テラーノベル
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24
次の日から、渉から一切の連絡が来なくなった。おそらくメールを送ったところで、返信なんてないだろう。
学校に行って大縄跳びを飛んでも、俺ばっかりが引っ掛かり大翔に怒られ。昼休みは旗を落としてばかりで、笹本に怖い顔されて「もっと集中してください」と言われ。体育の時間のクラス対抗リレーでもバトンを落とし、紅白対抗リレーでも渉に無視され。最後の放課後練習で見かけた時には、一瞬だけ視線が合った時。呪い殺されるんじゃないかと思うほどの眼差しで睨まれた。
やること成すこと全て裏目に出て、何もする気がおきない。それでも屋上に行って旗を振るでもなく、笹本の綺麗な型を見つめてぼうっとしていた。すると相手が珍しく旗を落として、諦めたように向き直って来る。
「……なんかあったんですか?」
「いや、いいよ……別に……」
「僕が良くないんですよ。ずっと見られてて集中できません」
「すまん、そしたら帰るよ……」
そう言いながらも立ち上がる気力がわいてこないので、そのまま横に倒れて冷たいコンクリートの床から見上げる。笹本がため息をついて、俺の頭の隣に腰掛ける。
無遠慮に慰めの言葉をかけてこないのが心地いい。今、「大丈夫ですか?」なんていわれても、泣いて何も答えることができないだろう。面倒くさい人間なんだ……。
「あのさぁ……一つ聞いていいか?」
「……質問の内容によります」
「お前さ、なんで旗手やってんの?」
「……聞いてどうするんですか?」
「別にどうもしないけど、お前って悪い噂しか聞かないからさ。不良どもと喧嘩してるとか、高速の拳とか……だから真面目に旗手やってるのが、会ったときから不思議だった……」
言い終わると、相手は口元に手を当てて少しだけ考えた。そして、俺を鋭く睨みつけて言う。
「友人が、やろうと言ったんです……」
「友人?」
「友人、二人。そいつらが、一緒にやろうって。だから入ったんです……意外ですか?」
「うん、意外だわ……」
学内で聞いた笹本の噂は、孤独を好む一匹狼で通っている。それが友人に誘われたから応援団に入ったとか、意外すぎて驚きを隠さず顔に晒した。
少しだけ顔を赤らめている。無表情と呆れ顔しか見たことがなかったので、貴重なものを見たような気分になる。
「それで、なんで旗手?」
入団する理由があったとしても、わざわざ面倒くさい旗手をする理由がない。それにも何か理由があるはずだ。
俺の質問に対して、彼はさらに顔を赤らめた。夕日のせいではない、恥ずかしさに視線を正面にして逸らされた。
「なんだよ?」
「ジンクスっていうか、覚悟みたいなもんでやってみたんです……」
「ジンクス?」
笹本が力強く頷く。
「旗手を一度も失敗せずに成功させたら、願い事が叶うらしくて……それで、もし失敗しなかったら……その願い事を叶えてみようと思ったんです……」
「へぇ……笹本は思い立ったらすぐ行動とか思ってたけどなぁ」
「僕だって、ジンクスなんかに頼りたくないけど……でも、きっかけっていうか、こういうこと初めてで」
「え、なに?そんなに深刻な悩みなわけ?」
またも彼が頷いた。
石本先輩の悩みは、ゲイの恋人と破局寸前になっていることだよ、とはさすがに口が裂けても言えない。それでも、相手の様子からどうにもならないことが問題になっているらしい。授業も真面目に受けてそうだし、性格からいって悪い奴に絡まれているとも違う……なんだろうか。
「深刻っていうか、まぁ自分の問題なんで……」
「そうか……なら、頑張れとしかいえねぇな」
「もし、旗を一度も失敗せずに成功することが出来たら、あいつに言いたいことがあるんで」
「あいつ?」
そのあいつとは誰のことか。さらに聞きだそうとする前に、答えが向こうからやってきた。
屋上の扉の開く渇いた音。そちらに視線をやれば、知らない坊主頭の男子生徒が立っている。ガタいが良く、俺より身長が高いかもしれない。そいつは笹本の姿を認めると、「司!」と名前を呼んだ。下の名前を呼ばれた彼に視線を戻したとき、その一瞬の違いに全てのパズルが合致する。
今まで一度も見たことがない、嬉しそうな顔。頬が僅かに紅潮していた。「堤」と、相手の苗字を唄った。
「司、今日は買い物があるから先に帰るぞ」
「それなら、僕も一緒に行く」
「え、練習はいいのか?」
「今日は早く切り上げようと思ってたところだ。行こう……」
俺がお辞儀すると、それに手を振った。堤もまた頭を下げて、二人は屋上から姿を消した。
あの顔を知っている。笹本以外の男から見たことがある。
「男同士で恋とかさぁ……」
大変だぞぉ……と思いながら、旗を右手に持って立ち上がる。練習しよ。
「ジンクスねぇ……」
そういえば、渉と両思いになったときも文化祭のまじないに頼ったことがあった。学校のどこから、そんな俗説的な噂が生まれてくるのか知らない。が、結局頼ってしまうのが人間だ。知ってしまった以上、練習あるのみと包帯やら絆創膏まみれの掌をみてから、握り拳を作った。
「今回も、頼ってみるか……」
そう言って、旗を天に向かって放り投げる。
コメント
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あーもう、笹本くんの意外な一面見れちゃったよ…!😭💕 あのクールで一匹狼っぽいイメージの彼が、まさか「ジンクス信じてます」とか「願い事叶えたいんです」って顔赤らめて言うとか、そのギャップが尊すぎて倒れるかと思った…!しかもあの「堤くん」を見たときの嬉しそうな顔、完全に恋する顔じゃん…!主人公も「男同士で恋とかさぁ…」って呟いてたけど、自分も同じ立場なのに他人事みたいに言っちゃうとこ、切なくて好きだよ…最後の「頼ってみるか」って旗を放り投げるシーン、めっちゃエモかったです…!✨