雪が降り始めた。パラパラ、いや、ふわふわと雪が降ってくる。『この子の名前どうしよう』そう志保は思う。志保は無事に女の子を産み、志保の次の悩みはその子の名前のことだった。『雪の日に生まれたから有希とかって言う名前でも良いのかなぁ』そう志保は考え込む。
この頃最近の子どもの名前は漢字が難読過ぎて読めないとか俗に言うキラキラネームとかと言うものは絶対に避けたいと思う志保だった。
そういえば陸斗はどこに行ったのだろう。そう志保はふと思う。『この子は絶対にいじめなんかされない方がいいな』そう志保は思い。ゆっくりと目を閉じたのだった。
志保は小学六年生になった。小一からのいじめもなんやかんやあってまだ続いている状態だ。
だが、今の志保にはいじめがどうのこうのと泣いている場合では無い。実は、志保は中学受験をするのだ。いわゆるお受験と言うやつのそれだ。だから、いじめでどうのこうのと泣いてるのでは無く、あと何日の辛抱と考えれば少し気が楽だった。もう季節は冬、受験本番が近いのでより一層勉強に拍車がかかる。
「志保」
陸斗が話しかける。
「受験……頑張れよ」
事あるごとにそれを言ってくるのは一体なんなのだろうと思いながら志保は優しく頷く。
『受験に受かって卒業したらもう陸斗とはあんまり会えないんだよな』そう志保は思う。
だったらこの気持ちをもう伝えておいた方が良いのではとこの頃思ってしまう。
この気持ちとは俗に言う、恋。好きと思う気持ちのことだ。
「ねぇ、陸斗……」
周りに誰も居ないのを良いことに口が滑る。
「ん、どしたの?」
そう陸斗が反応する。
今これを言ったら陸斗との関係性が一瞬にして崩れる。そう思っても、一度開いた口は止まるということを知らなかった。
「私さ……実は、実はぁ……陸斗、あなたの事が……す、好きなんでーー」
そう言う志保の口を塞ぎ、陸斗が志保の肩に手を置く。『いつ陸斗が私の身長越したんだろう』そう思いながら志保の心臓は高鳴り続けた。
「志保……実は俺も……」
待って、やめて。それ以外言わないで、と何度思ったことか。どうせなら振って、私の事を。今この恋が成就したら一つ未練が生まれてしまう。受験をやめるきっかけが出来てしまうから、おねがい陸斗ーー私の事を嫌いって言って。
そんな事を思っても陸斗はその続きを言った。
「……俺も、志保の事が好きだ!」
『あぁ、言われてしまった』そう思った。その時感じたのは両想いという嬉しさもあり、落胆もあった。
「へぇ、そうなんだぁ」
今一番聞きたくない声を聞いた。そう志保と陸斗は思った。
声のする方を見るとそこには反志保の奴らが三、四人いた。
「ねぇ志保。ちょっとこっち来てくれない」
そう言われ、志保は嫌な予感がしながらも反志保グループの奴らの所へ向かう。
「志保、ダメだ!行っちゃ!」
そう陸斗が言う。そして志保は
「大丈夫だから、大丈夫。気にしないで。どうにかなるよ」
そう言い志保は反志保グループの奴らと一緒に何処かに行ってしまった。陸斗が探しても志保は見つからず、志保の『大丈夫。なんとかなる』と言う言葉を頼りに陸斗は家に帰った。
7時頃、突然インターホンが鳴った。
陸斗の母親が出るとそこに居たのはーー志保の親
だった。そして陸斗がひょこりと顔を出すと志保の母親が
「陸斗君。家の子、志保見なかったか」
と尋ねてくる。陸斗が『なんでそんな事聞くの?』と言うと志保の親は志保が学校から帰ってこない。今日は塾も休みだしこの時間に志保が居ないのはおかしいと言う説明をされた。その話を聞いて志保に心底怒りが湧いたのはこの時が始めてだった。
「志保……何とかなってねぇじゃんか」
そう陸斗が呟き陸斗は体操着を持って家を出て学校に駆け出す。
「陸斗君!何とかなってないってどういう事」
そう志保の親が言い陸斗に着いていく
陸斗が学校に到着し校庭の真ん中で志保を探す。
「志保ー!志保!どこだー!」
そう言って辺りを見回すと校庭にある体育倉庫の扉が微かに開き、少し光が漏れていた。『まさかそこに志保が』と思い陸斗は倉庫に近づき、恐る恐る扉を開ける。
そこの空気は冷たかった。ひんやりとしていて異様で不気味な寒さがそこにはあった。
「志保……ここにいるのか……」
陸斗が今にも消えそうな声でそう言う。
『まさかな、こんな所になんて』そう思い倉庫を後にしようと振り向いたその時ーーカチャンと言う音が鳴った。
『本当にここに志保が』そう陸斗は思い音のする方へゆっくりと近づく。
そしてそのにいたのは案の定ーー志保だった。
それも、裸の状態だった。志保と目が合い志保がもっと縮こまる。
「見ないで……何でもないから。女の子の……私の裸見たら……殺すから……」
志保がそんな事を言ったのはこれが初めてかもしれない。そんな事を思いながら陸斗ははっと気が付き自分の上着を志保に掛ける。
「陸斗君ー」
「志保ーどこだー」
そう言う声が聞こえ陸斗はさっと倉庫から出る。志保は微かに聞こえる程度の声で『やめて』と言ったが陸斗はそのまま志保の親と自分の親をこっちだと誘導した。
大人達は皆志保の姿に絶句だった。
それもそうだろう。志保は今までの苦しみを陸斗以外の誰にも言っていなかったのだから。
「今志保ちゃんが置かれてる状態はこの様なものです。今は何かと言いたい事があると思いますが、今はそっとしてあげてください」
そう陸斗が言う。
そして志保側を向いて、
「志保、帰ろう。ーーあぁ、大丈夫。俺の体操着だけど、一応持ってきてるから」
そう言った。
陸斗の体操着は志保にぴったりなサイズだった。
それはまるで、いつかの雪の日にあったように、とてもぴったりなサイズだったのだ。
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