り話し合いをすることに。
「それで作戦というのは?」
ミランが聖奈さんに向けて言葉を発した。
「これを使おうと思うの」
昨晩会社から持ってきた小包だ。
「何が入っているんだ?」
俺も気になっていた。
ガサガサ
「これだよ」
黒い小さなプラスチックが、箱から出てきた。
「盗聴器?って書いてあるな」
「うん!私がされそうだったから、知識を高めて防犯に繋がるように買ってたんだ!」
うん。暗い話を明るく話すのはやめような。よくわからんくなるから。
「じゃあこれを仕掛けてメイブル・ウィンクルを調べるんだな?」
「そういうこと!これなら異世界だと何かわかんないもんね!
成功率爆上がりだよ!」
問題は……
「それが音を伝える道具だと言うのは分かりましたが、どこに仕掛けるのですか?」
そう。そして、どうやって仕掛けるのかも問題だな。
「それだよね…私達がお客さんになって店内に仕掛けても、そこだとロクな話が聞けないよね。
忍び込めたら良いけど…流石に難しいかな」
俺達はDランク冒険者だけど、実際の身体能力はあってもEランクだもんな……
「私が忍び込みます」
はぁ。言うと思った……
「ダメだ。例えどんな理由があってもな」
中途半端な言葉だと言い負けるから、完全に拒絶しておく。
「っ…」
「ミランちゃん。セイくんの言う通りだよ。そんなことはさせられない。
そんなことを覚悟するくらいなら、良い案を考えよう?」
「…すみません」
まあ、ミランがこの件については、俺達に負い目を感じていても不思議じゃないからな。
「安心しろ。俺に良い考えがある」
「「えっ!?」」
いや、そんなに驚かなくてよくない!?
俺は腑に落ちない気持ちを隠して、2人に作戦を伝える。