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悪夢
凛は部屋のベッドに沈み込み、毛布を頭までかぶった。
暗闇に閉じこもっても、瞼の裏に浮かぶのは冴の顔。
あの夜、苦しげに告げられた「好きだ」の言葉が、何度も耳にこびりつく。
「……っ、やめろ……」
自分の声でさえ震えていた。
兄弟だから駄目だ。
分かっている。
分かっているのに――胸の奥では、その言葉を待ち望んでいた自分がいる。
(俺は……最低だ)
息を吸うたび、罪悪感で肺が焼ける。
認めたら終わりだ。
兄弟でも、サッカーでも、一緒にいられなくなる。
だけど否定すればするほど、冴の姿が鮮明になる。
ピッチで並んだ背中。
真剣な横顔。
一度だけ触れられた指先の熱。
忘れたいのに、忘れられない。
逃げたはずなのに、逃げ場がない。
「兄貴なんか……大っ嫌いだ」
震える声で吐き捨てた。
けれど次の瞬間、胸の奥がきしむほど痛む。
それが真っ赤な嘘だと、自分が一番分かっているから。
凛は毛布の下で拳を握りしめた。
この想いを殺さなければならない。
でも殺すたびに、何度でも冴が甦ってしまう。
――終わりのない悪夢に閉じ込められたみたいだった。