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数日過ぎても渉が話しかけてくることはない。それでも鉄ヤスリで少しずつ削られていくように日々が過ぎ、体育祭当日がやってきた。
彼と接触することのない数日間、ひたすら旗の練習をしてきた。腕が痛くて眠れなくなりながら、それでもさらに腕を振る。
当日五日前から、応援団と一緒に練習するようになった。渉の近くで和太鼓に合わせて旗を舞ってみせるが、一度もこちらを見ることがない。それでも今は仕方ないとあきらめて、夜にだけ泣いた。練習の間旗を落とすことは数回かあったが、それでも以前よりはうまくなったと大翔から褒められる。
紅白リレーにしても、順番が違うせいか話すことも接触もなかった。おかげで欲情することも緊張することもなかったが、精神的に辛くていつものタイムなんて出すことができない。どん亀状態。
当日の朝。応援団は普通の生徒たちより早めに登校して、三年生の教室で軽い打ち合わせをする。八時になってそれぞれの教室で出席をとる時間になると、散り散りになる。ふと白い髪の男がこちらに視線を向けていた気がして振り返ってみたが、そんなことは決してなかった。
渉にとって、俺との縁が切れるなら応援団に参加する義理なんてなかったはずだ。しかし、奴は最後まで休むことなく副団長を務めた。それによって彼に近づく人間は多くなったが、それを受け入れないせいか相変わらずの異端者扱い。その人気を全て受け入れたのは団長の大翔だ。
三年の教室から去る後ろ姿が消えるのを、ずっと見つめていた。彼が隣に来る。
「謝れば?」
「いや。今謝ったところで、根本的に解決しねぇからさ……」
「あっそ」
担任が教室にやってきた。すぐ椅子を持って校庭へ移動する。広い校庭にラインわけされた、自分たちの色のクラスごとに椅子を設置する。
校庭の真ん中に整列して開会式が始まった。まずは校長の話、井川先生からの諸注意。そして紅と白の団長と副団長が両者前に出て宣誓する。
紅は俺達の団長星野大翔。そして白組の団長は校内一の人気者、青柳響也。黒ラン、白ランに身を包んだ二人が右手を上げて、交互に宣誓を唱えて行く。彼の隣に立つ渉に視線をやれば、面倒くさそうにあくびをかみ殺していた。その姿に、つい笑ってしまう。
宣誓が終われば最後に体育祭開始のかけ声がかかり、自分たちのチームの席に座るよう促される。俺が自分の席に座ろうとする前に、青柳が大翔に右手を差し出して何か言っているのを見た。それに応じて握手をするが、渉は無視してさっさと一年の座席に戻っていってしまった。青柳はそれにイヤな顔せず、笑って済ませる。
俺が席に戻ると同時に、二年生の大玉転がしが始まる。黒ランからジャージに着替えた大翔が戻ってきた。隣に腰掛ける。ほとんどの生徒たちは前に行って、チームの応援に声を張り上げる。
後ろ髪を、ねぇちゃんから借りたゴムで適当に結んでうなじをスッキリさせた。色がわかるように、一人一人に配られている紅白別のねじり鉢巻きは、競技以外手首に巻いておく。競技中は額に巻かないと失格となる。
「さっき、白の大将になに言われてた?」
俺の質問に、肩をすくめた。
「別に。正々堂々がんばりましょうって言われただけだよ」
「喧嘩売られたのかと思った」
「青柳は渉みたいな天才だが、綺麗な天才だな。本気で正々堂々っていえる人間なんて、なかなかいない……」
大翔が他人を褒めるなんて珍しい。雲上人とも呼ばれている天才だが、果たして噂は噂だけではなかったようだ。
彼とこうしてゆっくり話しができるのも久しぶりなので、渉についてさりげなさを装って訊ねてみる。同時に、スピーカーから大玉ころがしの実況がBGMとして右耳から左耳へ流れて行く。
「なんかあったのか?」
「まぁ、喧嘩……」
「近況っていっても、そうだなぁ……なんか、鳴海と会う前の渉に戻ったって感じだな。ぴりぴりしてるっていうか、無言で圧力かけてくるっていうか。だから、早く仲直りしてほしいんだが」
「素直に謝って解決すれば、それこそ苦労ねぇよ」
そのとき、白組からひときわ大きな声が上がる。白の大玉が先にゴールを制し、先制点をとったのだ。隣の大翔が「ほぉ……」と不敵に笑った。二年生は、たしか青柳がいるはずだ。見れば男女問わずの生徒たちに囲まれて、ハイタッチしたり抱きつかれたりしている姿を見ることができた。
「こりゃ、万年やる気ない勢の鳴海君にも頑張って貰わないとなぁ……」
「応援団やってる時点で、くそ頑張ってるっていえよ……」
コメント
1件
もう読んだよ〜!!😭💕 体育祭当日の空気感、すごく伝わってきた… 渉くんとの距離が縮まらないまま本番迎えちゃったもどかしさが胸にくるね…「夜にだけ泣いた」の一文がエモすぎて刺さったよ。。大翔くんが「会う前の渉に戻った」って言うのも、それだけで過去が想像できるし、もどかしいっ…! 青柳くんとの対比も良いな〜。次どうなるか気になりすぎる!早く続き読まなきゃ!📖💨