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「――特務裁定官。
くくくっ。教団は何を考えて、そんなものを作ったのだ?」
「あなたみたいのが、いるからじゃないかしら。さ、大人しく観念なさい?」
アリアは杖を手で3回転させ、びしっとヴォルフに突き出した。
「私とふたりきりになって、なお、その態度……。
確かに貴様の力は未知数だよ。しかしそれが、勝利に繋がっているとは限らん。
それならそれなりの、戦い方というものがあるからなッ!」
ヴォルフが右手で印を組むと、赤い魔方陣が生み出され、それは広がるように宙に消えていった。
アリアの肌が、何か不自然なものを感じる。
「これは――」
「魔法を使うには、魔力が必要だ。それは常識だよな?
しかし、今この空間において……私以外の人間は、魔力に干渉することが出来なくなった!!」
……ヴォルフの言う通り、魔法は魔力によって発動する。
1日あたりで使える魔力は個人差があるが、つまりその魔力が、ヴォルフ以外はゼロになったということに等しい。
逆にヴォルフは、『無限魔力』のおかげで、その制約が完全に取り払われているのだ。
「へぇ……。こんな魔法もあったのね」
アリアはそう呟くと、ヴォルフに対して一気に距離を詰めた。
ヴォルフは反応ができず、簡単にそれを許してしまう。
――ズンッ
重い衝撃がヴォルフの身体を突き抜ける。
アリアの蹴りが入り、そのまま掌打や肘が連続で叩き込まれる。
「ぬが……っ!? こ、小癪な――」
ヴォルフは勢いに負けたまま、右手で小さく青い魔方陣を作り出した。
次の瞬間、アリアの攻撃は空中の何かに弾かれ始める。
「――ぬぅんっ! はぁ……っ、はぁ……っ。
体術なんぞで、私を倒せるとでも――……ぐはッ!?」
ヴォルフが油断した隙に、アリアは背面にまわり、背中に蹴りを入れる。
そしてそのまま服を掴み、地面に投げ落とす。
「魔法使いは頭でっかちが多い。……逆よ。体術くらい、嗜みとしてこなしなさい」
「――ち、ちくしょう……ッ!」
忌々しい声が溢れる。ヴォルフは生まれてこの方、殴る蹴るといった暴行を受けたことが無かった。
全ての邪魔者は、彼の魔法によって平伏してきたからだ。
ヴォルフは地面に両手を付けて、魔方陣を展開すると、そのまま宙に浮いた。
……浮遊魔法だ。
「あら。
偉大な魔法使い様は、情けないことに逃げてしまうのね?」
アリアは挑発した。
しかしヴォルフはそれに乗らず、空中で息を整える。
「はぁ、はぁ……。くそ、舐めた真似を!
……しかしどうだ? この距離なら、ご自慢の体術も届かないだろう!?」
「見損なっては、困るわ」
ヴォルフは高さ10メートルほどのところに浮いていたが、アリアは軽く助走を付けて、跳躍した。
アリアはヴォルフのいる高さにまで軽々と達して、そのまま空中で蹴りを放つ。
……しかしヴォルフは、すんでのところで避けることに成功した。
一方のアリアは、重力に従って地面に舞い戻る。
「――ば、化け物か!? 魔法も使わず、この高さまで跳躍しただと……!?
し、しかし、だ。さすがに地上ほど、私を攻撃することはできまい!!」
確かにアリアは、空中で方向転換することができない。
そのため、ヴォルフが少しでも移動すれば、攻撃を当てることができないのだ。
「さて、これは困ったわね。
どうやって倒せばいいのかしら」
アリアは右手を顎に添えて、馬鹿にするように考えて見せた。
ヴォルフはそれを、圧倒的に優位な上空から見下ろす。
「……ふんっ、倒す方法などあるわけがない。
貴様はもう、私の魔法に蹂躙されるだけなのだッ!!」
そう言うと、ヴォルフは魔方陣と共に、激しい炎の波を地上に生み出した。
さすがのアリアも、これは避けきれない。
「……っ」
「くかかっ、私の勝ちだな!
体術や身体能力は脅威ではあるが――……ふんっ。貴様はそもそも、治癒魔法すら使えないんだろう?
そんな神職者がいたとは、何とも間抜けな話だ」
ヴォルフはそう言ってから、少し考えた。
確かにアリアは、治癒魔法を使えない。しかし――
「……いや、違うな。貴様の例の祝福は、普通の祝福ではない……。
もしかして、あれは魔法なのか?」
続けて、思考を巡らせる。
仮にあれが魔法だとしたら、ヴォルフの知らない魔法を使っていたことになる。
逆に、ヴォルフがあの祝福を使えるようになれば――
「……よし。あの祝福の秘密を教えれば、命だけは助けてやろう。
まぁ、どういう扱いになるかは分からんがな。死ぬよりはマシだろう?」
「あなたには、無理よ」
「私の知識と経験、さらに『無限の魔力』を以ってすれば、私に出来ぬことなど無いッ!!」
「――それでも、あなたには無理なの」
アリアの冷たい、ヴォルフを蔑むように見上げる目線が、彼を無性に苛立たせた。
「……まぁいい。死体から秘密を探る方法もあるのだ。
死んでしまえば、貴様の異能……『対象化拒否』も効果はあるまい」
アリアへの期待が無くなったヴォルフは、宙に巨大な魔方陣を生み出した。
複数の色で描かれたそれは、凄まじいエネルギーを集め始める。
「ふはは、見ろ! この美しい魔方陣を! この繊細な構築式を!
――美しい……。嗚呼、美しい……。これこそが、この世界で最も偉大なる力だッ!!」
ヴォルフの恍惚とした言葉に、アリアは目を細めた。
彼は引き続き空中10メートルの場所におり、本人曰く、美しい魔方陣を宙で抱いている。
アリアは力を抜いて、杖をだらりと下ろした。
「どうしたね? 諦めたのかね?
……賢明だ。それでは食らうがいいッ!! 私の最高の魔法を――ッ!!!!」
ヴォルフの両腕がアリアの――いや、アリアの後ろの床に向けられた。
それと共に魔法陣の角度が変わり、魔方陣の図形に沿って、エネルギーが満ちていく。
稲妻のような迸りが生まれ、触れただけでも血肉が焼かれそうだ。
こんなもの、街中で撃てるわけがない。だからこそヴォルフは、この不思議な空間に移動したのだろう。
「では、さらばだ」
ヴォルフは静かに、別れの言葉を告げた。
エネルギーが一瞬で収斂する。
巨大な魔方陣からは激しくも眩い、稲妻の奔流が生み出されて――
「――ならば戒めを与えよう。
汝は神に拒絶され、己が起源に流転せよ――」
アリアはそっと、彼女の杖を、ヴォルフに向けて突き出した。
一瞬遅れて、稲妻の奔流はアリアに目掛けて襲い掛かる。
……しかし、その奔流はアリアの杖の、先端の一点に吸い込まれた。
そして直後、アリアの杖の先端が眩く輝き――
ヴォルフの魔法のような、激しい稲妻がそこに生み出された。
「――……前提が違うの。残念ながら、手戻りね」
「な……、なぁッ!? 私の魔法が――
……あのエネルギー量を制御下に置いたのか!?
どうなっているッ!! 私がッ! 私が知らないことがあるなんて――……ッ!!」
……激しい稲妻の奔流がヴォルフに襲い掛かり、そのまま彼を飲み込んだ。
奇しくもヴォルフは、自身の『最高の魔法』によって、消し飛ばされてしまったのだ。
静けさと共に、周囲の景色がゆっくりと陽炎のように揺らめいていく。恐らくは元の場所……ヴォルフの邸宅へと戻っていくのだろう。
「……何が最高の魔法よ。
Orbis式は、そこで止まってしまうのね」
アリアの言葉は誰に聞かれることなく、静かな空に消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――はぁ。
この街で一番の有望株も、結局はあんなものだったかー……」
夜、ヴォルフの邸宅の庭。
アリアはヴォルフの研究資料を、焚き火で燃やしていた。
アリアの知らない情報は少なかったが、それでも早々に暗記をして、不要なものになっていた。
――せっかく、ヴォルフの企みと、下手な演技にも乗ってあげたのに。
焚き火は、儚く散る火の粉と共に、どんよりとした煙を出し続けている。
夜の闇に吸い込まれるそれらを見ながら、焚き火を突きながら、アリアはこれからのことを考えていた。
……この街では、探しものは見つからなかった。
もう、この街には用は無い。得るべきものも無い。
ふと、白いローブに付いたススが気になった。
こんなもの、洗うまでもない。軽くこするだけで――
「……あ、汚れが伸びちゃった」
もう少ししたら、この街を出よう。
次の街で宿を取ったら、ローブの汚れを何とかしよう。
まずは小さな目標。いつか、大きな目標を叶えるために。
頃合いを見て立ち上がり、んーっ、と背を伸ばす。
焚き火を漁り、中からほどよく焼けた芋を取り出し、紙袋に入れる。
「――よし。
朝食の準備はおっけー♪」
……紙袋から、芋の焼けた熱が伝わってくる。
夜の空はうっすらと白み始め、今日の始まりを告げていく。
「ふふふっ。
この時間、好きなんだよねぇ♪」
アリアは邸宅の高い柵を乗り越えて、悠々と、次なる出会いに旅立っていった。
#イナズマイレブンGO
#モロボシ・シン