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初めまして、『ライデン社』の副社長を務めるマーガレット=ライデンですわ。若輩の身ではありますが、副社長の重役を任されたのは光栄なことです。ええ。とんでもないほど激務で、華の十代がお仕事だけで終わりそうなくらいに。
お父様はこの世の者とは思えないほどの先見の明を持ち、日々開発される発明品や提唱される様々な理論は、帝国に居るあらゆる賢者達すら理解できないほど時代を先取りしております。
もちろんよくよく呑み込んで理解すれば、それは全て素晴らしいものであることは間違い有りませんわ。残念ながら帝国の為政者達はその価値を正しく理解できないのです。
もしお父様が貴族などの高い地位だったなら、帝国は今まで以上に発展したことは疑う余地もありません。
さて、そんな敬愛すべきお父様ですが欠点もありますわ。それが研究開発を最優先にして営業などは二の次となること。
纏まった資金があれば爵位を得ることも難しくないのに、それさえも研究開発費に回してしまうのですから。もちろん従業員に対しても充分な給金を渡しているので離職率も極めて低い。
しかしながら、帝国軍と言う最大の顧客を得て拡大を続ける我が社は組織として肥大化。お父様は相変わらず研究三昧で、経営に関するあらゆることを母に丸投げしてしまいました。
人間とは欲深いもの。末端や地方の人間ほど汚職に手を染めている有り様。
憎らしいあの女。極めて不愉快ではありますが、我が母が副社長をしていれば汚職が蔓延するのは道理ですわ。
汚物以下のあの女を始末して副社長の座を奪った時は、汚職まみれの経営陣に愕然としましたわね。
お父様に事情を話して、大規模な粛清を断行。
汚職に手を染めた幹部を粗方片付けて、燻っていた人材を大々的に抜擢して経営陣を一新。二年掛かりましたわ。
ようやく落ち着いてきたと思ったら、北部工廠での不祥事。全く、お父様にも困ったものですわ。
お父様が気兼ねなく研究開発に集中できるように、私が頑張らないと。
「今日も美しい装いであるな、マーガレット」
「お父様もご機嫌麗しゅう。お話は伺っていますわね?」
「うむ、北部工廠の件であるな?距離はあれど、発生から一月も経過しているのは情けない」
北部工廠までは馬で五日の距離。決して近くはありませんが、遠くもない距離ですわ。
「人的被害は無いようですが、試作品が奪われたとか?」
「詳細はこれから分かるが、困ったものである。我輩は不幸な事故について責め立てるつもりは無いのであるが」
「お父様の寛大なお心は承知しておりますが、それは私が娘である故。離れた場所を任せるには似つかわしくない者だったと事です」
「どの様にするつもりであるか?」
「此度の件、隠蔽を図る行為そのものが我が社に多大な損失を与えます。その様な者をそのままにする道理も無し。敵ですわ。容赦なく潰すつもりです」
私が断言すると、お父様は困ったような笑みを浮かべておりますわね。
「マーガレットと話していると、まるでシャーリィ嬢と話しているように感じるのである」
「彼女と私の思考回路は似ておりますので、無理もありませんわ」
以前お会いしたことがありますが、シャーリィは私と同じです。大切なものを護りたいだけ。私にとってはお父様と『ライデン社』ですわ。害を成すものは排除しないと。
「であるか」
「それで、北部工廠では何を作っていますの?」
重要なことですわ。
「うむ、主に銃火器や大砲……後は新型の戦車であるな。あの辺りは鉄鉱石が豊富に採れる。開発には最適な場所である」
お父様の言葉を聞いて頭を抱えてしまいましたわ。何でよりによってそんな大事な場所を信頼に足る人物に任せないのですか。
娘として断言しますが、お父様は人を見る目が全くありませんわ。この二年で嫌と言うほど実感しました。ええ。
特に営業部門は最悪ですわ。先月帝国南部シェルドハーフェン近郊で発生したスタンピードは、『暁』の活躍で退けられたと聞きました。
しかしながら、よりによって南部支部のおバカさん達が法外な値段で暁に武器弾薬を売り付けて暴利を得たのだとか。
自慢気に報告してきたので、その場で人員の一新とおバカさん達の処罰を断行しました。明らかに度を超えていましたし、これでは『暁』に対する利敵行為に他なりませんわ。
シャーリィを敵に回してはいけません。会社とお父様を護るなら、手を組む相手を間違ってはいけないのです。
「そんなに大事な場所を……いえ、責任者の人事は私に任せて頂けますわね?」
「う、うむ」
その後私はお父様と一緒に詳細を確認しましたが、内容は考えていただけでも最悪の分類には入りました。
ことの発端は北部工廠が賊の襲撃を受けて、試作品である武器の幾つかを破壊されてしまったことです。
これそのものは仕方のないことですし、お父様も不問としたでしょう。
が、露見して厳罰されるのを恐れた工廠長は、証拠隠滅を図りました。
奪われたのではなく正規の価格で販売したと。何をどうすればそのような考えに至るか理解不能ですが、おバカさんの思考回路を理解するのは至難ですので脇に置きます。
問題なのは、護衛に当たっていた傭兵団が『血塗られた戦旗』に属していたこと。彼らに格安で試作品の一部を売り払い辻褄合わせを依頼したことでした。
なんで『血塗られた戦旗』!?我が社のお得意様である『暁』とは数年前から険悪な関係ではありませんか!おバカさん!
「それで、譲渡した品は何ですの?」
「はっ、はいっ!戦車二両と大砲二門、それと機関銃を幾つかと弾薬を……」
「おバカっ!」
「ぐふっ!?」
震えながら報告する工廠長の言葉を聞いて、私は自分を律することが出来ませんでしたわ。つい手にした扇子で思い切り叩いてしまいました。淑女にあるまじき行為です。猛省。
ですがコイツは母の派閥に属していた。小物でしたし、改心するならばと温情を与えてみればこの様ですわ!
「なっ、なんと。まさか戦車までかね!?これは困ったことになったなぁ……」
「何を悠長な!我が社存亡の危機ですわよ!?」
こんなことがシャーリィに知られたら!いや、知られるのは時間の問題。より良い関係を維持するために、先んじて話をしなければ!
「貴方のあらゆる権限を剥奪します。牢獄で迂闊な真似をした自分自身の浅はかさを呪いなさいな。連れていきなさい!」
「お待ちください!お嬢様!お嬢様ーっ!」
おバカさんは衛兵達が連れ出したので静かになりましたわ。
「お父様、私はこれから黄昏へ向かいます。お父様は以前お話しされていた電信の開発に注力されてください。情報伝達をスムーズにするために!それ以外は目処が立つまで禁止ですからね!」
「あっはい」
ああっもう!あの女の尻拭いばかり!本当に嫌になりますわ!