テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#一次創作
7,559
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――アリアは捕らわれた。
今は馬車に詰め込まれ、他の罪人と共に牢獄に移送されている。
アリアは遥か彼方、徐々に消えゆく街の影を眺めながら、ふぅ……、と一息ついた。
「あれ、アリアじゃん。お前、こんなところでどうしたの?」
ふと、そんな声が聞こえた。
アリアは静かに振り向いた。
「……。……ああ、情報屋じゃん」
そこには、先日訪れた街で見知っていた情報屋――ザインの姿があった。
ふたりとも囚人服を着ていたが、顔を見ればすぐに分かってしまった。
アリアの言葉はそれ以上は続かず、微妙な沈黙が流れる。
「……間があったのはアレだが、覚えていてくれて嬉しいよ」
「その節は、大変お世話に……ならなかったけど。まぁ、会えて嬉しいよ、たぶん」
「相変わらずだなぁ……。それに、何だかタメ口になってない?」
「初対面でもないし、人となりも知ってるからねぇ。つまりは、まぁそういうこと」
「信頼の証だな!」
再びの沈黙が流れる。
ふたりをチラチラと見ている者もいるが、注目まではしていないようだ。
「――……ううぅ、何とか言ってくれ……」
「で、そういう情報屋は何してるの? 何か悪いことでもして、捕まっちゃった?」
「それはこっちの台詞なんだけどなぁ……。お前が牢獄に連れていかれるなんて、信じられないよ。
……で、俺はちょっとした野暮用さ。悪いことをしたわけじゃないぞ!」
「へぇ? それじゃ、わざと捕まったんだ?
それにしては、大きなタンコブ作ってるねぇ」
「これだけは計算通りにはいかなかったんだよ……。油断したら不意を突かれて――
まぁ、俺は向こうに着いたらやることがあるからな。お前とはこの馬車でお別れさ」
「ああ、そうなんだ。それじゃあたしからの餞別。
そのタンコブ、治してあげるよ」
「お? サンキュー! お前、中身はそんなんでも神職者だもんな!」
「誰が治癒魔法で治すと言った? もちろん、こっちだよぉ?」
「え? ち、治癒薬? ちょっと待て、それは――――うぎゃああああっ!!」
「うるさいぞ、そこ!!」
馬車の外の警備兵から注意を受けたザインは、タンコブのあった場所を押さえながら、ひとり静かに悶えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
牢獄に着くと、アリアは所定の手続きを済ませて、女性用の牢に投獄された。
最初は荒々しく、イヤらしく扱われていたが、どんどんスムーズに進むようになっていた。
基本的にはアリアが協力的だったことと、何故か牢獄の人間がアリアに触れることが出来なかった……というのが理由だ。
後者はもちろん、彼女の異能の『対象化拒否』によるものだが、それを知る者はここにはいない。
一方その頃、ザインも男性用の牢に投獄されていた。その牢は、1室に10人ほどが入れられている。
本来であれば、ザインは牢に入ることはなかったはず――協力者の看守がいて、ザインも看守になり済ますはずだったのだが……。
……どうやら最近、牢獄内のトラブルでその協力者は亡くなってしまったらしい。
さらに絶望的だったのは、ザインが入った牢には、看守も扱いかねる大物がいることだった。
「おいおい、ここに来るのに持参金も用意してないとはなァ……。
俺の名前はギデオンっていうんだが、この名前は知っているか?」
「は、はい! もちろんです! 大盗賊にして盗賊団の首領!! 知らぬ者などいませんッ!!」
「ほう、それは嬉しいねェ。その上で、舐めてもらったわけだよなァ?
ここでは俺がルールだ。看守なんて、俺に従う小物よ。くくくっ、これから良い暮らしが出来そうだなァ?」
「ひいぃ……」
ザインがこの牢獄に来た理由は、このギデオンと接触するためだった。
しかしそれは、自分が看守の立場で……というのが前提だった。同じ囚人という立場では、交渉なんて最初から上手くはいかない。
……ザインは借金を背負っていた。
だからギデオンが隠し持つという秘宝を手に入れて、一発逆転を狙うべく危険な橋を――渡ろうとしたのに、まさかその橋が、最初から落ちていようとは。
ギデオンの命令の元、他の囚人まで加わり、ザインは入牢の手痛い儀式を終えた。
タンコブやアザをいくつも作ったあと、ギデオンからはようやく解放された。
牢の隅でしくしくと嘆いていると、先ほどの儀式に加担していた囚人が、ザインの近くに寄ってきた。
「ギデオンさんも、いろいろとストレスが溜まってるからな。
ふふふっ、ご苦労さん。俺らはしばらく助かるわぁ♪」
つまり、しばらくはザインが牢内でのいじめの対象になる……ということだ。
逆に、他の囚人はいじめる側にまわり、その分ここで生きていくには楽になる。
「く、くそ……。このままじゃ、悲惨な牢生活を送るハメになっちまう……。
誰か、俺を助けてくれる人は――」
ザインは考えた。しかし最初にいたはずの協力者は既におらず、恐らくそこから流れたであろう賄賂の行き先も、今は情報が何も無い。
正直、詰んだ――……と絶望する中、ひとりの少女の姿が頭に浮かんだ。
しかしその少女、アリアは恐らく離れた場所にいるはずだ。
何故なら、男女で牢が分かれているのだから……。
……しかし、アリアに頼るしか考えられなかった。
とりあえず、今できることは、外に合図を送ることくらい――
――カンッ、カンッ、カンッ
――カーンッ、カーンッ、カーンッ
――カンッ、カンッ、カンッ
「うるせェぞ!!」
「ひぃっ、すんませんっ!」
夜中、ザインが牢の格子を叩いていると、すぐにギデオンの怒号が飛んできた。
今日は諦めることにして、粗末で薄い毛布に入る。床の下が冷たい。
明日の起床は早いだろう。
今日のところはもう、さっさと眠ってしまおう――
……寝付けないまま、目を閉じて何とか眠ろうとする。
しかししばらくすると、頬が引っ張られていることに気が付いた。
また何かされているのか? ……そう思って静かに目を開けると、アリアがそこにいた。
「――何してんの?」
「ちょ、おま……っ。お前こそ、何で?」
「何か救援のメッセージが飛んでたから、気になって。何か知ってる?」
「ああ、アレは俺が飛ばしたんだけど――
……って、気になったところで普通ここまで来れるか!?」
「あたしは、普通のレベルでは語れないんでねぇ♪」
……確かにそうだった。コイツはそうだった。
見れば外の看守が倒れている。鍵は閉まっているのを見るに、一度中に入ってから、改めて鍵を掛けたのだろう。
……いやしかし、女性用の牢とは距離もあったはずだが……さすが、神出鬼没というか、何というか。
ザインとアリアのやり取りに気付いた他の囚人は、不思議そうに声を上げる。
そんな中、ギデオンも例外ではなかった。
「おい、新入り! その女ァ、どうした?
くくくっ、まだガキんちょだが、お前が連れて来たのかァ?」
「ち、違う! コイツは迷い込んだだけだ!」
「こんなところに迷うやつが、どこにいるッ!!
……まぁいい、お前の待遇も考えてやるよ。だから、大人しくソイツを渡しなァ?」
「断るッ!」
「おおー、かっこいいねぇ」
「言ってる場合か! とにかくお前、ここからすぐに出ていけ!」
「んー……。でも幸いなことに、あたしの目的もここにいるんだよねぇ。
さすがだね、あなたの目的もこの人だったんだ?」
「まぁな!」
よくは分からなかったが、ザインは誇った!
……誇ってから考えた。アリアの目的も、もしかしたら例の秘宝だった……?
「くそ、てめぇら、舐めやがって! ……おい、やっちまえ!」
ギデオンの言葉に、牢内の囚人たちが静かに立ち上がり、ザインとアリアを取り囲んだ。
この牢はギデオンの計らいで、他の牢よりも人数の割には広くなっている。
ギデオンは少し離れた場所で、集団リンチを見るのが楽しみでもあった。
「すまないなぁ。従わないと、ウチらも酷い目に遭わせられるんでねぇ」
「暴れないでくれよ? お互い、さっさと済ませようや」
「顔には手を出さないでおいてやる。後々、そっちの方がいいからなぁ?」
――囚人たちの言葉に、アリアは一息ついた。
「さっさと終わらせたいのは、同感ですね。
そちらが従わない理由、あたしは理解しましたので――」
「「「ぎゃぁっ!?」」」
アリアの手元には杖が現れ、素早いスピードで振られていく。
襲い掛かろうとしていた囚人たちは、一瞬で全員が倒されてしまった。
「……まぁ、こういう解決方法しかないですね♪」
倒れた囚人を、アリアは杖の先で突いた。
うめき声を上げはするが、すぐには起き上がれなさそうだ。
その光景を目の当たりにして、ギデオンは静かに立ち上がる。
「ほう……。やるじゃねぇか」
「そちらから手を出そうとしたんですから、恨みっこは無しですよ?」
「恨みなんてしねェ。むしろ、それより――」
ギデオンはアリアを睨みながら、高圧的に見下ろした。
「――まぁまぁ、そう興奮なさらずに。
あたしはあなたに聞きたいことがあるんです。申し訳ありませんが、協力して頂けませんか?」
「なんで俺が、お前なんぞに協力しなけりゃいけねぇんだァ!?」
ザインは、ふたりの目線が衝突する場所から少し離れて立っていた。
いつも以上に丁寧なアリアに対して、粗暴に振舞うギデオン。
このふたりを見ながら、ザインは強く緊張してしまう。
「世の中、ギブ&テイクですからね。もちろん、あなたの力にもなってあげますから」
「そんな必要は無いッ!
しばらく暴れてなかったんだァ。楽しませてもらうぜェ!?」
ギデオンはアリアの話を聞こうとはしなかった。
こんな提案に乗ることはない。最初に痛めつけてやれば、あとは主導権を握れるのだ。
ギデオンは指の骨を鳴らし、首の骨を鳴らし、アリアを威嚇した。
大きな身体の盗賊と、小さな身体の女の子。
客観的に見れば、どちらが勝つのかは一目瞭然――
……ではあるのだが、ギデオンはアリアに攻撃どころか、手を出すこともできなかった。
ギデオンは混乱しながら、いろいろなことを試そうとするが、何もかもが上手くいかない。
「――手が出せん。
よくわからんが……、お前は何かの達人なのかァ……?」
改めて考えれば、牢の男たちを何人も、あっさりと倒しているのだ。
さらに自分が手出しできない、この……何か。正直、得体の知れなさが気味悪く思えてきた。
「ちっ! 仕方ねぇ、話ァ聞いてやるよ。
俺に話があるってことは、そのためだけにこの牢獄まで来たんだろォ?」
「えへへ、ありがとうございます♪」
「……それで、何の秘密が知りたいんだ? 答えてやるかは、内容次第だがなァ」
ギデオンは頭をかいてから、不敵に笑った。
その言葉と共に、牢の囚人たちはそれぞれの毛布に戻っていく。
……そうせずに話を聞いていれば、恐らくまたギデオンから睨まれてしまうだろう。
命令は聞くものの、基本的にはギデオンとは接点を持ちたくない――それが、この牢の空気だった。
ギデオンは自身の布団の上に座り、アリアにも座るように促す。
その横で、ザインはしれっとアリアの横に座った。
アリアは仕方の無さそうにそれを見てから、とりあえずザインの背中を軽く蹴飛ばした。