死角になる所から彼らを見つめる、赤髪の方は戦闘民族の一員だったそうで魔力量が膨れ上がっている、あいつに直で攻撃を仕掛けても当たる気がしない、座り込んでるもう1人の方に攻撃をしてみたらあいつが庇った、友達だからって自分を犠牲にできる人の考えを僕は一生理解できないだろう
「こんな奴ら真正面から戦わなくてよかったんだ、何してんのほんと」
「んー!めんご!」
そう謝る彼女の姿を見て少し安心した、死ななくて良かった、怪我がなくてよかった
「…ごめん」
彼らには聞こえないだろう声で呟いた、誰か止めてくれと、友達を庇う仕草をする彼を傷つけたく無い、どうしても彼を、優しかった彼を思い出してしまう
あちらの方の物陰から剣が飛んできた、避けれずに当たり僕は吹っ飛んだ
(痛…父上もあの時こんな感じだったのかな?)
立ち上がれない、口からポタポタと血が溢れてくる、足音がする方を向くとあいつが居た
「なんでここにいる…!神格者、レイン・エイムズ…」
冷たい視線、昔に向けられた視線によく似ている、完全に僕をゴミと思ってるんだろうななんて思いながら攻撃をはかる、だが失敗した、やるなら魔法で一思いにやってほしい
ラブに逃げて欲しいと、この事をアベル様に伝えて欲しいと思った、血が溢れて止まらない、痛かった、僕はやっぱり才能どころか、魔法を扱う実力も、正々堂々戦う勇気も、アベル様を裏切らない忠誠心も、何もなかったんだ
「…アベル様が居るのは…この奥の道をずっと真っ直ぐ進んだ先、」
痛みに耐えながらそんな嘘を言ったらレインは僕を睨みつけてその道を進んで行った
「あいつに敵を信じる心があってよかった…痛いなぁ…」
天井を見つめた、悔しかった、どうすればよかったのだろうか、もしあの時共闘しておけば早くこの戦闘が終わった、するとこんな事態も逃れられたんだ
「あ、あのー…」
「大丈夫かよ、ほら」
僕の視界に入ってきたのはあの2人だった、なぜ敵に手を差し伸べたんだろうと思ったけど僕が思えないなと思ってその手を取った
「兄様がごめんね、大丈夫?」
「…それよりも」
「ん?」
歯を食いしばった、僕はこんなに弱かったんだなって実感して悔しかった
「ここから離れて、今すぐに逃げ…」
言い切る間も無く2人が倒れた、後ろを振り返るとオロルとアンサーの2人が歩いてきた
「こちらの2人は使わせていただきます、よろしいですか?」
「なにか言いかけていた気がしたが…すまない」
2人は僕を覗き込んだ、なんて優しい人達なんだろう、馬鹿らしいなんて思いたく無いのに、なんでこんな確認をするんだろう、ふらつきながらも立ち上がった
「ううん、大丈夫」
「…怪我凄いですね、ただいま回復魔法を」
「相当な強敵だったのだな、それでも敵を油断させてくれて感謝する、所で第五魔牙はどこだ?」
なんで僕の心配をするんだ、僕は何の役にも立てなかった足手まといだ
「ラブは…」
言いかけると視界がふらっと真っ白になった、2人が見えない背中ではずっと血が流れていたから貧血だろうか、倒れ込み朦朧としながら2人を見る、慌てている2人を見て申し訳なさを感じながら意識を手放した
気がつくと知らない部屋に居た、見覚えがない天井にベット、体を起こし辺りを見渡すと沢山の本、運動の為の道具、アンサーとオロルの部屋だとわかった、立ちあがろうと床につま先を付けると体に強烈な痛みが走った
「痛っ…」
足や腕、体の至る所に包帯が巻かれている、一部の包帯には血が染み込んでいた、それに気づいてすぐにベットを確認した、幸い白いシーツに血は付いてない、ほっと安心してドアに目を向けると鍵を開け、入ってきた人が居た
「起きたか、体の調子はどうだ?」
入ってきたのは白い箱を持ったアンサーだった、あの手にある白い箱はなんだろうと思った
「もう大丈夫、ごめんお邪魔して、すぐに出る」
痛みに耐えながら立ち上がりふらつく足取りで歩こうとしたが倒れてしまった、ありがたい事にアンサーに受け止めてもらった
「大丈夫じゃないだろ、包帯変えるから座っとけ」
そう言われベットに座る、あの白い箱は救急箱のようで中から包帯と魔法薬が出てきた
「腕、出してくれるか?」
「わかった」
紅く染まった包帯が巻かれた腕を差し出すとアンサーは少し戸惑いながらも魔法薬を掛けて包帯を変えてくれた、普段包帯なんて巻かないだろうから不慣れなのだろう
「…回復魔法で治そうと思ったんだが、怪我が酷いらしくしばらくはこうやって魔法薬である程度治してから回復魔法を掛けないといけないらしい」
「そっか、包帯ありがと」
別の所の包帯も変えるらしく僕はアンサーを背にベットに座る、背中の包帯を変える彼は気まずそうに話した
「腹と背中の傷、跡が残るそうだ」
変えた包帯の上から僕の背中を撫でる彼の手が包帯越しからわかるほどに、暖かくて優しかった
「…そっか」
ぽろっと一粒の雫が零れ落ちた、久しぶりの感覚で、父上が今そばに居ると思えて嬉しかった、
「…ありがとう」
「あぁ、」
優しい声が部屋に響く、何かを話してしまうとすぐに大粒の涙が溢れそうだ、昔に、父上が居たあの時に戻れたようで嬉しかった
「マイロ、出来たぞ」
「…」
返事をしたくなかった、後ろに父上が立っている気がして、この時間を終わらせたくなかった
「マイロ?」
アンサーは僕が座っているベットに乗って僕の顔を覗き込んだ、その横顔が父上に似ていて、我慢していた大粒の雫が溢れた
「…」
黙り込む彼を見て急に怖くなった、喉に詰まった言葉無理やりを出した
「ごめ…ん、すぐ…泣き止…」
言いかけると彼が包帯だらけの僕の体を抱きしめた、暖かくて、余計に涙が溢れてきた、言葉が出なくて嗚咽ばっかしか出なくて、そんな僕の頭を撫でてくれたその手が暖かくて我慢できなくなって溢れる涙を止めず彼に泣きついた
「大丈夫、思いっきり泣いてくれ」
その声はとても優しくて暖かくて、嬉しかった
EP6 傷跡
コメント
2件
面白すぎる😭