会社の都合で地方に引っ越したアキラは、古いけれど格安のアパートを借りた。
周囲は静かで、住人も少ないようだ。
アキラの部屋は203号室。隣は204号室だが、誰が住んでいるのかは分からなかった。
毎晩のように、夜1時を過ぎると隣の部屋から何かを引きずるような音が聞こえてきた。
「ズズ…ズズズ……」と、床を這うような音。
気持ち悪さはあったが、我慢すれば住めると思い、数日はそのままにしていた。
ある日、管理人に会ったアキラは聞いてみた。
「隣の204号室って、誰が住んでるんですか?」
管理人はしばらく黙っていたが、静かに言った。
「……あの部屋、10年前から誰も住んでませんよ」
ぞっとした。
でも音は確かにする。
もしかして何かの動物か、風か――そう思いたかった。
そしてその夜。
また音が聞こえた。「ズズズ……ズズ……」
我慢できなくなったアキラは、思い切って隣の部屋の前に立った。
当然、鍵は閉まっているはずだ。
だが――
ドアノブに手をかけた瞬間、勝手に「カチャ」と開いた。
中は真っ暗だった。
懐中電灯を片手に一歩だけ足を踏み入れたとき、足元に何かが触れた。
それは「白く細長い手」。
驚いてライトを照らした瞬間、床の上をうつ伏せに這う女と目が合った。
女は首をねじ曲げ、音を立てずに笑っていた。
その瞬間、アキラの意識は途切れた。
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こわ、、、、