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樹村葉
181
「あ!勇者さん、何年振りかな?」
扉を開けてすぐ、薄暗い部屋に響いた変に陽気な声。
声の主は何処かと探しているうちに強い圧と共にコツコツと足音が近づいてきた。
そこから放たれている尋常じゃない量の瘴気に警戒し剣を構えた。
「誰だ!」
「申し遅れました。伏見ガクと申します!サクッとガクって呼んでください。」
背後から聞こえた声に背筋が凍りそうになる。
振り返ると美形の青年が立っていた。
姿には似つかないが、間違いない。こいつが魔王だ。
「君にとっては初めましてかな?」
「どういうことだ?」
僕はこいつに会ったことがあるのか?
「実は君が赤ん坊の時会いに行ったんです。攫おうと思って。
でも攫わなくって正解でした。こんなに強く育つなんて。
本丸まで辿り着いたのはあなたが初めてですよ。」
「攫う…?」
衝撃の事実だ。でもなんで、?
なんで攫おうとした?なんでやめた?
「王族の子が欲しかったんですよ。アンデットしかいない寂しい城だったので。
でもあなたが泣きそうな目で嫌だとこっちに訴えかけるように見てきたから諦めたんです。」
魔王にも意外と慈悲深い所があるんだな。
ただ攫うという思考になること自体非人道的ではある。
「とっても可愛くなりましたね、刀也さん」
「は?」
何を言ってるんだ、こいつは。
敵対関係だぞ、これから僕はこいつを殺そうとしてるんだぞ?
「まあ、そりゃあ驚きますよねw
正直に言います、俺は刀也さんを飼うつもりです。殺しはしません。」
飼う…?殺さない…?
さっきから何を言っているのかさっぱりわからない。
瘴気にやられて幻聴でも聴いているのか?
「あんまり傷つけたくないので、大人しくしててくださいね、!」
ぼうっとしている僕に不意打ちをかけるように、横から攻撃が飛んできた。
少し避けるだけでは追尾をしてくる。 形状的におそらく拘束技だろう。
一度に何個も繰り出されるため、回避するだけで困難だ。
「やっぱり強いですね。」
どの口が言っている。ここまで追い詰められたのは初めてだ。
ここから打開策はあるか?
僕とあいつはかなり距離が離れている。まず僕の得意の剣での近接攻撃は不可能だ。
ただ僕には剣一本しかない。これまでずっとそれで生きていけたからだ。
もう少しだけ備えをしていけば良かったなと悔やんでも遅い。
剣を投げて当て、その隙を突くしか僕には手段がない。
相手の拘束魔法をなるべく巻き、タイミングを見計らう。
いまだ…!
そう思って僕は剣を投げた。
無慈悲にもそれは魔王に捕まれ、床に落ちた。
終わった。もう成す術がない。
それならせめてあいつの顔面を殴ってやる。
相手に近づこうとした。
その瞬間、拘束魔法が飛んできた。
完全に焦っていて、冷静に判断することができていなかった。
僕は傷一つ付けることもできずに魔王に捕えられてしまった。
余裕だったというように、一歩一歩ゆっくりと僕に近づいてくる。
その顔は酷くニヤついていて、獣のような顔だった。
「やっと俺のものになってくれましたね、刀也さん…♡」
僕は考える間も無くそいつによって眠らされた。
コメント
1件
うわあ、2話にして早くも衝撃の展開ですね…!魔王が赤ん坊の頃に刀也を攫おうとしていたとか、しかも「飼う」って発言がもう完全にヤバいやつじゃないですか(笑)。でも「泣きそうな目で嫌がるから諦めた」っていうのが妙に人間っぽくて、単なる悪役じゃない魅力を感じました。刀也の焦りや無力感が丁寧に描かれていて、続きがすごく気になります!