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#恋愛
水無月 京
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豆さんとはまた1週間ほど会わない日が続いた。何のことはない、彼が関西のクライアント回りをしていただけだ。
彼の居場所が目の前だろうと、遠い関西や海外だろうと、振られるタスクの量も難易度も見事に何も変わらない。だから、彼がどこにいても特に問題はないんだけどね。
だけど。
彼と雑談をする機会が減って、ちょっとだけ物足りないかもしれない。
なーんてね?
不謹慎な冗談を軽率に思いついて、一人で赤面しまうほどには、豆さんとの仕事はやりやすくて、私が豆さんに気を許しているのは明らかだった。
振ってくる仕事の物量は多いように見せかけて実は緻密に計算されている。少しだけ頑張れば。少しだけ背伸びをすれば届く。そんな絶妙な采配をしてくるパートナーを私は見たことがない。
『もう遅い時間なんだから明日でいいですよ。でもありがとう』
私の実力不足で作業の返しが遅くなってしまったことは何度もあるけど。何度でも、懲りずに同じ言葉を送ってくれて。
おそらくプロジェクトチームのメンバーにも同じような態度で接しているであろうことは想像に難くない。
そう思うと、あの人はどれだけ周りの人間に気を配って生きているんだろう、と想像を絶する努力にふと泣きたくもなる。
『この日程調整頼める?』
一人で勝手な感慨に浸っていれば、チャットが動いて現実に強制送還される。コンビニで買ったアイスラテを一口飲んで、口の中で苦味を堪能し、精神統一を図る。
「よし、どんとこい」
褒めたばかりで恐縮だが、豆さんから飛んでくる日程調整依頼は碌なものがない。人数が多い、組みたい枠が超直近、好き嫌いが多いクライアントとの会食場所の手配…。
他のパートナーだって似たようなものだとは思うけれど、彼の依頼はそれが高頻度に発生する。
意を決してチャットを除きこむと、希望する日程と、参考情報としてメールが添付されている。
これは…このセクターのパートナー5人を集めて1時間の会議を設定しろという、難易度の高さは相変わらずSクラスだ。
「セクター長選か」
メールを見ながら、おおよその内容を把握する。
まあ内容が内容なだけに、今回の会議はすんなり枠を譲ってもらえるかもしれないけれど。
セクター長選に、社長選。
この会社は、これから来年度に向けて大きな政治が始まることになる。
***
「あー、セクター長選かぁ」
先日の梓たちとの飲み会でも、その話題は当然のように出てきた。
梓も紫水もシニアスタッフで、現場でプロジェクトを中心的に回していることが多い。だから、管理職以上の動向に目を向ける機会も自然と増えてしまうのだろう。
紫水が鼻で笑いながら言葉を継ぐ。
「また下らない戦いに下々の者が巻き込まれますね」
「そうね。オッサンたちが泥試合しながらクライアントには綺麗事を説くんだから。こっちはたまったもんじゃないっつの」
現場に一番長くいれば、クライアントから真っ先にあることないこと問われるのも彼らだ。何かと噂話を聞きつけては、色々と吹っかけてくるクライアントはたくさんいる。
「大豆生田さん以外に適任いないんだからさっさと決めちゃえばいいのに」
梓の一言は、多分ほとんどのメンバーが思っていることだ。
梓も紫水もインフラ系産業を担当するユニットに所属しているが、豆さんが統括しているケミカル系やその他資源系など、複数のユニットが連合して1つのセクターを形成している。
だから、彼らも今回のセクター長選には無関係ではいられない。
本来、複数のチームから長を選出するとなれば、売り上げとか、知名度とか、対外的な活動の実績とか…わかりやすくパートナーとしての実力から決めるのが「クリーン」で。
そのセオリーでいけば、複数のユニット長の中で豆さんがずば抜けて実力があるので、彼以外にはいない。本来は。
「社長がどっちになるかで進退が決まるっていうのもだいぶ面倒よね」
梓の言葉に大きく頷く。
今年は同じタイミングで弊社の社長も交代になるらしい。
候補は2人だが、どちらも”派閥”を持っている。まあ、社長候補にまでのしあがるには明に暗に支援してくれる仲間が必要なのは、否定はしないけれど。
「何だっけ、製造系のパートナーが社長になれたら、社長権力使って大豆生田さんじゃなくて弊ユニット長をセクター長にしてあげるとかなんとか」
「ここまで明け透けだと、いっそ清々しいほどのアホだよなぁ」
政治とも言えねーな。ただのごっこ遊びじゃねーか。
紫水はますます口を歪めてお酒を胃に流し込んでいく。まあ、彼にも色々ストレスがあるんだろうなぁ。