テラーノベル
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空は茜色に染まり、街路樹の影が長く伸びていた。
こさめとらんは、並んで歩いていた。
けれど言葉はひとつもなく、ただ靴音だけが淡々と舗道に響く。
こさめはうつむいたまま、らんの少し後ろを歩いていた。
その手は握られたまま。
逃げようとすれば簡単にほどけるのに、らんの指は決して離れなかった。
こさめが歩幅を緩めれば、らんもそれに合わせる。
こさめがつまずきそうになれば、そっと引き寄せて支える。
そのたびに、こさめの胸の奥がじんわりと熱くなった。
──嫌いなんて、言うんじゃなかった。
そんな後悔が、小さな息とともに胸の奥で滲んでいた。
家に着くと、らんはドアを開け、こさめを中へ引き込む。
何も言わずに靴を脱ぎ、リビングへと向かう。
外の冷たい空気がまだ肌に残っている。
「座って」
らんの短い言葉に、こさめは小さく頷き、ソファの端にちょこんと座った。
背筋を伸ばし、両手を膝の上で握りしめている。
視線はずっと床の一点を見つめたままだ。
キッチンからカップが触れ合う小さな音が聞こえた。
やがて、らんが戻ってくる。
手には湯気の立つマグカップ。ふわりとレモンの香りが漂った。
「……ほら」
差し出されたカップを、こさめは両手でそっと受け取る。
「……ありがと」
消え入りそうな声。
それでもらんは何も言わず、少しだけ安堵したように微笑んだ。
沈黙が再び降りる。
こさめは小さく息をつきながら、温もりを確かめるようにカップを両手で包み込んだ。
飲む勇気が出ず、ただ温かさだけを感じていた。
「……隣、いいか?」
低い声。
こさめは一瞬だけらんの顔を見て、すぐに視線を逸らした。
それでも小さく、こくんと頷く。
らんはゆっくりと腰を下ろす。
ソファの沈む音がふたりの間の空気を震わせた。
隣に並ぶと、わずかな距離が一気に狭まる。
こさめの呼吸が浅くなり、指先が落ち着かずに爪を撫でていた。
次の瞬間、こさめは小さく息を呑む。
らんの手が、そっとその手を包み込んだからだった。
温かい。
けれどそのぬくもりには、切なさが混じっている。
らんは指先でこさめの指をひとつひとつ確かめるように、ゆっくりと絡め取っていった。
拒む間も与えず、けれど乱暴ではない。
ただ確かめるように、静かに、丁寧に。
「……こさめ」
低く名前を呼ばれ、こさめは胸の奥がぎゅっと縮こまった。
顔を上げようとした瞬間、らんの手がわずかに引かれる。
バランスを崩したこさめの身体が、ふわりとらんの胸の中に倒れ込んだ。
そのまま、すっぽりと包み込まれるように抱き留められる。
らんの心音が耳元で響いた。
強く、そして穏やかに。
こさめは目をぎゅっと閉じ、らんのシャツを握りしめた。
逃げ出したい気持ちと、帰ってきた安心がせめぎ合う。
けれど、らんの腕の中はあまりに温かくて。
こさめは小さく息を漏らした。
「……ずるいよ、らんにぃ……」
その呟きに、らんは小さく苦笑を浮かべ、 こさめの髪に頬を寄せるようにして囁いた。
「……悪い。 でも、もう離したくねぇ」
こさめの心が少しずつ溶けていくように、
その言葉は静かに胸の奥に染み込んでいった。
らんはこさめを抱きしめたまま、そっと耳元で囁いた。
「……キス、してもいいか?」
その声は震えるほど優しく、こさめの胸に響いた。
こさめは一瞬だけ息を詰め、ゆっくりと顔を上げる。
涙の残る瞳がらんを見つめ、こくりと小さく頷いた。
らんは安堵の笑みを浮かべ、そっとこさめの頬を両手で包み込む。
その指先が微かに震えているのを、こさめは感じた。
次の瞬間、温もりが触れ合う。
静かで、やわらかくて、まるで時間が止まったようなキスだった。
互いの息が混ざり、胸の奥が熱くなる。
こさめはその温かさに身を委ね、自然と唇を緩めていた。
らんはゆっくりと唇を離し、こさめの耳元に息を落とすようにして囁いた。
「……愛してる」
その声は驚くほど静かで、けれど確かな熱を含んでいた。
こさめは一瞬、息を止める。胸の奥が、ぎゅっと締めつけられるように痛む。
らんの腕がこさめの腰を包み込む。
その腕の力は強すぎず、けれど逃げ場を与えないほどに温かい。
ゆっくりと、こさめはらんの胸の上に手を置いた。
鼓動が、近い。
早くて、不器用で、それでも優しい音。
「……らんにぃの心臓、すごく速い」
思わずこさめがつぶやくと、らんは小さく笑った。
「お前のせいだよ」
そう言って、こさめの頬に手を伸ばす。親指で涙の跡をぬぐい、そのまま指先で頬をなぞる。
「かわいいな……」
その一言に、こさめの喉が詰まる。胸の奥が、どうしようもなく熱くなって、視界が滲む。
らんの瞳が、ふと曇った。
「……こさめ。このままだと、俺、止まれなくなるかもしれない」
押し殺したような低い声。そこには葛藤があった。
抱きしめたい。触れたい。でも、それ以上に大切にしたいという思い。
こさめは、ほんの一瞬だけ迷った。
けれど小さく首を振って、震える声で言葉を紡ぐ。
「らんにぃじゃないと、やだよ」
その言葉が、らんの心を深く貫いた。
胸の奥に溜めていた感情が、堰を切ったようにあふれていく。
彼は目を細め、こさめの頬を撫でる。
「泣かせて、ごめんな」
唇が再び触れる。
今度のキスは、激しさではなく、静かな温もりで満たされていた。
互いの震えが混じり、吐息が重なる。
涙の味と、紅茶の残り香がほんのりと混ざって、どこか懐かしい甘さを帯びていた。
二人の間にはもう、言葉はいらなかった。
ただ、重なった鼓動と、離れない手のぬくもりだけが、すべてを語っていた。
温かく、静かな呼吸が混ざり合う。
らんはただ優しく、こさめの反応を確かめるように唇を動かす。
触れるたびに、こさめの肩が小さく震える。
逃げるように、けれど引き寄せられるように。
やがて、こさめの身体から力が抜け、 らんの胸にもたれかかりながら、目を閉じる。
頭の奥がふわふわとして、何も考えられなくなる。
心だけが熱くなって、息をするたびに相手のぬくもりが胸に広がっていく。
重なった体温の中で、言葉のいらない想いが確かに交わっていた。
息が荒くなり、胸が高鳴る。
こさめの身体が熱に反応して小刻みに震え、らんの腕の中で体温が混ざり合う。
息が交じり合うたび、こさめは自分でも止められない感覚に包まれて、思わず声を漏らしてしまう。
「んっ……あっ……ゃぁッ……!」
声にならない声も、途切れ途切れの喘ぎも、すべてらんの耳に届いている。
らんはそのすべてを受け止めるように、抱きしめる手に力を込めた。
こさめの熱と震えが伝わるたび、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
互いの体温が重なり合い、肌と肌が触れる感覚だけで世界が狭くなる。
こさめは完全にその熱に飲まれ、思わず声をあげる。
その声に応えるように、らんの腕がさらに強く、優しく、そして激しくこさめを抱き続けていた。
「……こさめ……」
名前を呼ばれるたび、こさめは震えを抑えられず、息が止まりそうになる。
心も体も、らんに全部委ねてしまった瞬間、熱が一気に高まるのを感じた。
あまりの感覚に、こさめは体をよじり、無意識に声をあげてしまった。
らんはこさめを抱き寄せると、唇を重ね、首筋、耳、肩、胸――肌が触れるところすべてにキスを落としていった。
ひとつひとつ、丁寧に、熱を込めて。
こさめの肌に触れるたび、甘く震える声が漏れ、らんの胸を締め付ける。
「んっ……あぁっ!……らんにっ…くすぐったぁ…」
声は途切れ途切れで、でも確実に熱を伝える。
こさめはらんの下で体を揺らしながら、止まらない声に身を任せた。
揺れるたび、らんの腕と唇がさらに熱く絡み、呼吸は荒く、体温が混ざり合う。
「こさめ……好きだ……愛してる……」
らんは自分の理性が崩れそうになるのを感じながらも、何度も名前を呼び、言葉を繰り返した。
その声は甘くも熱く、こさめの耳をくすぐるように響き、心を揺さぶった。
「んんっ……ぁッ! らんに……だめっ……あぁ……へん、なのっ!」
こさめの声は途切れつつ、でも止まることはない。
体中を揺さぶられ、熱に包まれながら、声はますます甘く、切なく、けれど激しく。
らんはその声を聞くたびに、さらに体を近づけ、キスを重ねる。
首筋から肩、胸元にまで、余すことなく熱を伝え、こさめの肌に愛情の印を刻んでいった。
「愛してる……ずっと……こさめ……」
言葉に震えが混ざる。ただ相手を求め、独占したい気持ちだけがあふれる。
それでも、こさめを安心させるように、らんは優しく、深く、何度も伝えた。
こさめの身体は、らんに抱きしめられ、全身の感覚が熱でいっぱいになっていた。
震える声と荒い息の間から、思わず甘く高まる声が漏れる。
「らんっ、にぃ……すき……すき……あぁっ……きもちいっ……の!…でりゅっ、なんかぁっ!だめぇッ…!」
こさめの体は何度も震え、全身に快感が駆け抜けるのを、肌で、胸で、背中で感じていた。
「大丈夫……もっと気持ちよくなろうな……」
低く濃い声がこさめの耳元で震え、甘く、そして激しく心を揺さぶる。
こさめはその声に呼応するように、さらに体を揺らし、甘く切なく、止まらない声を漏らす。
「ぁ゙ッ!………しゅきしゅぎぃッ!!……あぁっ…ぜんぶ、きもぢぃ……! ん゙ん゙~~ッ!!?」
らんは理性が崩れかけながらも、抱きしめ、熱を伝え、何度も「愛してる」と囁いた。
こさめはまだ止まらぬ快感と興奮の中で、声と体を震わせ続けていった。
熱の波が落ち着き、こさめの身体はらんの腕の中でゆっくりと震え続けていた。
まだ心臓が早鐘のように打ち、息は荒いけれど、徐々に落ち着きを取り戻していく。
「……らんにぃ……」
小さな声で、こさめがそっとらんを見上げる。
らんはその目を受け止め、にっこりと微笑んで、こさめの頭を撫でた。
抱きしめる腕の力を少し緩めるけれど、離すことはない。
肌と肌が触れる感覚が、まだ熱を残したまま二人を包む。
こさめはその温もりに安心しながら、らんの胸に顔をうずめ、ゆっくりと呼吸を整える。
「……だい……すき……」
かすかな声が漏れる。
らんはそれを聞くと、再び唇をこさめの髪や額に落とす。
「俺も、ずっと……こさめがすきだよ」
声は低く、温かく、夜の静けさの中でこさめの心まで染み込んでいく。
こさめはらんの腕の中で目を閉じ、耳元で交わされた言葉の余韻を胸に感じる。
熱は少しずつ柔らかくなり、体の震えも落ち着き、けれど心の奥には、まだ熱い余韻が残っていた。
「おやすみ、こさめ」
二人はそのまま、抱き合ったまま静かに夜を過ごす。
息が揃い、心拍も重なり、世界が二人だけの空間に変わったようだった。
互いに触れ合い、温もりを確かめ合う。
それは言葉よりもずっと深い愛情の証で、夜が明けるまで続く穏やかな幸福だった。
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