テラーノベル
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☀️6:12
まだ外は少し暗い。
リビングには静かな空気が流れていた。
〇〇はソファに座ったままスマホを見ている。
今日はニューヨークへ向かう日。
GUCCIショーのための現地入り。
朝早い移動なのに、少しだけ緊張して全然眠れなかった。
ソファの端には昨日まとめていた資料。
テーブルには飲みかけの水。
完全に仕事モードの朝だった。
〇〇「……やば、ほんとに今日なんだ」
小さく笑う。
でも同時に、どこか現実感がない。
ニューヨーク。
GUCCI。
海外ショー。
数年前の自分なら絶対想像してなかった。
その時。
後ろの扉が静かに開く。
北斗「……朝から元気だな」
眠そうな声。
振り返ると、黒いパーカー姿の北斗がいた。
まだ寝起きなのか髪も少し乱れてる。
〇〇「あ、起きた」
北斗「起きるだろ。お前朝からガサガサうるさい」
〇〇「えー静かにしてたじゃん」
北斗「スーツケース閉める音で起きた」
〇〇「あ、ごめん」
北斗はそのまま冷蔵庫を開け、水を取り出す。
まだ半分眠そう。
でもちゃんと〇〇のことを見ている。
北斗「何時の便?」
〇〇「九時半くらい」
北斗「早」
〇〇「現地着いたらそのまま打ち合わせあるからね」
北斗「ハードすぎ」
〇〇「でも楽しみ」
その言葉に、北斗が少しだけ笑う。
北斗「まあ、お前こういうの好きそう」
〇〇「好き」
即答。
〇〇はソファの背もたれへ身体を預けながら笑った。
〇〇「しかもGUCCIだよ?普通にやばくない?」
北斗「昨日から五回は聞いた」
〇〇「あははっ」
北斗は呆れた顔をしながらも、どこか優しい。
〇〇が嬉しそうにしてる時の顔を、北斗は結構好きだった。
北斗「……でも気をつけろよ」
〇〇「ん?」
北斗「海外だし。変なのいるから」
〇〇「分かってますー」
北斗「絶対分かってない」
〇〇「分かってるって」
北斗は小さくため息をつく。
そのあと自然に〇〇の頭を軽く撫でた。
〇〇「……なに急に」
北斗「別に」
でもその手は少しだけ優しかった。
〇〇は一瞬だけ目を丸くして、そのあと小さく笑う。
〇〇「寂しい?」
北斗「は?」
〇〇「私いないの三日」
北斗「静かになって助かる」
即答。
〇〇「ひど」
北斗「……でも」
〇〇「?」
北斗は少しだけ視線を逸らした。
北斗「ちゃんと帰ってこいよ」
〇〇はその言葉に少しだけ目を細める。
〇〇「帰ってくるよ」
北斗「ならいい」
短いやり取り。
でもその空気が心地よかった。
この時はまだ。
数日後、自分たちを巻き込む“大騒ぎ”なんて、二人とも想像していなかった。
ーーーーーーーーー
〇〇side
都内の空港。
まだ朝早い時間なのに、空港内は思ったより人が多かった。
〇〇は黒のキャップを深く被りながら、マネージャーと並んで歩いている。
後ろには数人の警備スタッフ。
かなり厳重だった。
マネ「今日はいつも以上に気をつけて動くからね」
〇〇「うん」
ストーカー関連の件もあって、ここ最近は移動の警備がかなり増えていた。
特に海外。
人も多いし、動線も読まれやすい。
マネ「ラウンジ入ったら少し休めると思う」
〇〇「ありがと」
#timelesz
いちごみるく
16,246
2,177
2,132
#紅一点
いちごみるく
1,365
スマホにはすでに海外メディアの記事がいくつも通知で流れてきていた。
“GUCCI SHOW”
“HIMENO OO”
自分の名前が並んでる。
でもまだ実感は薄い。
〇〇「なんか変な感じ」
マネ「?」
〇〇「海外の仕事って、毎回ちょっと夢みたい」
マネは少し笑う。
マネ「もう十分世界レベルだよ」
〇〇「それは盛りすぎ」
〇〇は小さく笑った。
今回、日本からショーへ招待されているのは〇〇と佐野勇斗だけだった。
だからこそ、余計に注目度も高い。
でもスケジュールの都合で、現地入りは別。
〇〇が前日入り。
勇人は撮影終わりで、明日ショー当日にニューヨークへ来る予定だった。
マネ「佐野くん、今日ドラマ撮影終わってから移動らしいよ」
〇〇「ハードすぎない?」
マネ「向こうもギリギリ」
〇〇「倒れるって」
そう言いながら、〇〇は少し笑う。
その時。
少し離れた場所から、ざわっと空気が動いた。
「え、〇〇ちゃん?」
「やば、いる」
小さな声。
すぐに警備が自然に前へ出る。
〇〇は軽く会釈だけした。
マネ「急ごう」
〇〇「うん」
足早に専用エリアへ向かう。
ガラス越しに朝日が差し込んでいた。
ニューヨークまで、あと少し。
ー✈️🇺🇸
ニューヨークへ到着して、車へ向かう途中。
冷たい風が頬に当たる。
〇〇「……やば、ほんとに来たんだ」
思わず小さく笑う。
高いビル。
行き交う人。
聞き慣れない英語。
全部が映画みたいだった。
隣ではマネージャーが現地スタッフと話している。
警備スタッフもすぐ近くにいた。
〇〇はスマホを取り出す。
通知が大量に溜まっていた。
timeleszのグループLINE。
風磨『着いた?』
勝利『時差やばそう』
聡ちゃん『写真送って〜』
将生『NY!?!?いいな!!』
猪俣『海外の空気吸いたいっす』
しの『ショー楽しんでください!』
てら『絶対かっこいいやつじゃん』
原『迷子になるなよー』
〇〇「あははっ」
その下にはSixTONES。
ジェシー『Hey New York〜!!』
樹『時差で死ぬなよ』
慎太郎『ハンバーガー食べて』
高地『気をつけてね〜』
きょも『景色見たい』
そして。
“北斗”
〇〇は少しだけ目を細める。
そのまま通話ボタンを押した。
数秒後。
北斗『……もしもし』
低い声。
少し眠そう。
〇〇「北斗ー」
北斗『着いた?』
〇〇「今着いた!」
北斗『無事?』
〇〇「無事!」
その声だけで少し安心する。
〇〇は空港の外を見ながら歩いた。
〇〇「なんか全部すごい」
北斗『浮かれすぎて転ぶなよ』
〇〇「転ばないし」
北斗『お前たまに危なっかしいからな』
〇〇「ひど」
でも自然に笑ってしまう。
その時。
少し離れた場所で、一気にフラッシュが光った。
「OO!」
「LOOK HERE!」
海外メディアだった。
カメラが一斉に向く。
〇〇「うわっ」
思わず立ち止まる。
警備スタッフがすぐ前へ出た。
北斗『……もう撮られてんの?』
〇〇「なんかすごい」
北斗『気をつけろよ』
声が少し低い。
〇〇はそれに気づきながら、小さく笑った。
〇〇「分かってるって」
北斗『ならいいけど』
短い沈黙。
そのあと。
〇〇「……ねぇ」
北斗『ん?』
〇〇「帰ったらまた話聞いてね」
北斗は少しだけ黙る。
そして小さく笑った。
北斗『どうせまた止まんなくなるだろ』
〇〇「バレてる」
北斗『まあ、ちゃんと帰ってきたら聞いてやる』
〇〇「うん」
自然に笑う。
その時の〇〇はまだ知らない。
このニューヨークでの数日が、日本中を巻き込む大騒ぎになることを。
ーーーーーーーーー
☀️ニューヨークの朝。
ホテルの高層階から見える景色は、まだ少し白く霞んでいた。
〇〇は大きな窓の前でコーヒーを飲みながら、スマホを見ている。
今日はGUCCIショー当日。
朝からすでに現地スタッフとの連絡が止まらない。
マネ「あと一時間後にヘアメイク入ります」
〇〇「はーい」
その時。
スマホが震えた。
勇人『今着いた』
〇〇「え、早」
思わず笑う。
数分後。
ホテルのラウンジ。
キャップを深く被った勇人が、大きく手を振りながら入ってくる。
勇人「〇〇ーー!!」
〇〇「うるさっ」
勇人「ニューヨークだぞ!?テンション上がるだろ普通!」
〇〇「朝から元気すぎるって」
勇人はそのまま〇〇の隣へ座る。
サングラスを外しながら大きく息を吐いた。
勇人「いや、ガチで眠い」
〇〇「さっきまで元気だったじゃん」
勇人「飛行機で死んだ」
〇〇「あははっ」
昔からこうだった。
会えばずっと喋る。
ずっとうるさい。
くだらないことで笑ってる。
ぐるナイの現場でも、毎回スタッフに「また始まった」って言われるくらい。
勇人「てか見た?」
〇〇「何を」
勇人「外のメディア。やばい人数いた」
〇〇「空港でもすごかった」
勇人「GUCCIえぐ」
〇〇「ほんとにね」
その時。
勇人がふと〇〇を見る。
勇人「緊張してる?」
〇〇「……ちょっとだけ」
勇人は少し笑った。
勇人「まあでも〇〇なら余裕でしょ」
〇〇「雑」
勇人「いやほんと。普通にこういう世界似合うし」
〇〇「急に褒めるじゃん」
勇人「今日は世界の姫野〇〇だから」
〇〇「なにそれ」
二人で笑う。
その空気は、いつものぐるナイの延長みたいだった。
恋愛とかじゃない。
昔から変わらない距離感。
だからこそ、お互い気を遣わない。
勇人「終わったら写真撮ろうぜ」
〇〇「いいよ」
勇人「絶対SNS載せる」
〇〇「また変顔やめてよ?」
勇人「無理」
〇〇「あははっ」
ラウンジには二人の笑い声が響いていた。
ショー会場へ向かう車の中。
窓の外にはニューヨークの街並みが流れていく。
〇〇「ほんとに人多いね」
勇人「観光客えぐい」
〇〇「勇人ずっと外見てるじゃん」
勇人「いや普通にテンション上がる」
〇〇「あははっ」
勇人はスマホを見ながら突然吹き出した。
勇人「待って、もうGUCCIの公式上がってる」
〇〇「え、うそ」
二人でスマホを覗き込む。
そこには昨日の現地入り写真。
コメント欄は海外ファンで埋まっていた。
勇人「“Japanese stars”だって」
〇〇「なんか恥ずかしい」
勇人「いやでも普通にかっこいい」
〇〇「勇人もね」
勇人「知ってる」
〇〇「うざ」
車内でまた笑いが起きる。
マネージャーが前から振り返った。
マネ「そろそろ着くよ」
〇〇「はーい」
会場が近づくにつれて、外の警備が増えていく。
ブランドロゴ。
大型ビジョン。
海外メディア。
別世界みたいな空気。
勇人「やば」
〇〇「……すご」
車が止まる。
扉が開いた瞬間、一気にフラッシュが光った。
「OO!!」
「HAYATO!!」
「THIS WAY!!」
英語が飛び交う。
〇〇「うわっ」
勇人「眩しっ」
二人とも少し笑いながら歩き出す。
スタッフに案内されながら、レッドカーペットへ向かう。
勇人「転ぶなよ」
〇〇「それ北斗にも言われた」
勇人「あー、言いそう」
〇〇「あははっ」
勇人「でも今日の〇〇、普通にオーラやばい」
〇〇「また始まった」
勇人「いやマジ」
〇〇「勇人もね」
勇人「知ってる」
〇〇「二回目」
笑いながら肩を軽く押す。
勇人もふざけるみたいに押し返した。
その自然な距離感を、
周囲のカメラはずっと追っていた。
会場へ入った瞬間、空気が変わった。
ブランドロゴが並ぶ巨大なエントランス。
海外セレブ。
モデル。
メディア。
眩しいフラッシュが止まらない。
〇〇はブラウンのベロアフーディーに黒のプリーツスカート、厚底ブーツを合わせたGUCCIコーデで歩いていた。
胸元を横切る緑と赤のシェリーライン。
ストリート感があるのに、圧倒的に目を引く。
勇人も黒のダブルスーツを完璧に着こなしていた。
ラフなのに色気がある。
会場スタッフが二人を案内していく。
「THIS WAY」
〇〇「やば……ほんとに海外だ」
勇人「〇〇めっちゃ撮られてる」
〇〇「勇人もね」
実際、カメラはかなり二人へ向いていた。
日本から来た招待客。
しかも今勢いのある若手俳優と国民的女優。
注目度は高かった。
レッドカーペットへ出た瞬間。
フラッシュが一気に強くなる。
「OO!!」
「HAYATO!!」
「LOOK HERE!!」
〇〇「まぶしっ」
勇人「目開かん」
〇〇「あははっ」
勇人は小さく笑いながら、自然に〇〇の背中を軽く押した。
転ばないように。
でもその距離感が近い。
海外カメラマンたちは、その一瞬も逃さない。
〇〇「ちょ、押さないで」
勇人「ヒールでコケそうだったじゃん」
〇〇「コケないし」
勇人「いや危ないって」
二人は昔からこんな感じだった。
距離感が近い。
テンポも同じ。
気を遣わない。
だから自然と笑ってしまう。
スタッフからポジション指示が飛ぶ。
二人並んで立つ。
フラッシュ。
またフラッシュ。
〇〇は軽く髪を耳にかけながら視線を向けた。
その横で、勇人が小さく吹き出す。
〇〇「なに」
勇人「いや、〇〇海外でも強すぎ」
〇〇「意味分かんない」
勇人「オーラやばいって」
〇〇「勇人今日ずっとそれ言うじゃん」
勇人「事実だから」
〇〇「はいはい」
笑いながら肩を軽くぶつける。
勇人も笑う。
その自然なやり取りを、無数のカメラが撮り続けていた。
ーーーーーーーーー
北斗side
北斗はソファへ座ったままスマホを見ていた。
時刻は深夜。
リビングの電気だけが静かについている。
画面には〇〇との通話履歴。
数分前まで話していたばかりだった。
『帰ったらまた話聞いてね』
その声がまだ耳に残っている。
北斗「……浮かれすぎ」
小さく呟く。
でも少しだけ安心していた。
〇〇は昔から海外へ行っても、仕事が忙しくても、ちゃんと連絡をくれる。
そこは変わらない。
スマホが震える。
〇〇『着いたー』
その一言と一緒に写真が送られてくる。
ニューヨークの夜景。
高いビル。
車窓からの景色。
〇〇『やばくない?』
北斗は思わず少し笑った。
北斗『観光客かよ』
〇〇『だってすごい』
北斗『仕事忘れんなよ』
〇〇『忘れてませんー』
そのあとも写真が止まらない。
ホテル。
街並み。
英語だらけのコンビニ。
北斗『送ってきすぎ』
〇〇『共有』
北斗『いらん』
でも全部ちゃんと見てしまう。
北斗はスマホを見つめながら、静かに息を吐いた。
部屋が静かすぎた。
〇〇がいないだけで、こんなに違う。
いつもならリビングで騒いでる声がするのに。
北斗「……三日だけだろ」
自分に言い聞かせるみたいに呟く。
その時。
また通知が入る。
〇〇『勇人明日来るらしい』
北斗の視線が止まる。
数秒。
北斗『ふーん』
短く返す。
〇〇『相変わらず塩』
北斗『眠い』
〇〇『嘘つけ』
北斗はそのままスマホをテーブルへ置いた。
でも頭には“勇人”の名前が残る。
ぐるナイ。
共演。
昔から距離が近い二人。
〇〇は気を遣わなくて済む相手だと言っていた。
北斗もそれは知っている。
知っているけど。
北斗「……別に」
小さく呟く。
自分でも何に引っかかってるのか分からない。
そのままソファへ身体を預けた。
数時間後。
日本中が、その二人の名前を並べて騒ぐことになるなんて、この時の北斗はまだ知らなかった。
🌙夜。
北斗はソファへ座ったままぼんやりテレビを眺めていた。
でも内容は全然入ってこない。
静か。
静かすぎる。
その時。
スマホが震えた。
画面には「樹」。
北斗「……もしもし」
樹『もしもーし』
やたら明るい声。
北斗「なに」
樹『いや?寂しがってるかなと思って』
北斗「は?」
樹『〇〇いなくて死んでない?』
北斗「死なねぇよ」
樹『えー絶対寂しいじゃん』
北斗「別に」
即答。
すると電話越しで樹が吹き出した。
樹『うわ、出た。“別に”』
北斗「うるせぇ」
樹『だって今日めちゃくちゃ静かじゃん家』
北斗「……まあ静かだけど」
樹『あ、認めた』
北斗「お前電話してくるためにそこ拾うな」
樹は楽しそうに笑っている。
完全に面白がってた。
樹『じゃあ俺が〇〇の代わりになってあげようか?』
北斗「……は?」
樹『ねぇ北斗ー!聞いてー!今日ねー!』
わざとらしく高い声を出す。
北斗「キモ」
樹『えっひど』
北斗「今すぐ切るぞ」
樹『待って待って』
電話越しで樹が爆笑してる。
北斗は呆れながら額を押さえた。
樹『でもマジで〇〇いないと違うな』
北斗「……」
樹『お前ん家感なくなる』
北斗は少し黙る。
それは少し分かってしまった。
リビングの騒がしさも。
急に話しかけてくる声も。
笑い声も。
全部ない。
樹『あれ、ガチで寂しい?』
北斗「違う」
樹『反応遅かったな今』
北斗「うるせぇ」
樹『はいはい』
樹は笑ったあと、少しだけ声を落とした。
樹『まあでも、楽しそうでよかったじゃん』
北斗「……まあな」
樹『GUCCIとか普通にすげぇし』
北斗「うん」
北斗はスマホを見つめる。
昼間送られてきた〇〇の写真。
楽しそうに笑ってた。
北斗『ちゃんと帰ってこいよ』
送るか迷って、結局打つのをやめた。
樹『北斗?』
北斗「ん?」
樹『顔怖いぞ今』
北斗「見えてねぇだろ」
樹『なんとなく分かる』
北斗は小さく息を吐く。
そのあと静かに笑った。
北斗「……くだらねぇ電話」
樹『でも出るじゃん』
北斗「切るぞ」
樹『はいはい、おやすみ失恋男』
北斗「失恋してねぇ」
通話が切れる。
静かな部屋に戻る。
北斗はしばらくスマホを見つめたあと、
小さく呟いた。
北斗「……早く帰ってこいよ」
ーーー
朝。
日本ではまだ早い時間なのに、スマホの通知が止まらなかった。
【姫野〇〇、GUCCIショーで海外メディア騒然】
【timelesz紅一点・姫野〇〇、NY降臨】
【佐野勇斗&姫野〇〇、“距離感”が話題】
【海外カメラマンも熱視線】
SNSも一気に動いていた。
『〇〇ちゃんビジュやば』
『GUCCI似合いすぎる』
『勇人との並び強すぎ』
『ぐるナイコンビ普通に可愛い』
『距離近くない?笑』
『仲良すぎて草』
ホテルの部屋。
〇〇はベッドの上でスマホを見ながら笑った。
〇〇「めっちゃ記事出てる」
隣で勇人もスマホを見ている。
勇人「海外の写真えぐ」
〇〇「盛れてる?」
勇人「普通に」
〇〇「やった」
勇人はニュース写真をスクロールしながら吹き出した。
勇人「これ絶対“熱愛説”言われるやつ」
〇〇「あー」
〇〇も少し笑う。
実際、写真の距離は近かった。
肩を寄せて笑ってる瞬間。
並んで歩いてる瞬間。
自然体すぎる。
〇〇「まあいつものことじゃない?」
勇人「確かに」
ぐるナイでもずっとこんな感じだった。
だから二人とも深く気にしていなかった。
その時。
〇〇のスマホが震える。
『北斗』
〇〇「あ」
勇人「お、彼氏?」
〇〇「違うわ」
即答。
通話に出る。
〇〇「もしもしー」
北斗『……お前ニュース出すぎ』
開口一番それだった。
〇〇「あははっ、見た?」
北斗『嫌でも流れてくる』
〇〇「すごくない?」
北斗『お前と佐野のツーショばっか』
〇〇「勇人今隣いるよ」
北斗『は?』
勇人「もしもーし」
北斗『……うるさ』
勇人「冷たっ」
〇〇は思わず笑ってしまう。
でも北斗はスマホの向こうで小さく息を吐いた。
北斗『……変なの撮られんなよ』
〇〇「ん?」
北斗『海外だから気ぃ緩むだろ』
〇〇「大丈夫だって」
勇人「保護者じゃん」
北斗『佐野は黙れ』
勇人「怖」
〇〇「あははっ」
その時の三人は、まだ軽く笑っていた。
このあと数時間後。
“ただ仲が良い”
その空気だけを切り取られて、日本中が騒ぎ始めることになる。
ーーーーーーーーー
☀️✈️🇯🇵
空港の到着ロビーは、朝から異様な熱気だった。
規制線の向こうには大量のファンと報道陣。
スマホを構える人の数が明らかに多い。
〇〇はサングラスをかけたまま、小さく息を吐いた。
マネ「かなり来てる。離れないで」
〇〇「うん」
隣では警備スタッフが動線を確認している。
その少し後ろで、勇人も帽子を深く被りながら周囲を見ていた。
勇人「え、やば。こんないる?」
〇〇「絶対ニュース回った」
勇人「まだ記事出てないよね?」
〇〇「でもGUCCI関連で海外映像めっちゃ出てたし」
勇人「あー……」
二人とも苦笑いする。
ただ、空気は少しだけいつもと違った。
ファンの視線が熱い。
名前を呼ぶ声も多い。
「〇〇ちゃーん!」
「勇人くーん!」
「GUCCIやばかった!」
フラッシュが一気に光る。
〇〇は軽く会釈しながら歩く。
勇人も手を振る。
でも距離は自然と少し空いていた。
マネ「そのまま進んで」
〇〇「はい」
警備に囲まれながらゲートを抜ける。
その時。
ファンの一人が大きめの声で叫んだ。
「ぐるナイコンビー!!」
勇人「あははっ」
思わず勇人が反応する。
〇〇もつられて笑った。
その瞬間。
またフラッシュが連続で光る。
警備「止まらずお願いします!」
〇〇「すみません」
歩きながら、〇〇は少しだけ帽子を押さえた。
勇人「なんか芸能人みたい」
〇〇「今さら?」
勇人「たしかに」
二人で笑う。
本当にいつも通りだった。
長年一緒に仕事してきた、ただの気楽な空気。
でも周囲から見れば、その距離感はかなり近かった。
海外ショー帰り。
並んで歩く人気俳優と国民的女優。
絵になりすぎていた。
出口付近。
車へ乗り込む直前。
勇人「またゴチで」
〇〇「うるさそう」
勇人「お前もだろ」
〇〇「あははっ」
最後に軽く手を振って、それぞれ別の車へ乗り込む。
日本へ戻る車の中は、思っていたより静かだった。
窓の外には見慣れた東京の夜景。
長時間の移動で身体は重いのに、不思議と眠気は来ない。
〇〇「……やっと帰ってきた」
小さく呟く。
マネージャーは助手席でスケジュールを確認していた。
マネ「明日は昼から打ち合わせだけ。午前は休んでいいから」
〇〇「ん、ありがと」
スマホを見る。
通知が止まらない。
GUCCI関連の記事。
海外メディア。
ファンの投稿。
勇人とのツーショもたくさん回っていた。
〇〇「やば、めっちゃ写真撮られてる」
マネ「海外メディアすごかったからね」
〇〇は苦笑いする。
でも嫌な感じではなかった。
ショー自体は本当に楽しかったから。
ホテルに戻ったあとも、
timeleszメンバーとM!LKメンバーで集まって騒いで、
勇人がずっとうるさくて、
将生と原が深夜テンションで笑ってて、
風磨が「近所迷惑」って止めてた。
そんな普通の時間だった。
車がマンション前へ止まる。
〇〇「ただいまーって感じ」
マネ「今日はちゃんと休みなよ」
〇〇「はーい」
軽く手を振って車を降りる。
エントランスへ入ると、一気に静けさが戻った。
エレベーターを待ちながら、〇〇はスマホを開く。
北斗からLINE。
『着いた?』
短い一言。
〇〇は少し笑う。
『今帰った』
数秒後。
『遅』
『時差』
『知らん』
〇〇「あはは」
疲れてたはずなのに、少しだけ気が抜ける。
部屋の扉を開ける。
リビングの灯りがついていた。
〇〇「……あ」
ソファには北斗。
黒パーカー姿のまま、スマホを見ていた。
北斗「おかえり」
〇〇「ただいま」
その一言だけで、ようやく“帰ってきた”実感がした。
玄関のドアが閉まった瞬間から、〇〇の話は止まらなかった。
〇〇「ねえ聞いて、ほんとに街全部映画みたいだったの!」
北斗「はいはい」
〇〇「あとね、ホテルのエレベーターで海外のモデルさんと一緒になって!」
北斗「うん」
〇〇「しかもそのあとGUCCIのスタッフさんがめっちゃ優しくてさ、“Beautiful!”って!」
北斗「よかったな」
〇〇「絶対ちゃんと聞いてない!」
北斗はソファに座りながら小さく笑う。
でもちゃんと聞いていた。
〇〇が帰ってきてから、部屋が一気にうるさくなった。
その感じが妙に安心する。
〇〇は紙袋を床へ置きながら北斗の隣へ座った。
〇〇「あと勇人がね、現地でずっとうるさくて」
北斗「想像つく」
〇〇「“〇〇絶対北斗に自慢するじゃん”とか言ってた」
北斗「……うるさいな佐野」
〇〇「あははっ」
〇〇は楽しそうに笑う。
その笑い方が、数日ぶりなのにやたら懐かしく感じた。
〇〇「でもほんと楽しかった」
北斗「顔見れば分かる」
〇〇「え?」
北斗「帰ってきてからずっとテンション高い」
〇〇「だってすごかったんだもん!」
〇〇は勢いのまま北斗の腕を軽く叩く。
〇〇「ショーの会場もやばかったし、海外メディアもすごいし、歩くだけでフラッシュだし!」
北斗「スターじゃん」
〇〇「でしょ?」
北斗「調子乗んな」
〇〇「あははっ!」
リビングに笑い声が響く。
北斗は呆れた顔をしながらも、どこか楽しそうだった。
〇〇「あとね、写真いっぱい撮った」
北斗「またインスタ上がる?」
〇〇「上がるかも」
北斗「ファンまた騒ぐな」
〇〇「なんで?」
北斗「お前海外行くと毎回ビジュいいから」
〇〇「なにそれ」
〇〇は吹き出す。
北斗は視線を逸らしながら水を飲んだ。
でも本当にそう思っていた。
海外の舞台に立ってる〇〇は、眩しいくらい綺麗だった。
〇〇「ねぇ、ニュース見た?」
北斗「見た」
〇〇「どうだった?」
北斗は少しだけ黙る。
北斗「……普通にかっこよかった」
〇〇「!」
北斗「会場でも目立ってたし」
〇〇「え、待って、今日素直すぎない?」
北斗「うるさい」
〇〇は嬉しそうに笑いながら、ソファへ倒れ込む。
〇〇「は〜〜〜疲れた!」
北斗「時差やばいんだろ」
〇〇「でもまだ喋れる」
北斗「もう十分喋ってる」
〇〇「まだある!」
北斗「元気すぎ」
北斗は呆れながら笑った。
〇〇が楽しそうなら、それでよかった。
少なくとも今は。
この平和な空気が、明日の朝一変するなんて、まだ知らないまま。
ーーーーーーーーー
☀️スマホのバイブ音で、〇〇は目を覚ました。
まだ外は暗い。
隣では北斗が眠ったまま、小さく寝息を立てている。
〇〇は起こさないように静かにベッドを抜け出し、スマホを見る。
画面には「マネージャー」。
嫌な予感がした。
〇〇「……もしもし」
マネ『〇〇、起きてる?』
その声で、一気に空気が変わる。
ただの朝じゃない。
〇〇「うん……どうしたの?」
マネ『落ち着いて聞いて』
〇〇の喉が小さく鳴る。
マネ『熱愛記事、出た』
〇〇「……え?」
一瞬、意味が分からなかった。
マネ『佐野勇斗くんとの件』
その名前で、完全に目が覚める。
〇〇「……は?」
マネ『今もうニュースもXもかなり回ってる』
〇〇は無意識にソファへ座り込む。
スマホを開く。
次々流れてくる速報。
【姫野〇〇&佐野勇斗 NY熱愛スクープ】
【深夜の肩組み密会】
【ホテル同宿報道】
〇〇「……なにこれ」
指先が少し震える。
記事を開く。
自分と勇人の写真。
笑ってる写真。
肩を組んでる一瞬。
ホテルへ入るタイミング。
全部切り取られていた。
〇〇「……違う」
小さく声が漏れる。
マネ『今事務所も対応してる』
〇〇「いや、だってあれ普通にパーティーだったじゃん」
マネ『うん』
〇〇「スタッフもいたし、関係者もいたし……」
マネ『分かってる』
でも画面の中では、全部消されている。
“二人きり”
“禁断の夜”
“恋人”
知らない言葉ばかり並んでいた。
〇〇「……これ、違う」
マネ『うん、説明はもう動いてる』
〇〇「肩組みとかも一瞬だったし、そもそも二人きりじゃないし……」
そこだけ切り取られているのが分かるから、言葉が少し揺れる。
マネ『現場スタッフ含めてパーティーだったのは証言取れてる』
マネ『ただ拡散が早い』
〇〇はスマホを見つめたまま動けない。
そこにいる“自分”が、自分じゃないみたいだった。
〇〇「……勇人は?」
マネ『対応してる』
〇〇「……分かった」
通話が切れる。
静かな部屋。
朝はまだ始まったばかりなのに、もう全部が壊れ始めていた。
〇〇はスマホを握ったまま俯く。
すると。
後ろで小さく布団の擦れる音がした。
北斗「……ん」
眠そうな声。
〇〇の肩がびくっと揺れる。
北斗はまだ半分眠ったまま、ゆっくりリビングへ出てくる。
髪も少し乱れている。
北斗「……朝からどうした」
〇〇はすぐ振り返れなかった。
スマホを握る手に力が入る。
北斗はぼんやりしたまま冷蔵庫を開け、水を取り出す。
そして何気なく言った。
北斗「また変なニュースでも出た?」
その一言で、空気が変わる。
〇〇はゆっくり顔を上げた。
〇〇「……出た」
北斗の動きが止まる。
静か。
ほんの数秒なのに、やけに長い。
北斗「誰の」
〇〇は息を吸う。
でもうまく入らない。
〇〇「……私と、勇人」
北斗は何も言わない。
ただ静かに〇〇を見る。
〇〇は耐えきれなくなったみたいにスマホを差し出した。
北斗は画面を見る。
記事。
写真。
大きな見出し。
その空気だけで、もう全部伝わった。
北斗「……は?」
低い声。
〇〇「違うの」
言った瞬間、声が少し震えた。
〇〇「ほんとに、あれ普通にみんないたし……」
北斗は記事をスクロールしていく。
〇〇はその横顔を見れない。
北斗が何を思ってるのか分からなくて怖かった。
〇〇「……ごめん」
小さく零れる。
北斗「なんでお前が謝んの」
〇〇「だって……」
北斗「事実じゃないんだろ」
〇〇は少しだけ詰まる。
〇〇「……うん」
北斗はスマホを置いた。
でも表情は全然笑ってなかった。
北斗「……悪意あるな」
その声が静かすぎて、逆に痛かった。
〇〇は唇を噛む。
SNSの言葉が頭から離れない。
“担降り”
“プロ意識低い”
“恋人距離”
“言い訳苦しい”
全部刺さる。
〇〇「……怖い」
気づいたら口から出ていた。
北斗がゆっくり〇〇を見る。
〇〇「こんなの初めてで……」
声が泣きそうになる。
でも泣きたくなくて俯いた。
すると。
北斗が静かに〇〇の前へしゃがむ。
北斗「〇〇」
〇〇は顔を上げられない。
北斗「こっち見ろ」
その声が少し優しい。
〇〇はゆっくり顔を上げた。
北斗は真っ直ぐ〇〇を見る。
北斗「お前が違うって言うなら、俺はそっち信じる」
〇〇の喉が詰まる。
北斗「だから今は、変なの見んな」
〇〇「……でも」
北斗「見れば見るほど傷つくだけ」
〇〇の目が少し赤くなる。
北斗はそんな〇〇を見て、小さく息を吐いた。
そのあと。
何も言わず、〇〇の頭を軽く引き寄せる。
〇〇「……っ」
北斗「大丈夫」
低い声。
近い体温。
その瞬間。
張っていたものが少しだけ崩れた。
〇〇は北斗の服を小さく掴む。
北斗は何も言わない。
ただ静かに背中を撫でた。
朝の静かな部屋に、スマホの通知音だけが何度も響いていた。
朝の空気は、もう完全に変わっていた。
テーブルの上ではスマホが何度も震えている。
ニュース通知。
事務所からの連絡。
関係者からの着信。
〇〇はソファに座ったまま、ぼんやり画面を見つめていた。
北斗はその横で腕を組みながら、また記事を開いている。
北斗「……最悪だな」
低く呟く。
すると。
再び〇〇のスマホが鳴った。
マネージャー。
〇〇はすぐ通話を取る。
〇〇「もしもし」
マネ『〇〇、ごめん。予定変わった』
〇〇「……え?」
マネ『今日昼からだった打ち合わせ、朝イチに変更』
〇〇は小さく息を飲む。
マネ『熱愛の件で上とも話す』
〇〇「……あぁ」
現実感が一気に押し寄せる。
ただの“記事”じゃない。
もう仕事全体に影響が出始めてる。
マネ『スポンサー関係もあるから、早めに整理したいって』
〇〇「……分かった」
マネ『今から迎え行く』
通話が切れる。
〇〇はしばらくスマホを見たまま動かなかった。
北斗「事務所?」
〇〇「……朝から打ち合わせになった」
北斗「熱愛関係?」
〇〇は静かに頷く。
北斗は小さく舌打ちした。
〇〇「上の人とも話すって」
北斗「……はぁ」
重たい空気。
〇〇はゆっくり立ち上がる。
でも身体が少し重い。
頭も全然整理できない。
さっきまで普通の朝だったのに。
〇〇「……準備しなきゃ」
小さく呟いて部屋へ向かう。
北斗はその背中を見ていた。
いつもなら朝からうるさいくらい喋るのに、今日は静かすぎる。
〇〇はクローゼットを開ける。
何着ればいいんだろ。
そんなことすら分からない。
スマホはまだ止まらない。
メンバー。
友達。
知らない番号。
全部通知で埋まっていく。
〇〇「……しんど」
小さく零れた声。
その時。
後ろから北斗が来る。
北斗「送る」
〇〇「……え?」
北斗「事務所まで」
〇〇「いいよ、大丈夫」
北斗「大丈夫そうに見えない」
即答だった。
〇〇は言葉に詰まる。
北斗は〇〇の顔を見る。
目の下もうっすら赤い。
多分、かなり無理してる。
北斗「一人で行かせたくない」
その言葉が静かに落ちる。
〇〇は少しだけ目を伏せた。
〇〇「……ありがと」
北斗はそれ以上何も言わない。
ただ〇〇のバッグを取って、そのまま玄関へ向かった。
外はもう朝の光が広がり始めている。
でも〇〇の世界だけ、まだ暗いままだった。
マンションの下には、もう黒い車が停まっていた。
エンジンはついたまま。
マネージャーが外でスマホを見ながら待っている。
〇〇は帽子を深く被ってエレベーターへ乗った。
北斗も隣にいる。
いつもなら何か話すのに、今日は静かだった。
エレベーターの数字だけがゆっくり減っていく。
〇〇はずっとスマホを握ったまま。
通知は止まらない。
北斗「……見るなって」
低い声。
〇〇「……ごめん」
北斗は小さくため息をつく。
そのまま〇〇のスマホを軽く下げさせた。
北斗「今は余計なの入れんな」
〇〇は小さく頷く。
でも指先は少し冷たい。
エントランスへ出る。
マネージャーがすぐ気づいて駆け寄ってきた。
マネ「〇〇、大丈夫?」
〇〇「……うん」
全然大丈夫じゃない。
でもそう言うしかなかった。
マネージャーは一瞬北斗を見る。
北斗「送る」
短く言う。
マネ「助かる」
その空気だけで、状況の重さが分かる。
車へ向かう途中。
マンション前にも少し人がいた。
スマホを見てる人。
こちらを気にしてる視線。
〇〇は無意識に俯く。
北斗が自然に〇〇の前へ立った。
視線を遮るみたいに。
〇〇は少しだけ目を見開く。
北斗「乗れ」
静かな声。
〇〇は小さく頷いて車へ乗り込む。
ドアが閉まる。
外の音が一気に遠くなる。
でも胸のざわつきだけは消えない。
マネージャーも助手席へ乗る。
車がゆっくり動き出した。
その瞬間。
マネージャーのスマホがまた鳴る。
マネ「……はい」
表情がさらに険しくなる。
〇〇は嫌な予感しかしなかった。
マネ「……分かりました」
通話が切れる。
数秒の沈黙。
そして。
マネ「週刊誌以外も全部ネットニュース転載始まった」
〇〇は静かに目を閉じた。
もう止まらない。
完全に、日本中へ広がっていた。
車の中は静かだった。
エンジン音だけが小さく響いている。
〇〇は窓の外を見たまま動かない。
でも。
膝の上で握っている手だけ、少し震えていた。
北斗はそれに気づく。
〇〇「……怖い」
小さな声。
消えそうなくらい弱かった。
マネージャーも何も言えない。
〇〇「こんなに一気に広がるんだね……」
スマホはまだ鳴り続けている。
通知。
ニュース。
SNS。
終わらない。
〇〇「……みんなに嫌われたらどうしよう」
その言葉に、北斗の表情が少し変わる。
〇〇は俯いたまま続けた。
〇〇「timeleszにも迷惑かかるし、GUCCIも、スポンサーも……」
声が少し震える。
〇〇「私のせいで」
その瞬間。
北斗が〇〇の手を掴んだ。
〇〇「……っ」
びっくりして顔を上げる。
北斗の手は温かかった。
震えていた〇〇の指を、そのまま包み込む。
北斗「お前のせいじゃない」
低い声。
でもはっきりしていた。
〇〇「……でも」
北斗「違うもんを勝手に作られてるだけだろ」
〇〇は何も言えなくなる。
北斗は〇〇の手を離さない。
北斗「お前がちゃんとやってきたの、近くで見てるやつは知ってる」
〇〇の目が少し揺れる。
北斗「だから今、全部信じなくていい」
〇〇「……っ」
涙が少しだけ滲む。
でも〇〇は必死に堪えた。
北斗はそんな〇〇を見ながら、小さく親指で手の甲を撫でる。
落ち着かせるみたいに。
〇〇「……北斗」
北斗「ん」
〇〇「ありがと」
北斗は少しだけ視線を逸らす。
北斗「……別に」
でも手だけは、最後まで離さなかった。
ーーーーーーーーー
北斗side
北斗は窓の外を見たまま、何も言わなかった。
でも頭の中は全然静かじゃない。
流れてくる記事。
“肩組み密会”
“ホテル同宿”
好き勝手並べられた言葉。
しかも相手は佐野勇斗。
ぐるナイでずっと見てきた。
仲がいいのも知ってる。
〇〇が気を許して笑ってる数少ない相手なのも知ってる。
だからこそ余計に、記事がリアルに見えてしまう人間もいる。
北斗は奥歯を噛み締めた。
隣では〇〇が俯いたまま。
さっきより静かだった。
いつもなら絶対こんな顔しない。
無理やりでも笑うやつなのに。
今はそれすら出来てない。
北斗は繋いだままの手を見る。
冷たい。
かなり無理してる。
北斗「……寝れてないだろ」
〇〇「……ちょっとだけ」
嘘だ。
顔見れば分かる。
北斗「記事見たあとからずっと呼吸浅い」
〇〇が少し黙る。
図星だった。
北斗は小さく息を吐く。
本当は。
今すぐ全部閉じ込めて、誰にも見せたくなかった。
こんな風に傷ついてる顔。
SNSで勝手に叩かれてる姿。
知らないやつらに好き放題言われてる状況。
全部。
北斗「……腹立つ」
低く漏れる。
〇〇が少しだけ顔を上げた。
北斗は前を向いたまま。
北斗「お前がどんだけ仕事大事にしてるか知ってるから」
その言葉に〇〇の目が揺れる。
北斗「一番気使って、一番背負ってんのも知ってる」
timelesz。
女優業。
スポンサー。
グループ。
後輩。
全部。
〇〇はずっと一人で抱え込む。
だからこそ。
こんな記事一つで“プロ意識ない”って決めつけられてるのが許せなかった。
北斗「……何も知らねぇくせに」
小さく吐き捨てる。
マネージャーがバックミラー越しに少しだけ北斗を見る。
でも何も言わない。
北斗は自分でも分かっていた。
かなりイラついてる。
でも今、一番きついのは自分じゃない。
隣の〇〇だ。
北斗は繋いでいた手を少しだけ握り直す。
〇〇が小さく反応する。
北斗「大丈夫」
また同じ言葉。
でも今度は、自分にも言い聞かせるみたいだった。
北斗「俺いるから」
その瞬間。
〇〇が小さく息を飲む。
北斗は言ったあと少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
でも手は離さない。
離す気もなかった。
車が事務所前へゆっくり止まる。
朝なのに、もう周囲には人がいた。
関係者。
スタッフ。
そして少し離れた場所にはスマホを向けている人影も見える。
〇〇はその景色を見た瞬間、少し呼吸が止まった。
マネ「裏から入る」
北斗「……もういるのか」
マネ「朝からずっと」
重たい空気。
〇〇はバッグを握りしめる。
降りなきゃ。
分かってる。
でも身体が動かない。
その時。
北斗が静かに口を開く。
北斗「〇〇」
〇〇「……ん」
北斗「ここで止まんな」
〇〇はゆっくり顔を上げる。
北斗は真っ直ぐ〇〇を見ていた。
北斗「お前、何も間違ってない」
低い声。
でも迷いがなかった。
北斗「だから下向くな」
〇〇の目が少しだけ揺れる。
北斗「いつも通り行け」
その言葉が胸に落ちる。
怖い。
まだ怖い。
でも。
北斗がそう言うなら。
〇〇は小さく息を吸った。
〇〇「……うん」
北斗はそこでやっと手を離す。
離れた温度が少し寂しい。
北斗「終わったら連絡しろ」
〇〇「する」
北斗「無理すんな」
〇〇は小さく頷いた。
マネージャーがドアを開ける。
冷たい朝の空気が入ってくる。
〇〇は一度だけ北斗を見る。
北斗は静かに頷いた。
それだけで少しだけ落ち着く。
〇〇は帽子を深く被り直して、車を降りた。
会議室の空気は重かった。
〇〇が入った瞬間、そこにいたスタッフたちが一斉に立ち上がる。
テーブルの上には大量の資料。
記事。
SNSの反応。
スポンサー一覧。
スマホにはニュース画面。
全部が現実だった。
〇〇「……おはようございます」
声が少し掠れる。
すると。
「〇〇!」
勢いよく声が飛ぶ。
振り返る。
風磨だった。
その横には勝利、聡ちゃん、将生、猪俣、しの、てら、原。
timelesz全員。
〇〇「……え」
思わず止まる。
風磨「緊急で呼ばれた」
勝利「大丈夫?」
聡ちゃんも心配そうに〇〇を見る。
〇〇は一瞬言葉を失った。
こんな朝早いのに。
みんな来てくれた。
原「ニュース見た瞬間ビビったわ」
猪俣「いやマジで」
将生「〇〇ちゃん寝れてる?」
しの「顔色悪い」
次々飛んでくる声。
責める空気は一つもない。
〇〇は少しだけ目を伏せた。
〇〇「……ごめん」
その瞬間。
風磨「なんでお前が謝んの」
即答だった。
会議室が静かになる。
風磨は椅子へ座りながら、かなり険しい顔をしている。
風磨「記事読んだけど盛りすぎ」
てら「完全に恋愛ストーリー作られてる」
勝利「写真の切り取り方も悪意あるし」
原「タイムスタンプまで入れてるの怖すぎる」
聡ちゃん「しかもSNS燃えすぎ……」
〇〇は唇を噛む。
見ないようにしてても、言葉は入ってくる。
“担降り”
“プロ意識”
“裏切り”
全部。
その時。
会議室の奥の扉が開いた。
上層部。
マネージャーたち。
スポンサー担当。
空気がさらに張る。
「では始めます」
静かな声。
全員が席へ座る。
〇〇もゆっくり椅子へ腰掛けた。
正面モニターには、すでにニュース記事が映されている。
SNSトレンド。
関連ワード。
拡散速度。
数字が並ぶたび、現実感だけが増していく。
担当者「現在、記事転載は国内主要メディアほぼ全てに拡大しています」
担当者「海外サイトも引用を始めています」
風磨が小さく舌打ちする。
担当者「ただし、現時点で双方事務所とも交際は完全否定」
担当者「ここは統一します」
〇〇は静かに頷く。
担当者「問題は今後です」
画面が切り替わる。
スポンサー名。
番組名。
CM一覧。
〇〇の胸が重くなる。
担当者「timelesz新体制一年というタイミングもあり、かなり注目度が高い」
担当者「対応を誤るとグループ全体へ影響が出ます」
空気がさらに静かになる。
その時。
風磨が口を開いた。
風磨「でも〇〇一人に背負わせる気ないんで」
全員の視線が向く。
風磨「timeleszとして動けることあるならやります」
勝利も頷く。
聡ちゃん「一人で抱えさせない方がいいと思います」
原「絶対メンタルやられるし」
将生「今SNS異常です」
〇〇は少し目を見開く。
みんな真剣だった。
誰一人、〇〇を責めていない。
その瞬間。
張っていたものが少しだけ崩れそうになる。
〇〇「……っ」
風磨がすぐ気づく。
風磨「泣くな泣くな」
〇〇「泣いてない……」
声がもう少し危なかった。
でも。
この部屋にいる全員が、“守ろう”としてくれていた。
重たい空気の中。
スタッフが一枚の写真をモニターへ映した。
ニューヨークのパーティー会場。
笑っている関係者たち。
ブランドスタッフ。
海外モデル。
そして。
その中に〇〇と勇人もいる。
しかも二人きりじゃない。
大人数だった。
担当者「実際はこの状態です」
次々映される別角度の写真。
乾杯してる動画。
他メンバーが映ってるもの。
海外スタッフと話してる様子。
完全に“複数人の打ち上げ”だった。
風磨「これ出せば?」
担当者「こちらも考えてます」
勝利「二人きりじゃなかった証拠にはなる」
聡ちゃん「パーティーだったの伝わるし」
〇〇はモニターを見つめる。
確かに。
この写真なら。
少なくとも記事だけの印象とは変わる。
すると原が急に口を開く。
原「メンバーそれぞれSNS載せる?」
全員が原を見る。
原「俺ら側から自然に“あの日こういう会でした”って出した方がいい気する」
猪俣「確かに」
将生「裏でコソコソ否定文出すより自然かも」
てら「写真いっぱいあるし」
しの「海外スタッフも映ってるやつ使えば誤解減りそう」
風磨は少し考える。
そのあと。
風磨「……ありかもな」
〇〇が顔を上げる。
風磨「記事って“二人だけ”に見せてんだろ」
風磨「じゃあ逆に、“全員いた”を見せればいい」
担当者たちもすぐ話し始める。
SNS担当「タイミング合わせれば拡散はかなり期待できます」
広報「自然投稿の形ならファンの空気も変わる可能性あります」
勝利「キャプションも合わせる?」
聡ちゃん「“楽しかった”くらいでいいかも」
原「変に説明臭いと逆に怪しい」
風磨「普通に打ち上げ載せる感じな」
〇〇はまだ少し呆然としていた。
そこまでしてくれるんだ。
自分のために。
すると風磨が〇〇を見る。
風磨「お前一人で戦わせる気ないから」
静かな声。
でも真っ直ぐだった。
〇〇の喉が少し詰まる。
その時。
マネージャーのスマホが鳴る。
確認した瞬間、表情が変わった。
マネ「……佐野くん側も同じ方向で動くらしい」
会議室が少しざわつく。
担当者「向こうの共演者や現地関係者も投稿協力入るそうです」
つまり。
“二人きりじゃなかった”
その事実を、全方向から出す。
〇〇は静かに息を吐いた。
まだ怖い。
でも。
一人じゃない。
昼過ぎ。
最初に投稿したのは風磨だった。
『NYチーム。最高に楽しかった』
その一文と一緒に載せられた写真。
GUCCIショー後の打ち上げ。
海外スタッフ。
関係者。
モデル。
大人数。
その中心で笑ってる〇〇と勇人。
完全に“パーティー写真”だった。
数分後。
勝利も投稿。
聡ちゃんも。
原、てら、将生、猪俣、しの。
さらに。
現地スタッフ。
海外関係者。
ブランド関係者。
佐野勇斗側の共演者。
次々同じ夜の写真が上がっていく。
角度違い。
動画。
乾杯。
集合写真。
笑い声。
記事で“二人きり”に見えていた夜が、全く違う景色へ変わっていく。
そして。
日本中が震えた。
「え、待って普通に大人数じゃん」
「完全にパーティーじゃんwwww」
「記事の書き方怖すぎる」
「切り取り方えぐ」
「これで“二人きり密会”は無理あるだろ」
「風磨たち投稿してくれてるの熱すぎる」
「timelesz全員で守ってる感じ泣く」
「佐野くん側も投稿してる」
「ぐるナイ組も写真出してる」
「むしろ海外打ち上げ会で草」
「え、じゃああの記事なんだったの?」
トレンドが一気に変わる。
【timelesz絆】
【NY打ち上げ】
【切り取り記事】
【〇〇ちゃん】
SNSの空気が、少しずつ変わり始めていた。
会議室でも全員のスマホが鳴り止まない。
担当者「拡散速度かなり早いです」
広報「流れ変わってきてます」
風磨「よし」
原「強すぎるだろSNS」
勝利も少し安心したように息を吐く。
〇〇はスマホを見つめたまま固まっていた。
そこには、
『〇〇ちゃん一人じゃなかったんだ』
『ちゃんと守られてて安心した』
そんな言葉も増え始めていた。
〇〇「……」
思わず目頭が熱くなる。
その時。
風磨が横からスマホを覗き込む。
風磨「ほら」
〇〇「……ん」
風磨「お前の味方、普通に多いから」
〇〇は小さく笑った。
まだ全部解決したわけじゃない。
でも。
一人で沈みかけていた朝より、少しだけ呼吸ができる気がした。
🌆夕方。
長かった話し合いがようやく終わった。
会議室には、疲れ切った空気が残っている。
スタッフたちも次々席を立ち始めていた。
担当者「ひとまず今日の流れはこれで行きます」
風磨「了解です」
勝利も静かに頷く。
〇〇は椅子へ座ったまま、ようやく息を吐いた。
朝からずっと張っていた神経が、一気に重くなる。
聡ちゃん「大丈夫?」
〇〇「……なんか、一日が長すぎた」
原「まだ昼感覚なんだけど」
将生「分かる」
少しだけ空気が和らぐ。
猪俣はスマホを見ながら声を上げた。
猪俣「うわ、コメントかなり変わってる」
てら「ほんとだ」
しの「“timelesz守ってる”ってめっちゃ言われてる」
風磨「まあ守るし」
即答。
〇〇は少しだけ笑ってしまう。
風磨「何笑ってんの」
〇〇「……いや」
でもその顔は朝よりずっと柔らかかった。
その時。
〇〇のスマホが震える。
画面には“北斗”。
〇〇は少しだけ目を丸くして通話を取る。
〇〇「もしもし」
北斗『終わった?』
〇〇「今ちょうど」
北斗『どうだった』
〇〇は周りを見る。
メンバーたちが「北斗?」って顔してニヤニヤしてる。
〇〇「……なんとか」
北斗『声死んでる』
〇〇「疲れた」
正直だった。
すると電話越しに小さく笑う声。
北斗『帰ってこい』
その一言で、張っていたものが少し緩む。
〇〇「……うん」
北斗『飯ある』
〇〇「え」
北斗『作った』
会議室がざわつく。
風磨「は!?」
原「北斗料理!??」
勝利「レアすぎる」
〇〇も少し目を見開いた。
北斗『うるせぇ声聞こえてる』
風磨「スピーカーにしろよ!」
〇〇「あははっ」
朝はあんなに苦しかったのに。
今、少しだけちゃんと笑えた。
北斗『……帰り気をつけろ』
〇〇「うん」
北斗『待ってる』
通話が切れる。
数秒静かになったあと、
風磨「待ってる、だって」
原「うわ」
将生「やば」
〇〇「うるさい!」
久しぶりに会議室へ笑い声が広がる。
長い長い一日だった。
でも。
終わる頃には、〇〇はもう一人じゃなかった。
外へ出る頃には、もう空が暗くなっていた。
朝とは別世界みたいだった。
〇〇は深く息を吐きながらマネージャーの車へ乗り込む。
ドアが閉まる。
やっと少しだけ静かになる。
マネ「お疲れ」
〇〇「……疲れたぁ」
身体から力が抜ける。
朝からずっと気を張っていたせいで、急に眠気まで来た。
車がゆっくり走り出す。
〇〇は窓へ頭を預けながらスマホを開いた。
通知は相変わらず多い。
でも。
朝とは内容が違っていた。
【“熱愛報道”に新展開】
【NY打ち上げ写真が続々公開】
【timeleszメンバー投稿が話題】
【“二人きりではなかった”証拠写真拡散】
〇〇は画面を見つめる。
さらにスクロールする。
「完全に記事の切り取りだったじゃん」
「timelesz全員投稿してるの強い」
「〇〇ちゃんかなり叩かれてたの可哀想」
「風磨くん達ほんと優しい」
「ちゃんと守られてるの見て安心した」
「これで熱愛確定扱いは無理ある」
トレンドも変わっていた。
【timelesz絆】
【NY打ち上げ】
【〇〇ちゃん】
朝ずっと並んでいた“熱愛”の文字は、少し下へ落ちている。
〇〇「……すご」
思わず小さく漏れる。
マネージャーもバックミラー越しに笑った。
マネ「みんな動いてくれたからね」
〇〇はスマホを握りしめる。
風磨。
勝利。
聡ちゃん。
将生。
しゅうと。
しの。
てら。
原ちゃん。
そして北斗。
朝、自分は本気で終わったと思ってた。
全部壊れると思ってた。
でも。
こんなに守ってくれる人たちがいた。
〇〇は小さく目を閉じる。
その時。
スマホがまた震えた。
北斗。
〇〇は少し笑って通話を押す。
〇〇「もしもし」
北斗『あとどれくらい』
〇〇「もう少し」
北斗『飯冷める』
〇〇「あははっ」
その声だけで、少し安心する。
北斗『……今日よく頑張ったな』
〇〇は一瞬黙った。
朝からずっと堪えていたものが、その一言で少しだけ揺れる。
〇〇「……うん」
北斗『帰ってこい』
短い声。
でも優しかった。
〇〇は窓の外を見る。
東京の夜景が流れていく。
もう朝みたいな怖さはなかった。
完全には終わってなくても。
ちゃんと、帰れる場所があった。
マンションへ着いた頃には、もうかなり遅い時間だった。
マネージャーの車が地下駐車場へ入る。
〇〇は深く息を吐いた。
マネ「今日はもう休め」
〇〇「……うん」
車を降りる。
静かな地下。
厚底の靴の音だけが小さく響く。
スマホを見ると、まだ通知は止まらない。
でももう朝みたいに怖くはなかった。
〇〇は帽子を少し深く被り直して、エントランスへ向かう。
オートロック。
解除音。
自動ドアが開く。
エレベーターへ乗り込む。
鏡に映った自分の顔は、思ってたより疲れていた。
〇〇「……やば」
小さく笑う。
今日一日だけで何年分も疲れた気がする。
エレベーターが止まる。
扉が開く。
廊下を歩いて、部屋の前へ。
〇〇は鍵を開けた。
ガチャ。
ドアを開く。
〇〇「ただい——」
その瞬間。
「おかえりーーー!!!」
爆音。
〇〇「!?!?!?」
部屋の中から一斉に声が飛ぶ。
ジェシー「主役帰宅ーー!!」
樹「お疲れ様でーす」
慎太郎「よく生きた!」
高地「今日ほんと頑張ったね」
きょも「顔やばいよ疲れすぎ」
そして。
ソファの中心には北斗。
腕を組んだまま、少し呆れた顔で座っていた。
〇〇「……え」
完全に固まる。
SixTONES全員いる。
しかも。
テーブルの上には大量のご飯。
出前。
飲み物。
スイーツまで並んでる。
樹「北斗が“今日〇〇絶対メンタル死ぬ”って」
ジェシー「集合かかった!」
北斗「余計なこと言うな」
慎太郎「でも北斗ずっとソワソワしてたよ?」
北斗「黙れ」
〇〇は状況が追いつかない。
きょも「ほら、とりあえず座りな」
高地「今日は何も考えない日」
その瞬間。
朝からずっと張っていたものが、一気に緩みそうになる。
〇〇「……なんでみんないるの」
樹「家族だから?」
ジェシー「仲間だから?」
慎太郎「北斗が寂しそうだったから?」
北斗「お前ら帰れ」
一斉に笑いが起きる。
〇〇も思わず吹き出した。
久しぶりに、ちゃんと笑えた気がした。
北斗はその顔を見て、少しだけ安心したみたいに息を吐く。
北斗「……とりあえず飯食え」
〇〇「……うん」
その声は、朝よりずっと柔らかかった。
テーブルの上はどんどんカオスになっていった。
樹「追加頼んでいい?」
慎太郎「酒足りない!」
ジェシー「今日は飲むぞーー!!」
高地「いや明日仕事ある人いるからね!?」
でも誰も止まらない。
缶が開く音。
グラスがぶつかる音。
リビングが一気に騒がしくなる。
〇〇も気づけば笑っていた。
〇〇「今日だけだからね、ほんと」
樹「今日くらい飲め飲め」
きょも「朝から地獄だったもんね」
慎太郎「乾杯しよ」
ジェシー「せーの!」
「お疲れーーー!!」
グラスがぶつかる。
〇〇も一口飲む。
冷たい。
身体の力が少しずつ抜けていく。
そして。
数十分後。
完全に宴会だった。
慎太郎「だから俺言ったじゃん!絶対記事盛ってるって!」
樹「いやお前朝“終わったかも”って言ってた」
慎太郎「言った」
ジェシー「言ったんかい!」
爆笑。
〇〇も笑いながらソファへ倒れ込む。
〇〇「もう今日感情忙しすぎた……」
高地「ほんとお疲れ」
きょも「でも今笑えてるならよかった」
その横で。
北斗は黙って酒を飲んでいた。
樹がすぐニヤつく。
樹「北斗、今日飲むペース早くない?」
北斗「……別に」
慎太郎「絶対心配だったじゃん」
北斗「うるさい」
ジェシー「朝から“〇〇まだ?”って三回聞いてたよ?」
〇〇「え」
北斗「ジェシー黙れ」
でも耳が少し赤い。
〇〇は思わず笑ってしまう。
〇〇「心配してたんだ」
北斗「……してねぇ」
樹「いやしてた」
高地「めちゃくちゃしてた」
きょも「ニュース出た瞬間空気終わったもん」
北斗「……」
図星すぎて黙る。
みんなまた笑う。
〇〇は隣で小さく肩を揺らした。
その時。
ジェシーが急にスマホを見ながら声を上げた。
ジェシー「うわ、“timeleszとSixTONESの絆”トレンド入ってる」
樹「何それ」
慎太郎「デカすぎるだろ」
〇〇「えぇ!?」
きょも「ファン安心したんだろうね」
高地「みんな投稿してたし」
〇〇はスマホを見る。
本当にトレンド入りしていた。
しかも。
『〇〇ちゃん守られてて泣いた』
『北斗絶対支えてるじゃん』
『SixTONES集合してるの想像できる』
そんな声まで流れてくる。
〇〇「……なんか恥ずかしい」
北斗「見るな」
そう言いながら、北斗は〇〇のスマホを軽く伏せた。
その自然な動きに、一瞬だけ空気が止まる。
樹「うわ」
慎太郎「出た」
きょも「ナチュラル」
北斗「お前らうるさい」
でも〇〇は少しだけ嬉しそうに笑った。
気づけばグラスは何回も空になって。
笑い声は止まらなくて。
夜はどんどん深くなっていった。
テーブルの上には空いた缶と食べかけの料理。
テレビはいつの間にかただのBGMになってる。
慎太郎はソファの端で大笑いしてるし、
ジェシーはもうテンションがおかしい。
樹「いやだからその時北斗が——」
北斗「その話やめろ」
きょも「今日の北斗ほんと分かりやすかったよね」
高地「〇〇のニュース見た瞬間、“は?”って顔してた」
〇〇「あははっ」
北斗は完全に諦めたみたいに酒を飲む。
耳だけ赤い。
〇〇はそれを見ながらまた笑ってしまう。
すると。
慎太郎が急に〇〇を見る。
慎太郎「でもさ、〇〇今日ほんと頑張ったよな」
空気が少しだけ落ち着く。
樹も頷いた。
樹「普通にきつかっただろ」
〇〇は少しだけ黙る。
今日を思い出す。
朝六時。
マネからの電話。
震える手。
記事。
SNS。
事務所。
会議室。
全部。
〇〇「……怖かった」
小さく零れる。
さっきまで笑ってた空気が少し静かになる。
〇〇「なんか、全部終わるかと思った」
声はもう少しで泣きそうだった。
でも。
北斗が隣で静かに口を開く。
北斗「終わってない」
〇〇は顔を上げる。
北斗は真っ直ぐ前を見たまま続ける。
北斗「お前がちゃんとやってきたこと、周りみんな知ってるから」
静かな声。
でも強かった。
北斗「だから今日ああやって動いたんだろ」
〇〇の目が少し揺れる。
樹「そうそう」
高地「〇〇ちゃん人望あるからね」
きょも「愛されてんのよ」
慎太郎「だから一人で抱えんな」
ジェシー「俺たちいるし!」
〇〇は思わず笑ってしまう。
でも同時に、目の奥が熱い。
〇〇「……ありがと」
その瞬間。
樹「はい泣いたー」
〇〇「泣いてない!」
慎太郎「目キラキラしてる」
北斗「酔ってるだけだろ」
〇〇「北斗まで言う!?」
また笑いが起きる。
その空気が優しくて、
〇〇は小さく息を吐いた。
もう大丈夫かもしれない。
そう少しだけ思えた。
気づけば時計は23:30を回っていた。
ジェシー「やば、もうこんな時間!?」
高地「そろそろ帰る?」
慎太郎「えーまだ飲める」
樹「お前だけな」
きょもはソファで完全にくつろいでいる。
きょも「動きたくない」
〇〇「あははっ」
さっきまで重かった空気なんて嘘みたいだった。
でも。
明日も仕事。
全員ゆっくり立ち上がり始める。
高地「片付けるよー」
樹「缶集めて」
慎太郎「はいはい」
一気に現実感が戻る。
さっきまで騒いでた男たちが、急に片付けモードへ入る。
ジェシー「これ洗う?」
〇〇「え、いいよ!」
ジェシー「いや今日主役だから座ってな」
樹「今日は甘やかされデー」
〇〇「なにそれ」
笑いながらも、みんな自然に動いていく。
テーブルのゴミ。
缶。
皿。
あっという間に片付いていくリビング。
〇〇はその光景をぼんやり見ていた。
なんか不思議だった。
朝は一人で崩れそうだったのに。
今はこんなに人がいる。
その時。
キッチンで北斗が黙々と皿を洗っているのが見える。
〇〇「……北斗」
北斗「ん?」
〇〇「ありがと」
北斗は手を止めないまま小さく返す。
北斗「何が」
〇〇「今日」
少しだけ沈黙。
水の音だけが響く。
そのあと北斗は小さく笑った。
北斗「別に」
でもその横顔は少し柔らかかった。
すると後ろから樹の声。
樹「うわ、二人の空気」
慎太郎「はいはいはい」
北斗「うるせぇ」
〇〇「もう!」
また笑いが起きる。
そして。
最後のゴミ袋をまとめ終わる頃には、
リビングはすっかり元通りになっていた。
ジェシー「じゃあ帰りまーす!」
高地「〇〇ちゃん今日はちゃんと寝るんだよ」
きょも「スマホ見すぎないように」
樹「北斗、頼んだ」
北斗「なんで俺」
慎太郎「保護者だから」
北斗「違う」
でも誰も聞いてない。
玄関は最後までうるさかった。
〇〇は笑いながら全員を見送る。
「おやすみー!」
「また明日!」
ドアが閉まる。
静かになる部屋。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいだった。
〇〇は小さく息を吐く。
その瞬間。
どっと疲れが来る。
北斗「……疲れた?」
隣から低い声。
〇〇は少しだけ笑った。
〇〇「うん。すごい」
北斗「だろうな」
静かなリビング。
でもその静けさは、朝みたいに怖くなかった。
北斗はキッチンで最後のコップを置くと、小さく息を吐いた。
静かになったリビング。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいだった。
〇〇はソファへ沈み込んだまま動けない。
北斗「……先、風呂入れ」
〇〇「んー……」
完全に電池切れの声。
北斗は少し呆れた顔をする。
北斗「そのまま寝んなよ」
〇〇「今日くらいいいじゃん」
北斗「だめ」
即答。
〇〇はクッションへ顔を埋める。
〇〇「動けない……」
北斗「知らん」
そう言いながらも、北斗は〇〇の前へペットボトルを置いた。
北斗「とりあえず水飲め」
〇〇「……やさし」
北斗「うるさい」
〇〇は少し笑って水を飲む。
冷たい水がやっと身体に落ちていく感じがした。
北斗はその様子を確認してから、ソファの背へ軽く寄りかかった。
北斗「今日ずっと気張ってたろ」
〇〇「……うん」
北斗「だから余計疲れてんだよ」
〇〇は小さく頷く。
そのまま数秒静かになる。
テレビの音だけが小さく流れていた。
〇〇「……でも」
北斗「?」
〇〇「帰ってきたらみんないて、ちょっと救われた」
北斗は少しだけ目を細める。
北斗「ならよかった」
〇〇「北斗が呼んだの?」
北斗「……まあ」
〇〇「寂しかった?」
北斗「またそれ言う」
〇〇「あははっ」
やっと自然に笑える。
北斗はそんな〇〇を見て、少しだけ安心したみたいに息を吐いた。
北斗「ほら、ほんとに風呂入ってこい」
〇〇「はーい」
立ち上がろうとして、
〇〇「……あ」
少しふらつく。
北斗「危な」
反射的に腕を掴まれる。
一瞬だけ距離が近くなる。
〇〇「……」
北斗「……酔ってんだろ」
〇〇「北斗も飲んでたじゃん」
北斗「お前ほどじゃない」
北斗はそのまま〇〇の腕を離す。
でも完全に心配そうだった。
〇〇は少しだけ笑う。
〇〇「じゃ、お風呂入ってきます」
北斗「ん」
〇〇が洗面所へ向かう背中を、
北斗は静かに見送っていた。
〇〇が風呂へ入っている間。
北斗はソファへ座ったままスマホをぼんやり見ていた。
部屋は静か。
さっきまであんなに騒がしかったのに、不思議なくらい静かだった。
その時。
スマホが震える。
画面を見る。
“慎太郎”
北斗「……なんだよ」
通話を取る。
慎太郎『もしもーし!』
後ろがうるさい。
笑い声。
ジェシーの声。
樹のツッコミ。
完全にまだ全員一緒だった。
北斗「お前らまだいたの」
樹『コンビニ寄ってる』
ジェシー『二次会でーす!』
北斗「帰れよ」
慎太郎『で?』
北斗「何が」
慎太郎『〇〇どう?』
北斗は一瞬黙る。
風呂場から微かにシャワーの音が聞こえていた。
北斗「……まあ、朝よりは」
慎太郎『泣いてない?』
北斗「今は大丈夫そう」
樹『よかったー』
高地『ほんと今日しんどそうだったもんね』
きょも『北斗もね』
北斗「俺?」
ジェシー『顔死んでたよー?』
樹『〇〇のニュース見た瞬間な』
慎太郎『ガチで空気凍った』
北斗「……うるせぇ」
でも否定しない。
電話の向こうで笑いが起きる。
慎太郎『でもさ』
慎太郎『今日〇〇笑えてよかったな』
北斗は少しだけ目を伏せる。
リビングを見渡す。
さっきまで〇〇が笑ってた場所。
安心したみたいに酒飲んでた顔。
北斗「……まあな」
小さい声。
でも本音だった。
すると樹が急にニヤついた声を出す。
樹『北斗』
北斗「なに」
樹『めっちゃ好きじゃん』
北斗「切るぞ」
ジェシー『認めましたー!!』
北斗「認めてねぇ」
慎太郎『でも今日ずっと〇〇のこと見てた』
高地『あれは分かりやすすぎ』
きょも『保護者通り越してた』
北斗「……お前らほんと帰れ」
その時。
洗面所のドアが開く音。
北斗の視線が自然にそっちへ向く。
慎太郎『あ、出てきた?』
北斗「……じゃあ切る」
樹『逃げた』
ジェシー『がんばれ北斗ー!』
カチャ。
洗面所のドアが開く。
〇〇「……最悪」
小さく呟いて出てくる。
北斗「……どうした」
〇〇「服、全部部屋」
慎太郎「え、それ普通に詰みじゃん」
樹「タイミング最悪すぎるな今日」
ジェシー「逆にドラマすぎない?」
北斗「うるせぇって」
電話越しの声に軽く返しながらも、視線だけはずっと〇〇に向いたまま。
〇〇「……笑わないで」
北斗「笑ってねぇ」
一瞬、空気が止まる。
北斗「……部屋戻るか?」
〇〇「うん」
短い返事。
でも動き出すまでに、ほんの少しだけ間がある。
慎太郎「これ今さ、見ちゃいけない空気じゃない?」
樹「いや見守るしかないやつ」
ジェシー「青春ってやつだなー」
北斗「お前らほんと黙れ」
高地「でも北斗が一番落ち着いてないのは分かる」
北斗「落ち着いてる」
高地「即答は怪しい」
北斗「……うるせぇ」
〇〇「行く」
北斗「ああ」
並んで歩き出す。
リビングの空気だけが、その背中を見送る。
慎太郎「あとで絶対いじるやつ」
樹「確定」
ジェシー「保存だなこれ」
北斗「切るぞ」
ブツッ。
通話終了。
北斗「……風呂入る」
〇〇「うん」
バタン。
風呂場の扉が閉まる音。
一気にリビングが静かになる。
〇〇「……」
ソファに座り直す。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいに消え、空気だけが少し重い。
その時。
スマホが震える。
画面を見る。
“廉”
〇〇「……え」
廉の名前。
一瞬、指が止まる。
ピロン。
もう一度通知。
仕方なく通話を取る。
〇〇「……もしもし」
廉『あ、出た』
廉『今大丈夫?』
〇〇「うん、大丈夫だけど」
廉『今日さ、ニュース見たけど……大丈夫なん?』
〇〇「……まあ、うん。もう終わったし」
廉『そっか』
廉『無理して笑ってへん?』
〇〇「……笑ってるよ、普通に」
廉『ほんまに?』
少しの間。
風呂場の水音が遠くで響く。
廉『今どこおるん?』
〇〇「……家」
廉『誰かおる?』
〇〇「……いる」
廉『そっか』
廉『じゃあまたあとで連絡するわ』
〇〇「うん」
廉『ほんまに無理せんといてな』
〇〇「……ありがとう」
通話が切れる。
ピッ。
風呂場の音だけが、また少しだけ近くなる。
リビングには、静けさとさっきの余韻だけが残る。
リビングの空気は、通話が切れた直後のまま少しだけ重い。〇〇はスマホを握ったまま、まだ動けずにいる。さっきの「無理せんといてな」が頭の中で残っていて、息の仕方を一瞬忘れたみたいに視線が宙に浮く。風呂場の水音が再びはっきり聞こえてきて、現実だけがゆっくり戻ってくる。
〇〇「……」
小さく息を吐いたところで、風呂場の音が止む。
そのタイミングで。
北斗「……おい」
廊下の方から声。
〇〇「……なに」
北斗「水、飲んだ?」
〇〇「飲んだ」
北斗「ならいい」
短い会話だけ落として、北斗はタオルで髪を拭きながらリビングに入ってくる。
〇〇の方を一瞬見る。
北斗「……で」
〇〇「ん?」
北斗「さっきの電話」
その言葉で、空気が少しだけ変わる。
〇〇「廉?」
北斗「うん」
北斗「……何話してた」
〇〇「普通に、大丈夫かって」
北斗「ふーん」
いつもより少し短い返事。
でもそれ以上は聞かない。
北斗「……そっか」
それだけ言って、キッチンに向かう。
〇〇「北斗」
北斗「ん」
〇〇「別に、何もないよ」
その一言に、北斗の足が一瞬止まる。
北斗「……分かってる」
そう言って、また歩き出す。
リビングには、さっきより少しだけ静かな空気が残る。
北斗「……まだぼーっとしてる」
〇〇「してない」
北斗「してる」
〇〇「してないってば」
北斗「はいはい」
北斗はキッチンでコップを洗いながら呆れたように息を吐き水の音が流れ続ける
〇〇「ねえ」
北斗「なに」
〇〇「別に何もないよ本当に」
北斗の手が一瞬止まりまた水が流れ出す
北斗「……分かってる」
〇〇「ならいいじゃん」
北斗「いいとかじゃねぇ」
北斗「……気にしてるだけ」
声が少しだけ落ちる
〇〇はクッションに沈んだまま天井を見る
〇〇「気にしすぎ」
北斗「うるせぇ」
空気だけが少しだけ軽くなる
北斗はコップを置いてリビングへ戻る足音が近づく
北斗「で、ほんとに大丈夫?」
〇〇「大丈夫って言ってるじゃん」
北斗「それ一番信用できないやつ」
〇〇「ひど」
北斗「事実」
北斗「で、ほんとに大丈夫?」
〇〇「大丈夫って言ってるじゃん」
北斗「それ一番信用できないやつ」
〇〇「ひど」
北斗「事実」
北斗はソファの横に腰を下ろして腕を組みながら〇〇の顔を見る
〇〇「ねえ」
北斗「なに」
〇〇「この前さ」
北斗「……どの前」
〇〇「熱出してた時」
北斗の動きが一瞬だけ止まる
北斗「……それ今出す?」
〇〇「出すよ」
〇〇は少し笑いながら身を乗り出す
〇〇「めっちゃ可愛かったんだけど」
北斗「うるせぇ」
〇〇「なんかさ、ずっとこっち見てたじゃん」
北斗「見てねぇ」
〇〇「見てた」
北斗「見てねぇって」
〇〇はクッション抱えながらにやける
〇〇「あとさ」
北斗「やめろ」
〇〇「“いなくならないで”って」
北斗「言ってねぇ」
〇〇「言ってた」
北斗「言ってねぇ」
〇〇「……言ってたよ」
少しだけ声が柔らかくなる
北斗は視線を逸らす
北斗「……記憶違い」
〇〇「絶対違くない」
〇〇はちょっと間を置いてから笑う
〇〇「あれ反則ね」
北斗「何が」
〇〇「普通にキュン死するやつ」
北斗「うるせぇ」
〇〇「ほんとにさ」
〇〇「あの時いなくならないでって言われたら動けなくなるって」
北斗「……言ってねぇ」
でも声はもう弱い
〇〇は少しだけ距離を詰めてソファに沈む
〇〇「ねえ北斗」
北斗「なに」
〇〇「あれまた言ってみて」
北斗「絶対言わねぇ」
〇〇「ケチ」
北斗「うるせぇ」
少し沈黙が落ちる
でも空気はさっきよりずっと柔らかい
北斗「……もう忘れろ」
〇〇「忘れない」
クッションに顔を埋めたまま、〇〇は楽しそうに笑う
北斗「おい」
〇〇「なにその顔」
北斗「どの顔だよ」
〇〇「照れてる顔」
北斗「してねぇし」
〇〇はくすくす笑いながら横を向く
〇〇「ほんとさ、あの時だけ別人だったよね」
北斗「病人だっただけ」
〇〇「いや違う」
〇〇「なんか甘かった」
北斗「甘くねぇ」
〇〇「甘かった」
北斗「うるせぇ」
〇〇はソファに寝転がるようにして天井を見る
〇〇「でもさ」
北斗「なに」
〇〇「あれちょっと安心した」
北斗「何が」
〇〇「北斗ってちゃんと人間なんだなって」
北斗「失礼すぎるだろ」
〇〇「だってさ、普段ツンツンなのに」
〇〇「熱の時だけすごい素直じゃん」
北斗「……うるせぇ」
でも否定しきれてない声
〇〇はそのまま笑って続ける
〇〇「“いなくならないで”とかさ」
〇〇「普通に友達として可愛すぎるんだけど」
北斗「友達としてって言うな」
〇〇「え?」
北斗「いや別に」
一瞬だけ間が落ちる
〇〇「ほらまた変なとこ気にしてる」
北斗「気にしてねぇ」
〇〇「はいはい」
軽く流して、〇〇はソファで伸びる
〇〇「でも安心した」
〇〇「そういうの言える人なんだって」
北斗「……別に」
北斗は横を向いて、水を一口飲む
〇〇はそれを見て笑う
〇〇「ほんとさ」
〇〇「たまに優しいのズルいよね」
北斗「うるせぇ」
でも空気はもう尖ってない
ただの、少しだけ近い距離のまま流れていく
北斗「……もう忘れろ」
〇〇「忘れない」
クッションに顔を埋めたまま〇〇は楽しそうに笑う
北斗「おい」
〇〇「なにその顔」
北斗「どの顔だよ」
〇〇「照れてる顔」
北斗「してねぇし」
〇〇はくすくす笑いながらソファに沈む
〇〇「ほんとさ、あの時だけ別人だったよね」
北斗「病人だっただけ」
〇〇「いや違う、なんか優しかった」
北斗「いつも優しいだろ」
〇〇「それは違う」
北斗「は?」
〇〇は天井を見ながら笑う
〇〇「“いなくならないで”って言ってたの、ずるい」
北斗「言ってねぇ」
〇〇「言ってた」
北斗「言ってねぇ」
少しだけ沈黙が落ちる
北斗「……忘れろ」
〇〇「無理」
そのやりとりのまま、空気はゆるく流れていく
時計の針だけが静かに進んで、気づけば深夜1:30を過ぎている
北斗「……こんな時間まで起きてんの普通にやばいぞ」
〇〇「え、もう1:30?」
北斗「見ろよ」
〇〇「やば」
〇〇はスマホを見て目を丸くする
〇〇「明日終わった」
北斗「今さら」
〇〇「ねえ責任取って」
北斗「何の」
〇〇「起きてた責任」
北斗「意味わかんねぇ」
でも少しだけため息をつく
北斗「……ほら、もう寝ろ」
〇〇「えー」
北斗「えーじゃねぇ」
〇〇はクッションに沈んだまま動かない
〇〇「動けない」
北斗「さっきも言ってたなそれ」
〇〇「ほんとに無理」
北斗「ガキか」
〇〇「ガキじゃないし」
北斗は立ち上がる
北斗「水置いとくからな」
〇〇「うん……」
でも〇〇はそのままソファから動かない
北斗「おい」
〇〇「……」
北斗「ほんとに寝るなよそこで」
〇〇「ちょっとだけ」
北斗「ちょっとって一番信用できないやつ」
そのままリビングの灯りだけが静かに残る
北斗「……ほんとにそこで寝るなよ」
〇〇「寝ないって」
北斗「絶対寝るやつ」
〇〇「寝ない」
北斗は呆れたように一度だけ〇〇を見る
北斗「俺先寝るからな」
〇〇「うん」
北斗「電気消すぞ」
〇〇「あとでやる」
北斗「あとでやるはやらないやつ」
〇〇「うるさい」
北斗は軽く息を吐いて、リビングの灯りを少し落とす
北斗「……ほんとに無理すんなよ」
〇〇「してない」
北斗「はいはい」
それだけ言って、廊下へ向かう足音が遠ざかる
北斗「おやすみ」
〇〇「おやすみ」
静かにドアが閉まる音
リビングに残るのは〇〇ひとりとスマホの光だけになる
〇〇「……」
少しだけ体を起こして、スマホを開く
画面には未読のメッセージがいくつも並んでいる
同じ事務所の後輩先輩から
共演者から
俳優たちから
「大丈夫?」
「無理しないでね」
「ちゃんと寝てる?」
〇〇は小さく息を吐く
〇〇「……多い」
でも少しだけ笑って、一つずつ開いていく
〇〇「ありがとう……ほんとに」
丁寧に返していく指先だけが動く
「大丈夫です、もう落ち着いてます」
「心配かけてすみません」
「明日ちゃんと現場行きます」
送信しては次へ
そのたびに少しだけ胸の奥が軽くなる
廊下の向こうはもう静かで、北斗の部屋の灯りも消えている
〇〇「……ほんとに心配されすぎ」
小さく呟きながらも、返事を続ける手は止まらない
深夜1:30を過ぎたリビングで、スマホの画面だけが静かに明滅していた
リビングはもう完全に静かで、スマホの通知音だけが小さく鳴る
〇〇はクッションに寄りかかったまま、メッセージを一つずつ返していく
送信して、また次へ。ーー
その時、少しだけ間が空く
廊下の方から足音が戻ってくる
〇〇「……?」
北斗がパーカー姿のままリビングに戻ってくる
北斗「……まだ起きてんのかよ」
〇〇「返してるだけ」
北斗「それが一番寝ないやつ」
〇〇「あとちょっと」
北斗はスマホを見るでもなく、ソファの背にもたれる
北斗「誰から?」
〇〇「事務所の人とか、共演者とか」
北斗「……多いな」
〇〇「ね、びっくりするくらい」
少し笑いながら画面を見せると、北斗は一瞬だけ目を落とす
北斗「……ちゃんとしてんな」
〇〇「なにそれ」
北斗「いや、普通に」
そのまま視線を逸らす
〇〇はまたメッセージに戻る
〇〇「あとちょっとで終わるから」
北斗「あとちょっとは終わらないやつ」
〇〇「ほんと今日はうるさい」
北斗「うるさいでいい」
短いやり取りのあと、また静けさが戻る
〇〇は一つずつ丁寧に返し続ける
〇〇「……ありがとう、ほんとに」
送信ボタンを押すたびに、少しずつ気持ちが整っていく
北斗は何も言わず、ただソファの端に座っている
スマホの光と、夜の静けさだけが部屋を満たしていた
〇〇はスマホを見つめたまま次のメッセージを開く手を止める少しだけ肩の力が抜けてさっきまでの緊張が薄れていく北斗はソファの端に座ったまま天井を見ている
北斗「……まだ終わんねぇの」
〇〇「あと少し」
北斗「それ聞いてから三回目」
〇〇「ほんとだってば」
北斗「信用ない」
〇〇は少し笑いながらまた画面に視線を戻す
〇〇「でもさこんなに心配されるの初めてかも」
北斗「それだけ見られてんだろ」
〇〇「プレッシャーすごい」
北斗「普段の行い」
〇〇「ひどい」
北斗は小さく息を吐く
北斗「……ちゃんと返してるだけ偉いじゃん」
〇〇「今さら褒める?」
北斗「褒めてねぇ」
でも声は少しだけ柔らかい
〇〇「あとこれで最後」
北斗「ほんとだな」
〇〇「ほんと」
最後のメッセージを送信する
〇〇「……終わった」
小さく息を吐いてスマホを置く
北斗「やっとかよ」
〇〇「疲れた」
北斗「そりゃそうだ」
一瞬だけ静かになる
北斗「……ほら」
〇〇「なに」
北斗「寝ろ」
〇〇「うん」
でも〇〇はそのまま動かずソファに沈んだまま目を閉じかける
北斗「そこで寝るなって言ってんだろ」
〇〇「もうちょっとだけ」
北斗「そのもうちょっとが一番やばい」
リビングはまた静かになるただ夜の気配だけが残っていた
〇〇はそのままソファに沈んだまましばらく動かないでいたがゆっくりと体を起こす
〇〇「……ほんとにちょっとだけ休憩」
北斗「休憩って言って動かないやつ多いんだよ」
〇〇「うるさいなぁ」
北斗は呆れたように見ながらもそれ以上は言わない
〇〇はスマホをテーブルに置いてクッションを軽く整える
〇〇「じゃあベット行く」
北斗「今度はほんとだろうな」
〇〇「ほんと」
ゆっくり立ち上がって少しふらつきながらも廊下へ向かう
北斗「……おい」
〇〇「なに」
北斗「電気」
〇〇「あ、忘れてた」
小さく笑って廊下のスイッチに手を伸ばす
カチという音と同時にリビングの灯りが落ちる
北斗はそのままソファに座ったまま見送る
北斗「ちゃんと寝ろよ」
〇〇「わかってる」
北斗はしばらくソファに座ったまま、静かなリビングを見ている
北斗「……ほんとに寝たな」
小さく呟いて立ち上がる
電気を完全に落として、廊下へ向かう
足音だけが夜に溶けていく
北斗「……長い一日だったな」
ベッドルームのドアを開けると、すでに〇〇は布団に入っている気配がある
北斗は少しだけその様子を見てから、静かに中へ入る
北斗はベッドの端に腰を下ろす
北斗「……起きてねぇな」
〇〇「……ん」
小さく返事だけが返る
北斗「寝ろって言っただろ」
〇〇「……もう寝てる」
北斗「寝てるやつは返事しねぇ」
ほんの少しだけ間が空いて、何も返ってこなくなる
北斗は小さく息を吐いて、上着を脱いでベッドに横になる
北斗「……おやすみ」
〇〇「……おやすみ」
そのまま部屋は静かになって、夜だけが残る
ーーーーーーーーー
☀️
北斗「……5時か」
小さく呟いて天井を見たまま少しだけぼーっとする
隣から規則正しい寝息が聞こえる
北斗はゆっくり横を向く
そこには昨日のまま安心しきった顔で眠っている〇〇がいる
北斗「……」
何も言わずにしばらく見ている
さっきまでの騒がしさも夜のバタバタも全部消えていて今はただ静かだけがある
〇〇は少し丸くなって布団をぎゅっと抱えるようにして寝ている
北斗「……ちゃんと寝てんじゃん」
小さく息を吐いて視線を戻そうとするけどなぜかすぐには離せない
少しして北斗はそっと布団を直す
北斗「……風邪ひくなよ」
その声はほとんど独り言みたいに落ちる
〇〇「……ん」
寝ぼけたような小さな返事だけが返る
北斗は一瞬だけ止まって少しだけ視線を逸らす
北斗「……寝言で返事すんな」
でも声は少しだけ柔らかい
そのまま北斗はもう一度横になる
天井を見ながらまだ少しだけ眠れないまま静かな朝の気配だけを感じている
〇〇はふと目を覚ますまだ頭がぼんやりしていて状況がよく分からないまま天井を見つめる
〇〇「……ん」
小さく声を漏らして目をこすろうとするけど腕が重い
横に気配があって、ゆっくり視線だけを向ける
北斗がそこにいる
〇〇「……え」
まだ夢と現実の境目みたいな声
北斗「起きた」
〇〇「……今何時」
北斗「5時すぎ」
〇〇「はや……」
そのまま数秒止まって、また目を閉じかける
北斗「寝ろ」
〇〇「もう寝てる」
北斗「起きてるだろ」
〇〇「起きてない」
北斗「起きてるやつは会話する」
〇〇「じゃあ夢」
北斗「都合いい夢だな」
〇〇はそのまま布団に沈みながら、ようやく少しだけ現実に戻ってくる
〇〇「……北斗いる」
北斗「いる」
〇〇「ほんとに?」
北斗「ほんとに」
少し間が空いて、〇〇は安心したみたいに小さく息を吐く
〇〇「よかった……」
そのまままた目を閉じていく
北斗は横でそれを見て、小さくため息をつく
北斗「……寝ぼけすぎ」
でも声はさっきよりずっと柔らかいままだった
北斗は横でそれを見て小さくため息をつく
北斗「……寝ぼけすぎ」
そう言いながらも手はそっと伸びる
北斗は〇〇の頭を軽くなでる
〇〇「……ん」
北斗「寝ろ」
〇〇「……うん」
なでられたまま〇〇は安心したように呼吸をゆっくり戻していく
北斗はそのまま手を止めず少しだけ同じリズムで撫で続ける
北斗「……ほんとガキ」
でも声は小さくてほとんど独り言みたいに落ちる
〇〇はもう返事をしないまま完全に寝息に戻っていく
北斗はそれを見てやっと手をゆっくり引く
北斗「……おやすみ」
北斗は隣で眠る〇〇を見ながら静かに息を吐く
北斗「……ほんとよく寝るな」
小さく呟いて、髪にそっと手を伸ばす
なでるたびに規則正しい寝息が少しだけ近く感じる
北斗はそのまま視線を落としたまま手を止めない
北斗「……こんなのさ」
言いかけて、少し黙る
北斗「……普通じゃねぇよな」
〇〇は何も知らないまま、安心しきった顔で眠っている
北斗はその表情を見て、指先をゆっくり髪に通す
北斗「……奪われたくないって思うのもさ」
自分にしか聞こえないくらいの声で続ける
北斗「重いよな、普通に」
でも手は止まらない
なでる動きだけが静かに一定で続く
北斗「……でも無理だろ」
少しだけ笑ってしまう
北斗「こんなの見てて、何も思わない方が無理」
〇〇は小さく寝返りを打つ
北斗は反射的に手を止めかけて、すぐまた優しく再開する
北斗「……ほんと、ズルい」
そう呟いて、もう一度だけ〇〇を見る
北斗「誰にも見せたくねぇって思うのも」
北斗「たぶんもう、終わってるよな」
最後はほとんど声にならないまま落ちていく
それでも指先だけは、まだ離さないまま静かに撫で続けていた
北斗は隣で眠る〇〇を見ながら小さく息を吐く
北斗「……おい」
軽く肩を揺らすけど反応はない
北斗「起きろ」
〇〇はそのまま寝息を続ける
北斗「……ほんとに起きねぇな」
少しだけ呆れたように呟く
もう一度、今度は少しだけ強めに肩を揺らす
北斗「起きて」
〇〇「……ん」
小さな声だけでまた沈む
北斗は少し黙ってから、わざと軽く意地悪を混ぜる
北斗「起きないとキスするぞ」
冗談みたいなトーンで言って様子を見る
〇〇は一切動かない
〇〇「……すぅ」
北斗「……無反応かよ」
小さくため息をつく
もう一度だけ顔を覗き込む
北斗「ほんとに寝てんじゃん」
指先で髪を軽く整える
北斗「……冗談でも起きろよ」
〇〇は変わらず安心しきった寝息のまま
北斗は少しだけ視線を逸らして、困ったように笑う
北斗「……ずるいだろ、これ」
北斗はもう一度だけ〇〇の寝顔をじっと見つめる
北斗「……ほんとに起きねぇな」
小さく息を吐いて髪をそっと整える
〇〇は変わらず安心しきったまま寝息を続けている
北斗「冗談でもさ起きろっての」
返事はない
北斗は少しだけ間を置いて困ったように目を細める
北斗「……キスするぞって言ったのに」
小さく呟いて視線を落とす
もう一度だけ〇〇の顔を見て手を止める
北斗「……ほんと無防備すぎ」
そう言ってそっと身をかがめる
おでこに軽くキスを落とす一瞬だけ触れてすぐに離れる
北斗「……言ったからな」
小さくそう言って少し気まずそうに視線を逸らす
〇〇は何も知らないまま変わらず穏やかに寝ている
北斗はそのまま静かに息を吐いて隣に戻る
北斗「……おやすみ」
ーーー
アラームが8:30に鳴る鋭い電子音で静かな部屋が一気に現実に引き戻される
北斗「……うるさ」
小さく眉をしかめながら手探りでスマホを止める
隣では〇〇が布団の中で少しだけ身動きする
〇〇「……ん……」
北斗「起きろ」
〇〇「……なに……」
まだ完全に寝ぼけた声
北斗「朝」
〇〇「……早すぎ」
北斗「普通の時間」
〇〇「むり……」
北斗は軽く息を吐いて天井を見る
北斗「昨日あんだけ寝てたのにまだ寝るのかよ」
〇〇「寝てない……」
北斗「寝てた」
〇〇「寝てないってば」
しばらく沈黙が落ちる
〇〇は布団に沈んだまま目だけ少し開ける
〇〇「……北斗いる」
北斗「いる」
〇〇「ほんとに朝?」
北斗「ほんとに」
〇〇はようやく現実を受け入れたみたいに小さく息を吐く
〇〇「……最悪」
北斗「起きろ」
〇〇「もうちょっと」
北斗「それ昨日も言ってた」
北斗は横目で見ながら軽くため息をつく
北斗「ほら、今日も仕事だろ」
〇〇「わかってる……」
でも体は動かないまま布団にしがみついている
北斗「……ガキか」
〇〇「ガキじゃない」
北斗「じゃあ起きろ」
〇〇「起きる……」
そう言いながらも、まだ半分夢の中のまま時間だけがゆっくり流れていく
そのままゆっくり現実に戻り始める空気の中で北斗はスマホを見て軽く指を動かす
北斗「今日ストーンズのYouTubeだろ」
〇〇「うん……」
北斗「タイムレス来るやつ」
〇〇「そう……」
北斗「遅刻すんなよ」
〇〇「するわけないじゃん……」
北斗「今の状態だと怪しい」
〇〇「失礼」
北斗は少しだけ息を吐く
北斗「ちゃんと起きろよ」
〇〇「起きてる……起きてるってば……」
でも声はまだ完全に寝起きのままで、布団から出る気配は遅いまま朝の時間だけが静かに進んでいく
〇〇はゆっくり布団から体を起こす
〇〇「……重い」
北斗「そりゃそうだろ」
北斗は呆れたように横を向きながらも急かさない
〇〇は髪をかきながらベッドを降りてふらっとリビングへ向かう
〇〇「着替える……」
北斗「転ぶなよ」
〇〇「転ばない」
洗面所から水の音がしてしばらくして静かになる
北斗はリビングで一人座ったまま待つ
北斗「……ほんと朝弱いな」
やがて〇〇が着替えて戻ってくる
〇〇「ちょっとはマシになった」
北斗「顔まだ死んでる」
〇〇「うるさい」
キッチンに用意された朝ごはんの前に座る
〇〇「いただきます……」
北斗「食え」
〇〇はゆっくり箸を動かしながら食べ始める
〇〇「今日さ」
北斗「うん」
〇〇「ストーンズのYouTubeでしょ」
北斗「そう」
〇〇「タイムレス出るやつ」
北斗「朝から忙しいな」
〇〇「ほんとそれ」
少しずつ目が覚めていく
〇〇「ちょっと生き返ってきた」
北斗「遅い」
〇〇「うるさいって」
北斗は片付けながら横目で見る
北斗「ちゃんと準備しろよ」
〇〇「してるってば」
朝の空気の中で少しずつ現実に追いついていく
気づいたら時計はもう予定よりかなり進んでいて部屋の空気が一気に張りつめる
〇〇「え、やば」
北斗「……やばいな」
その直後スマホが鳴る
画面にはマネージャーの名前
北斗「もしもし」
マネージャー『今どこですか、もう下来てもらえますか、時間押してます』
北斗「今降ります」
マネージャー『お願いします、遅れます』
通話が切れる
北斗「行くぞ」
〇〇「うん!」
〇〇は一気にカバンを掴んで玄関へ向かう
〇〇「ちょっと待ってこれどこ入れたっけ」
北斗「後でいいから出る」
〇〇「待って待って!」
北斗「待たない」
二人はバタバタと靴を履きほぼ同時にドアを開ける
〇〇「やばいやばいやばい」
北斗「走るな転ぶ」
〇〇「でも遅刻する」
北斗「分かってる」
エレベーターに飛び乗るようにして下へ降りる
北斗「ほら落ち着け」
〇〇「無理!」
下に着いた瞬間スタッフの車がすでに待っている
マネージャー「早く乗ってください!」
〇〇「すみません!」
北斗「行きます」
ドアが閉まり車が発進する
外の景色が流れていく中で〇〇はまだ息を整えている
〇〇「ほんとギリギリだった……」
北斗「お前がのんびりしすぎ」
〇〇「誰のせい?」
北斗「自分だろ」
〇〇「うるさい」
車内には少しだけいつもの空気が戻っていく
向かう先は事務所ストーンズのYouTube撮影現場だった
ーー
スタジオにはすでにSixTONESとtimeleszのメンバー全員が揃っていて準備もほぼ整っている状態だった
慎太郎「ほんとあと北斗だけなんだけど」
樹「いや〇〇もまだじゃん」
ジェシー「遅刻コンビじゃん」
風磨「いやガチで始められないんだけど」
勝利「時間やばくない?」
松島「大丈夫かなぁ」
原「いや絶対なんかあるでしょ」
将生「ドタバタ系な予感してる」
しの「来るならまとめて来てほしい」
てら「いやそれはそれで怖い」
猪俣「めっちゃ走ってる音しそう」
その瞬間スタジオの扉がバンッと開く
北斗「すみません」
〇〇「ごめん!!」
ドタドタと息を切らしながら2人が同時に入ってくる髪も少し乱れていて完全に走ってきたのが分かる状態
樹「来た来た来た」
ジェシー「セットで来るのウケるんだけど」
慎太郎「ほんと同時なの何」
風磨「いや夫婦で遅刻してんのやめろ」
〇〇「違うって!!」
北斗「違う」
勝利「即否定で草」
松島「でもめっちゃ一緒に来てない?」
原「いや絶対一緒に住んでる人の動きなんよ」
将生「呼吸合いすぎじゃない?」
しの「仲良すぎるのよ」
てら「朝からテンション高いな」
猪俣「走ってきた感すごい」
〇〇は息を整えながら椅子に座ろうとしている
〇〇「ほんとごめんって」
北斗「いや俺も遅れた」
ジェシー「いや一緒に来てる時点で同罪」
風磨「これさ別現場なのにさ」
風磨「なんで同じ時間に同じとこから来てんの?」
樹「説明してほしい」
北斗「たまたまだろ」
〇〇「たまたまだよ」
勝利「即答コンビやば」
松島「逆に怖いよねその一致」
原「絶対なんかあるやつじゃん」
将生「息ぴったりすぎるって」
しの「もう隠せてないのよ」
てら「朝から面白すぎる」
猪俣「ドラマ始まる前にドラマある」
スタジオは一気に笑いに包まれてスタッフも含めて空気が和む
ジェシー「はいじゃあ遅刻コンビ回始めまーす」
〇〇「違うから!!」
北斗「違うって言ってるだろ」
でも隣同士に並んで座る2人はどこか呼吸だけはちゃんと揃っていた
ーー
撮影は無事に終わり、スタジオにはさっきまでの賑やかさが少しずつ落ち着いた空気だけが残っていた
〇〇「おつかれさまでしたー」
勝利「おつかれ!」
風磨「いや今日ずっと面白かったわ」
樹「遅刻コンビは伝説」
北斗「うるさい」
〇〇「だから違うってば」
みんながそれぞれ次の仕事や移動の準備でばらけていく中、〇〇はふと喉の渇きを感じて廊下の自動販売機へ向かう
〇〇「ちょっと飲み物買ってくるね」
松島「いってらっしゃい」
〇〇は自販機の前で飲み物を選んでいると少し離れた角から声が聞こえる
女性スタッフA「いやさ〇〇ちゃんってさ」
女性スタッフB「うんあれちょっと無理じゃない?」
〇〇は手を止める
女性スタッフA「現場だと普通に感じいいけどさ」
女性スタッフB「裏だと結構計算っぽくない?」
女性スタッフA「分かるなんか愛想いいだけっていうか」
女性スタッフB「北斗くんとかもさなんであんなに一緒にいるのか分かんない」
女性スタッフA「正直お似合いとか言われてるの意味分かんないよね」
女性スタッフB「距離感バグってるだけでしょ」
〇〇は飲み物に伸ばしかけた手を止めたままその場で固まる
女性スタッフA「でもさ本人は可愛い顔してるから得だよね」
女性スタッフB「それはある結局顔なんだよね」
〇〇は何も言えずその場に立ち尽くしたまま視線だけを少し落とす
呼吸が浅くなっていくのを自分でも感じる
〇〇はその場から動けないまま、角の向こうの声だけを聞いている
女性スタッフA「でもさ、結局さあの子ってさ」
女性スタッフB「うん、扱いづらいタイプだよね」
女性スタッフA「空気読んでる風だけどさ、ちょいズレてるっていうか」
女性スタッフB「分かる、周りが気使ってる感じある」
女性スタッフA「北斗くんとかもさ、ほんと優しすぎじゃない?」
女性スタッフB「逆にあれ、振り回されてるよね」
女性スタッフA「仕事なのに距離近すぎだし」
女性スタッフB「見ててちょっと痛いんだよね」
〇〇は持っていた飲み物を強く握ってしまう
指先に力が入って、少しだけ痛い
女性スタッフA「まあでもさ、あの感じで人気あるのはすごいけどね」
女性スタッフB「結局そこだよね、見た目と雰囲気」
女性スタッフA「中身はそんなでもなくない?」
女性スタッフB「それな」
笑い混じりの声が小さく響く
〇〇は一歩も動けないまま、その場で呼吸だけを整えようとする
でもうまくいかない
胸の奥が少しずつ重くなる
角の向こうではまだ声が続いている
女性スタッフA「まあ現場は普通に回ってるしね」
女性スタッフB「仕事さえちゃんとやればいいし」
女性スタッフA「それはそう」
〇〇はゆっくりと目を伏せる
飲み物の冷たさだけが手の中に残っている
その場から離れることも、声を遮ることもできずに、ただ立ち尽くしていた
〇〇は自販機の前でおつりを取るのも忘れたまま立ち尽くしている
女性スタッフA「でもさ結局あの子ってさ」
女性スタッフB「うんなんか全部“いい子”演じてる感じ」
女性スタッフA「分かる、素が見えないっていうか」
女性スタッフB「逆に怖いよねああいうの」
女性スタッフA「北斗くんもさ優しすぎて心配になるレベル」
女性スタッフB「利用されてるって思われても仕方ないよね」
女性スタッフA「ていうか距離近すぎでしょ普通に」
女性スタッフB「仕事なのにあれはちょっとね」
〇〇は自販機に手を置いたまま動けない
指先だけが冷たくなっていく感覚がある
女性スタッフA「まあ顔は可愛いけどさ」
女性スタッフB「それだけって感じ」
女性スタッフA「中身はそこまでっていうか」
女性スタッフB「結局ビジュだよね」
小さな笑い声が混ざる
〇〇は息を吸おうとしてうまくできないまま、その場で固まっている
自販機のライトだけがぼんやりと顔を照らしている
女性スタッフA「まあ現場回ってるからいいけどさ」
女性スタッフB「裏では普通に評判微妙だよね」
〇〇はおつりの取り出し口を見つめたまま、指一本動かせずに立ち尽くしていた
一方その頃〇〇以外のメンバーたちは次の仕事まで少し時間が空きスタジオの一角でそれぞれ休憩していた
北斗「……ちょっと余裕あるな」
慎太郎「次までまだ時間あるっぽいね」
風磨「意外とゆるいな今日」
勝利「〇〇まだ戻ってきてないね」
慎太郎「そういえばさ〇〇帰ってくるの遅くね?」
風磨「確かに飲み物買いに行っただけだよな」
勝利「迷ってるとか?」
北斗「……」
一瞬だけ北斗の表情が止まる
理由は分からないのに胸の奥がざわつく
北斗「いや」
小さく呟いて立ち上がる
風磨「どした?」
北斗「ちょっと見てくる」
慎太郎「えそんな気になる?」
北斗「なんか嫌な感じする」
勝利「大丈夫?」
北斗「分かんねぇけど」
そのまま北斗は休憩スペースを出ていく
足早になっていく自分を自覚しながらも止められない
北斗「自販機のとこだよな」
廊下を曲がるたびに胸のざわつきが強くなる
理由のない違和感だけが確実に北斗をそちらへ向かわせていた
北斗は廊下を曲がった瞬間、自販機の前に立ち尽くす〇〇の姿を見つける
一瞬、何が起きているのか理解が追いつかないまま足が止まる
〇〇はおつりも取らずに、うつむいたままその場に立っていた
その時、角の向こうからまだ声が続いているのが聞こえる
北斗はその場で一瞬で状況を理解する
角の向こうから聞こえてくる声のトーンで、ただの雑談じゃないと気づく
北斗「……は?」
低く短く漏れた声に、空気が変わる
それが〇〇に向けられたものだと、すぐに分かってしまう
北斗は視線を鋭くして角の方へ意識を向ける
そして次の瞬間、表情が完全に変わる
北斗「……悪口かよ」
小さく呟いた声には、さっきまでの余裕は一切残っていない
ーーーーーーーーー
〇〇side
〇〇はまだその場から動けず、うつむいたまま自販機の前に立ち尽くしている
北斗が後ろから近づいてきていることにも気づかないまま、角の向こうの声だけを聞いてしまっている
女性スタッフA「ほんとあの子さ」
女性スタッフB「うん、ちょっと無理なんだよね」
〇〇は唇を噛んだまま、ただ立っている
その時、ふと自販機の上のボタンに伸びる手の影に気づく
北斗「……水」
ポチッとボタンが押される音がして、飲み物が落ちてくる
〇〇「……え」
びっくりして顔を上げると、そこには北斗が立っている
その瞬間、北斗は何も言わずに自販機の前に出てくる
水もおつりも取らず、そのまま〇〇の前に立つ
そして次の瞬間、北斗は〇〇の耳を両手でそっと覆う
角の向こうからの声が一気に遠ざかる
北斗は何も言わないまま、ただ黙ってそのまま耳を塞ぎ続けている
〇〇「……え」
一瞬、何が起きたのか分からなくて固まる
〇〇(なにこれ、え、北斗……?)
視界の端に北斗の手が見えて、耳が完全に覆われているのに気づく
〇〇(いや待って、なんでここにいるの)
角の向こうの声が急に遠くなる
〇〇(え、聞こえない、え、遮られてる)
心臓だけが急に早くなる
〇〇(え、もしかして今の聞いてた?)
北斗の顔を見ると、さっきまでの空気と全然違うのが分かる
〇〇(え、怒ってる?違う、これ……)
北斗は何も言わないまま、ただ耳を塞いだまま立っている
〇〇(守られてる、ってこと……?)
さっきまで重かった胸の奥が、少しだけ別の感覚に変わる
〇〇(どうしよう、なんか……ずるい)
何も言えないまま、ただ北斗の手の温度だけが耳に残っている
〇〇(やばい、無理、これ泣く)
目の奥が熱くなって、必死に瞬きを繰り返す
〇〇(泣いたらダメ、ここで泣いたらダメ)
でも胸の奥が一気にいっぱいになる
北斗は何も言わないまま、耳を塞いだ手を少しだけ緩める
そのまま、〇〇の頭の上にそっと自分の顎を預ける
北斗「……大丈夫」
低く短い声
〇〇(……大丈夫って、なにが)
でもその一言で、張っていたものが少しだけほどけそうになる
〇〇(やばい、ほんとに無理)
北斗はそのまま動かず、少しだけ息を吐く
北斗「聞かなくていい」
〇〇(え、でも)
北斗「いい」
短い言葉なのに、それ以上何も許さない感じじゃなくて、ただ守るみたいな声
〇〇(……なんでそんなことできるの)
涙がこぼれそうになるのを、必死に飲み込む
北斗は〇〇の頭に顎を乗せたまま、少しだけ視線を上げる
北斗「行くぞ」
その一言だけで、全部を切り替えるみたいに静かに立っている
北斗は耳を塞いでいた手をゆっくり離す
代わりに自動販売機から落ちた水とおつりを無言で取り出す
北斗「……これ」
短く言って、全部まとめてポケットに入れる
〇〇はまだ少しぼんやりしたまま立っている
〇〇(え、まだ頭の中ぐちゃぐちゃなんだけど)
北斗は何も説明しないまま、〇〇の腕を軽く掴む
北斗「行くぞ」
〇〇「……え、ちょ、ちょっと」
でも北斗は止まらない
北斗はそのままスタジオの方向へ歩き出す
〇〇は引かれるまま、半歩遅れてついていく
〇〇(なにこれ、さっきのこと全部なかったみたいにしてる)
〇〇(でも、手、離さないんだ)
北斗の手は強くないのに、離れる気配もない
北斗「気にすんな」
ぽつりとだけ言う
〇〇「……無理でしょ」
北斗「無理じゃねぇ」
その一言だけで、それ以上何も言わせない空気になる
〇〇は何も言えず、ただ引かれるまま歩いていく
北斗は〇〇の腕を引いたままスタジオへ戻っていく
〇〇はまだ少し整理が追いつかないまま隣を歩いている
スタジオの扉が開く
慎太郎「お、帰ってきた」
樹「遅かったじゃん」
ジェシー「飲み物買うのに何分かかってんのー?」
風磨「遭難してた?」
でも次の瞬間、空気が少し変わる
北斗が〇〇の腕を掴んだままだったから
勝利「……え?」
松島「どうしたの?」
将生「なんかあった?」
しの「空気違くない?」
〇〇は慌てて少しだけ腕を引く
〇〇「いや、なんでもない!」
北斗「……」
樹は北斗の顔を見て、ふっと表情を変える
樹「北斗?」
北斗は何も言わないまま、持っていた水を〇〇に渡す
北斗「飲め」
〇〇「……うん」
慎太郎も空気を察したのか、いつものテンションを少し落とす
慎太郎「ほんとに大丈夫?」
〇〇「大丈夫だって」
笑おうとするけど少しだけ声が揺れる
その瞬間、北斗の視線がわずかに動く
〇〇はそれに気づいて、慌てて下を向く
北斗「……」
何も言わない
でもさっきまでよりずっと近くに立ったまま離れなかった
〇〇は受け取った水を見ながら少しだけ息を整える
まだ胸の奥はざわついているのに、この空気のままだと逆にみんなに気づかれそうで無理やりいつものテンションを作る
〇〇「……てかさ」
北斗「なに」
〇〇「その水私のお金だからね?」
一瞬空気が止まる
勝利「え?」
松島「どういうこと?」
将生「水って奢りじゃないの?」
しの「なんか揉めてる?」
てら「え待って状況分かんない」
猪俣「急にどうした?」
慎太郎だけが北斗の顔を見て少し黙る
〇〇はわざとらしく北斗を見る
〇〇「勝手に押して勝手に取ったじゃん」
北斗「取ってやったんだろ」
〇〇「しかもおつりまで回収してたし」
北斗「落としそうだったから」
〇〇「いや私のなんだけど」
樹「いや何その会話」
ジェシー「夫婦感強すぎるんだけど」
風磨「普通に会話が生活なんよ」
勝利「いやほんとに何があったの?」
〇〇は水を軽く持ち上げながら少し笑う
〇〇「まあでも助けてくれたからいいよ」
北斗「……」
〇〇「お礼ってことで」
将生「助けた?」
しの「え、何から?」
てら「余計気になるんだけど」
猪俣「絶対なんかあったじゃん」
北斗はそれ以上説明しないまま視線を逸らす
北斗「別に大したことじゃねぇよ」
慎太郎はその言い方で何かを察したみたいに少しだけ黙る
ジェシー「いやでも空気は大したことあったよ?」
樹「北斗めっちゃ怖い顔してたし」
〇〇「してた」
北斗「お前まで言うな」
〇〇は少しだけ笑う
さっきまで苦しかった胸の奥が、その空気で少しだけ軽くなっていた
〇〇は持っていた水を軽く振りながら少しだけ笑う
〇〇「だって北斗が守ってくれたから」
一瞬で全員止まる
北斗「は?」
慎太郎「え?」
ジェシー「はい???」
樹「ちょっと待って今なんて?」
風磨「さらっと爆弾落とすな」
勝利「守った?」
松島「え何それ」
将生「情報量多いって」
しの「急に少女漫画始まった?」
てら「北斗くん守るとか言うんだ」
猪俣「やば」
〇〇はどこか自慢げに北斗を見る
〇〇「ねー?」
北斗「ねー?じゃねぇ」
〇〇「だってほんとじゃん」
北斗「……」
樹「うわ否定しない」
慎太郎「ガチじゃん」
ジェシー「かっこいいことしてるー!」
風磨「しかも本人照れてんじゃん」
北斗「照れてねぇ」
〇〇「いやしてる」
北斗「してない」
勝利はまだ状況が掴めないまま困惑している
勝利「えほんとに何あったの?」
〇〇「内緒ー」
将生「余計気になるって」
しの「絶対大したことあるやつじゃん」
てら「守るってワード強いのよ」
猪俣「普通にときめいたんだけど」
北斗は小さくため息をつく
北斗「お前ほんと余計なこと言うな」
〇〇「えー」
でも〇〇の顔はさっきよりちゃんと笑えていた
スタッフ「〇〇さん先に移動お願いしまーす!」
〇〇「はーい」
〇〇は返事をしながら立ち上がる
勝利「次もう行くの?」
〇〇「うん私だけちょっと早いみたい」
松島「頑張ってねー」
将生「忙しいなほんと」
しの「休める時休みなよ」
てら「またねー」
猪俣「水ちゃんと飲みなよ」
〇〇「飲むー」
〇〇はそう言いながら持っていた水を軽く振る
ジェシー「それ大事な水だもんなー?」
樹「守ってもらった水ね?」
慎太郎「ヒーローの水」
北斗「お前らうるせぇ」
風磨「いやでも今日の北斗マジで主人公だったよ」
〇〇は笑いながら北斗を見る
〇〇「じゃあまたあとでねヒーロー」
北斗「その呼び方やめろ」
〇〇「えー」
勝利「めっちゃいじるじゃん」
〇〇「だって面白いんだもん」
北斗は呆れた顔をしながらも止めない
スタッフ「〇〇さんお願いします!」
〇〇「やば行かなきゃ」
〇〇は慌ててカバンを掴む
〇〇「じゃあおつかれー!」
全員「おつかれー!」
そのまま〇〇はスタジオを飛び出すように出ていく
バタンと扉が閉まる
数秒静かになったあと
樹「……で?」
北斗「は?」
慎太郎「何があったの」
ジェシー「守ったって何」
風磨「絶対なんかあっただろ」
北斗は小さく息を吐いて椅子にもたれた
北斗「……別に」
でもその顔はまだ少しだけ険しいままだった
樹「……で?」
北斗「は?」
慎太郎「何があったの」
ジェシー「守ったって何」
風磨「絶対なんかあっただろ」
勝利「〇〇ちょっと変だったし」
松島「無理して笑ってる感じした」
将生「うんなんか空気違った」
しの「北斗さんも怖い顔してたし」
てら「普通じゃなかったよね」
猪俣「気になるって」
北斗はしばらく黙ったまま視線を落とす
慎太郎「……北斗?」
北斗「……悪口」
空気が止まる
樹「は?」
ジェシー「誰の?」
北斗「〇〇の」
風磨「……は?」
勝利の表情が変わる
松島「え、スタッフ?」
北斗「女スタッフ二人」
将生「うわ最悪」
しの「なにそれ」
てら「聞こえる場所で?」
北斗「〇〇普通に聞いてた」
猪俣「えぐ……」
慎太郎「だからあんな感じだったのか」
樹「いや待って腹立つんだけど」
ジェシー「何それ普通に嫌だ」
風磨「内容は?」
北斗は小さく息を吐く
北斗「計算っぽいとか」
北斗「愛想だけとか」
北斗「俺といるのもどうこう言ってた」
空気が一気に重くなる
勝利「最低じゃん」
松島「〇〇絶対傷ついてるよね」
将生「いや無理だわそれ」
しの「聞こえる場所で言うの終わってる」
てら「普通にキツいって」
猪俣「しかも本人に聞こえてるのがやばい」
慎太郎は眉をしかめながら北斗を見る
慎太郎「お前あの時行ってよかったな」
北斗「……なんか嫌な感じしたから」
樹「勘当たりすぎだろ」
ジェシー「ヒーローじゃん」
北斗「うるせぇ」
でもその声にはまだ少し怒りが残ったままだった
慎太郎「その後どうしたの」
北斗は少し黙る
北斗「……自販機の前で立ってた」
樹「〇〇が?」
北斗「うん」
ジェシー「えぇ……」
北斗「おつりも取ってなかった」
風磨「そこまでだったんだ」
勝利「聞いちゃって固まってた感じ?」
北斗「たぶん」
松島「しんど……」
将生「想像できるわそれ」
しの「何もできなくなるやつだ」
てら「うわぁ……」
猪俣「〇〇優しいから余計抱えそう」
慎太郎「で?」
北斗「……耳塞いだ」
全員「え?」
北斗「聞こえないように」
樹「お前さぁ……」
ジェシー「かっこよすぎるってそれ!!」
風磨「普通にドラマなんよ!」
勝利「いやでもそれ正解だわ!」
松島「優しいね北斗くん!」
北斗「別に」
慎太郎「いや別にじゃねぇって」
北斗「……あのまま聞かせんの無理だった」
少しだけ低い声
将生「うわぁ……」
しの「それ〇〇泣くやつじゃん」
北斗「泣きそうだった」
空気がまた静かになる
てら「え、きつ……」
猪俣「メンタルやられるって」
北斗「だからそのまま連れて帰った」
樹「腕掴んでたのそれか」
北斗「……うん」
ジェシー「いやほんとヒーローじゃん」
北斗「だからうるせぇって」
でも北斗の顔は、まだ少しだけ怒りを押し殺したままだった
慎太郎「〇〇大丈夫かな」
北斗「……無理してた」
樹「まあするだろうな」
風磨「しかもあいつ絶対周りに気使うじゃん」
勝利「笑って誤魔化すタイプだよね」
松島「だから余計心配」
ジェシー「守ってくれてありがとね北斗」
北斗「……別に」
将生「でも北斗くん行ってなかったらもっとキツかったよね」
しの「一人で聞いてたってことでしょ」
てら「それしんどいって」
猪俣「想像しただけで嫌だ」
北斗は小さく息を吐いて壁にもたれる
北斗「……あいつさ」
慎太郎「うん」
北斗「絶対“気にしてない”みたいにするんだよ」
樹「分かる」
北斗「でも普通に傷ついてる顔してた」
ジェシー「そりゃそうだよ」
風磨「聞こえる場所で悪口とか普通に終わってる」
勝利「しかも本人のこと何も知らないくせに」
松島「ほんと嫌だねそういうの」
北斗の表情がまた少し険しくなる
北斗「……マジで腹立った」
慎太郎「珍しく顔に出てたもんな」
樹「お前ガチでキレると静かになるタイプだから怖ぇんだよ」
北斗「知らねぇ」
ジェシー「でも〇〇笑えてたじゃん最後」
その言葉に北斗が少しだけ黙る
将生「北斗くんいたからじゃない?」
しの「安心したんだろうね」
てら「守ってくれる人いるのデカいよ」
猪俣「しかも北斗くんだしね」
北斗「……別に大したことしてねぇよ」
慎太郎「してるって」
風磨「本人が一番分かってるだろ」
北斗は返事をしないままスマホを見る
画面にはさっき別れたばかりの〇〇とのトーク画面が開いたままだった
ーーーーーーーーー
あれから時間が経つ🌙
時刻は22:35
長かった仕事を終えて北斗はようやく車に乗り込む
マネージャー「お疲れさまでした」
北斗「お疲れさまです」
ドアが閉まる
静かになった車内で北斗は深く息を吐く
今日一日の疲れが一気に押し寄せてくる感覚
窓の外には夜の街が流れていく
北斗はシートに体を預けながらスマホを開く
トーク画面の一番上には〇〇
最後のメッセージは数時間前
『じゃあまたあとでねヒーロー』
北斗「……」
小さくため息をつく
北斗「ほんと調子狂う」
そう呟きながらも、指は自然にトーク画面を開いたまま止まっている
今日の自販機前の顔が頭から離れない
うつむいたまま立ち尽くしていた姿
涙を堪えていた目
耳を塞いだ時の小さな震えた呼吸
北斗は目を閉じて軽く頭を押さえる
北斗「……気にすんなって言ったくせに」
自分の方がずっと気にしている
マネージャー「家までそのまま行きますね」
北斗「お願いします」
車は静かに夜道を走っていく
北斗はもう一度スマホを見る
連絡するか少し迷って、結局まだ画面を閉じられないままだった
北斗はしばらくスマホを見つめたまま小さく息を吐く
北斗「……もういい」
何に対して言ったのか自分でも分からないまま通話ボタンを押す
コール音が車内に小さく響く
北斗は窓の外を見ながら待つ
一回
二回
三回
でも繋がらない
そのまま機械音声に切り替わる
『現在電話に出ることができません——』
北斗「……だよな」
小さく呟いて通話を切る
時間はもう22:35を過ぎている
〇〇はまだ仕事中なんだろうとすぐ分かる
北斗はスマホを軽く握ったまま後ろに頭を預ける
マネージャー「〇〇ちゃんまだ撮影ですかね」
北斗「たぶん」
マネージャー「今日ずっと忙しそうでしたもんね」
北斗「……そうっすね」
返事をしながらも頭の中では別のことを考えている
ちゃんと笑えてるのか
無理してないか
また一人で抱え込んでないか
北斗「……」
少ししてスマホの画面が暗くなる
それでも北斗はしばらく手放せないままだった
ーーーーーーーーー
〇〇side
一方その頃〇〇はまだ仕事中だった
最後の仕事は深夜のCM撮影
スタジオには遅い時間特有の静かな慌ただしさが流れている
スタッフ「次本番いきまーす!」
〇〇「お願いします」
隣には親友の橋本環奈 が立っている
環奈「〇〇眠くない?」
〇〇「ちょっと眠い」
環奈「でしょー?私もやばい」
〇〇「でもあとちょっとだから頑張る」
環奈「えらい」
二人は衣装のままモニター前へ移動する
監督「さっきのカットめっちゃ良かったです!」
〇〇「ほんとですか?」
環奈「やったー!」
現場の空気は明るい
でも〇〇はふとした瞬間だけ今日の出来事が頭をよぎる
自販機の前
聞こえてしまった声
北斗の手の温度
〇〇「……」
環奈「〇〇?」
〇〇「え?」
環奈「ぼーっとしてる」
〇〇「あーごめんちょっと疲れたかも」
環奈「今日忙しかった?」
〇〇「朝からずっと」
環奈「お疲れさまだよほんと」
その時スタッフが声をかける
スタッフ「姫野さん橋本さんスタンバイお願いします!」
環奈「はーい!」
〇〇「お願いします!」
〇〇は気持ちを切り替えるように小さく息を吐いて、またライトの当たるセットの中へ入っていった
CM撮影が終わった頃には時刻は23:10を回っていた
監督「お疲れさまでした!」
スタッフ「ありがとうございましたー!」
〇〇「お疲れさまでした」
環奈「おつかれー!」
長かった一日がようやく終わって、スタジオの空気も少し緩む
〇〇は肩の力を抜きながら小さく息を吐く
環奈「今日ほんと頑張ってたね」
〇〇「いやもう眠い」
環奈「分かるー」
二人は笑いながら控室へ戻る
マネージャー「〇〇さん車下で待ってます」
〇〇「はーい」
環奈のマネージャーも迎えに来ていて、帰る準備が進んでいく
環奈「明日も朝早い?」
〇〇「普通に早い」
環奈「終わった」
〇〇「終わったね」
二人で少し笑う
荷物を持ってエレベーターへ向かう途中、〇〇のスマホがふと震える
画面には“不在着信 松村北斗”
〇〇「……」
環奈「ん?」
〇〇「いや、なんでもない」
でも少しだけ表情が止まる
環奈はその顔を見て小さく首を傾げる
環奈「疲れてる?」
〇〇「うん、ちょっとだけ」
本当はそれだけじゃない
でも今はうまく言葉にできないまま、二人はそのままエントランスへ向かっていく
外には夜風が流れていて、それぞれのマネージャーが車の前で待っていた
〇〇が車に乗り込むとマネージャーも助手席へ座る
ドアが閉まって車が静かに動き出す
〇〇はシートに体を預けながら小さく息を吐く
マネージャー「そういえば」
〇〇「んー?」
マネージャー「さっき北斗くんのマネージャーさんから伝言預かりました」
〇〇「え?」
マネージャー「“今日なるべく早く帰してあげてくださいって北斗が言ってました”って」
〇〇「……は?」
思わず顔を上げる
マネージャー「心配してたみたいですよ」
〇〇「いやなんで」
マネージャー「今日なんかあったんですか?」
〇〇「……別に」
でも声が少しだけ弱い
マネージャーはバックミラー越しに少し笑う
マネージャー「優しいですね北斗くん」
〇〇「いや違うって」
マネージャー「違わないでしょ」
〇〇「……」
〇〇は窓の外を見る
夜の街の光が流れていく
胸の奥がまた変に苦しくなる
〇〇(なんでそんなことするの)
〇〇(優しくしないでよ)
今日一日、無理やり押し込めていた感情が少しずつ揺れていく
マネージャー「家着いたらちゃんと休んでくださいね」
〇〇「……うん」
でも頭の中には、もうずっと北斗のことばかり残っていた
車は静かな夜道を走り、やがてマンションの前でゆっくり止まる
マネージャー「着きましたよ」
〇〇「……ん、ありがとうございます」
ぼんやりしていた意識を戻しながらシートベルトを外す
マネージャー「今日はほんとお疲れさまでした」
〇〇「お疲れさまです」
荷物を持って車を降りる
夜風が少し冷たい
車が走り去っていくのを見送ってから〇〇はマンションを見上げる
〇〇「……帰ってきちゃった」
小さく呟いてエントランスへ向かう
エレベーターに乗ると一気に静かになる
鏡に映る自分の顔は思ったより疲れていた
〇〇「ひど」
少しだけ苦笑いする
でもその直後、また昼間のことが頭をよぎる
“聞かなくていい”
耳を塞いでくれた手の感触まで思い出してしまう
〇〇「……っ」
思わず顔を逸らす
エレベーターが止まり扉が開く
〇〇はゆっくり廊下を歩いて自分の部屋の前へ向かう
カバンから鍵を取り出しながら小さく息を吐く
〇〇「……疲れたぁ」
カチャ、と鍵を開けて部屋の中へ入る
玄関の灯りだけが静かについている
〇〇「ただいまー……」
リビングへ向かいながら靴を脱ぐ
するとソファから声が飛んでくる
北斗「おかえり」
〇〇「……うわびっくりした」
北斗「なんでだよ」
〇〇「いや今日まだ帰ってないと思ってた」
北斗はソファに座ったままスマホを置く
北斗「先終わったから帰ってた」
〇〇「そっか……」
〇〇はそのまま力が抜けたみたいに荷物を置く
北斗はそんな〇〇を見ながら少し眉を寄せる
北斗「……疲れてんな」
〇〇「疲れた」
北斗「顔死んでる」
〇〇「知ってる」
テーブルの上にはコンビニ袋が置かれている
〇〇が好きな飲み物と軽食
〇〇はそれを見て少し目を丸くする
〇〇「……これなに」
北斗「飯」
〇〇「買ってきたの?」
北斗「お前今日ちゃんと食ってなさそうだったから」
〇〇「……」
北斗「あとマネージャーからまだ仕事って聞いたし」
〇〇は小さく笑う
〇〇「過保護」
北斗「うるせぇ」
でも〇〇はその言葉のわりに少し嬉しそうに袋を覗く
〇〇「え、これ私好きなやつ」
北斗「知ってる」
〇〇「……ずる」
北斗「何が」
〇〇「なんか今日ずっと北斗ずるい」
北斗「意味分かんねぇ」
〇〇はソファへ近づきながら小さく息を吐く
昼間のことを思い出しそうになる
でも今は、この部屋の空気が少しだけ安心できた
〇〇はソファに座り込みながらコンビニ袋を開ける
〇〇「……あ」
北斗「なに」
〇〇「そういえば言おうと思ってた」
北斗はペットボトルを開けながら視線だけ向ける
北斗「なに」
〇〇は少しだけ間を空ける
〇〇「今度、廉と会うことになった」
その瞬間、北斗の手が止まる
部屋の空気が少しだけ静かになる
北斗「……仕事?」
〇〇「うん」
〇〇「ご飯行こうって」
北斗「ふーん」
短い返事
でも声が少し低い
廉と〇〇はもうすぐ別れて二年になる
別れた理由は嫌いになったからじゃない
お互い仕事が忙しくなりすぎて、どうしてもすれ違った結果だった
だから今でも完全には終われていない
廉からは最近また“好き”だと真っ直ぐ言われている
〇〇は袋からおにぎりを取り出しながら小さく言う
〇〇「最近また好きって言われるんだよね」
北斗「……」
〇〇「会うたびに」
北斗は返事をしない
ただペットボトルを握る指に少し力が入る
〇〇「別れてるのに変だよね」
北斗「……別に変じゃねぇだろ」
〇〇「え」
北斗「好きなら言うだろ」
〇〇は少しだけ北斗を見る
北斗は視線を逸らしたままソファにもたれている
〇〇「北斗怒ってる?」
北斗「怒ってねぇ」
〇〇「絶対嘘」
北斗「……怒ってない」
でも空気が少しだけ重い
〇〇はその変化に気づきながらも、なんとなく言葉を止められない
〇〇「廉ね」
〇〇「まだやり直したいって言ってくれてる」
北斗「……」
〇〇「ずっと」
北斗は黙ったまま目を伏せる
胸の奥がじわじわ痛む
でもそんな顔は見せないまま、小さく息だけを吐いた
〇〇はおにぎりを開けながらふと思い出したように顔を上げる
〇〇「あ、そうだ」
北斗「……なに」
〇〇「今日環奈と最後CMだったんだけど」
北斗は黙ったまま聞いている
〇〇「その時おすすめされたやつあるんだよね」
北斗「へぇ」
〇〇「バスローブ」
北斗「……は?」
〇〇「“ちょっと高いけどめっちゃいいよ”って」
〇〇はスマホを取り出しながら普通に続ける
〇〇「なんか吸水やばいらしい」
北斗「なんで急にバスローブの話」
〇〇「いや今日疲れすぎてちょっと欲しくなった」
北斗「……」
〇〇「これ」
スマホ画面を北斗に向ける
そこにはふわふわした高級そうなバスローブの写真
北斗はちらっと見る
北斗「高っ」
〇〇「ね!」
〇〇「でも環奈が“人生変わる”って言ってた」
北斗「大袈裟だろ」
〇〇「でも気持ちよさそうじゃない?」
北斗「……まあ」
〇〇はソファで足を抱えながら画面を見つめる
〇〇「いいなぁ」
北斗「欲しいなら買えば」
〇〇「んー悩む」
北斗「なんで」
〇〇「高いもん」
北斗「お前普通に買えるだろ」
〇〇「いやなんか自分のためだと躊躇う」
北斗はその言葉に少しだけ笑う
北斗「変なとこケチ」
〇〇「うるさい」
さっきまで少し重かった空気が、また少しだけ緩んでいく
〇〇はスマホを見ながらふにゃっと笑う
〇〇「しかもさ」
北斗「ん?」
〇〇「環奈もこれ使ってるらしくて」
北斗「へぇ」
〇〇「大志くんとお揃いなんだって」
北斗の動きが少し止まる
〇〇「いいよねーそういうの」
〇〇はスマホを抱えたまま天井を見る
〇〇「私も彼氏できたらやりたいなー」
北斗「……」
〇〇「お揃いのバスローブ」
北斗は返事をしないまま水を飲む
〇〇はそんな北斗に全く気づかず、そのまま笑いながら言う
〇〇「だからそれまでの間は北斗よろしく!」
北斗「……は?」
〇〇「え、だって今一緒住んでるし?」
北斗「意味分かんねぇ」
〇〇「お揃いにしよーよ」
北斗「なんでだよ」
〇〇「えーいいじゃん」
〇〇はケラケラ笑っている
完全に友達テンション
でも北斗は笑えない
北斗「……」
〇〇「北斗?」
北斗は小さく息を吐く
北斗「お前さ」
〇〇「ん?」
北斗「距離感バグってんだよ」
〇〇「えなんで!?」
北斗「なんでも」
〇〇は納得いかない顔をする
〇〇「絶対なんか思ったじゃん」
北斗「別に」
でも視線は完全に逸らされたままだった
〇〇「じゃあしよー」
北斗「は?」
〇〇「お揃い」
北斗「しない」
〇〇「なんでー?」
北斗「男でバスローブお揃いは意味分かんねぇ」
〇〇「え絶対いいじゃん」
北斗「よくねぇよ」
〇〇はソファで北斗の方へにじり寄る
〇〇「ほら見てこれふわふわ」
北斗「近い近い」
〇〇「絶対北斗似合うって」
北斗「知らねぇ」
〇〇「黒とか絶対似合う」
北斗「だからなんで着る前提なんだよ」
〇〇「え、着ないの?」
北斗「着ねぇ」
〇〇「えー」
〇〇は不満そうに口を尖らせる
北斗はそんな〇〇を見ながら呆れたように笑う
北斗「ほんと自由だなお前」
〇〇「だって楽しそうじゃん」
北斗「彼氏できたらやれ」
〇〇「だからそれまで北斗なんじゃん」
北斗「……」
さらっと言われて言葉が止まる
〇〇は全く気づいていない
〇〇「ね?いいでしょ」
北斗「……好きにしろ」
〇〇「やった!」
北斗「買うとは言ってない」
〇〇「え」
北斗「勝手に喜ぶな」
〇〇「ちぇー」
でも〇〇は楽しそうにまたスマホを見始める
北斗はそんな横顔を見ながら小さく息を吐いた
北斗「……ほんと無自覚」
〇〇「買うよ?」
北斗「……何を」
〇〇「バスローブ」
北斗「聞いてた」
〇〇「北斗のも」
北斗「いらねぇ」
〇〇「えー」
北斗「なんで勝手に決めてんだよ」
〇〇「だってお揃いしたいもん」
北斗「彼氏とやれって」
〇〇「だから彼氏できるまで北斗で我慢する」
北斗「我慢って言うな」
〇〇はケラケラ笑いながら通販ページをスクロールする
〇〇「どっちがいいと思う?」
北斗「知らねぇ」
〇〇「白と黒ある」
北斗「……黒」
〇〇「やっぱ北斗黒だよね」
北斗「お前の話だろ」
〇〇「私は白かなー」
北斗「聞けよ」
〇〇「ねえサイズどれ?」
北斗「だから買わねぇって」
〇〇「L?」
北斗「人の話聞け」
〇〇は楽しそうに笑いながらカートに入れていく
北斗は呆れた顔をしながらそれを見る
北斗「お前ほんとマイペース」
〇〇「いいじゃん」
北斗「よくねぇ」
〇〇「届いたら写真撮ろ」
北斗「撮らねぇよ」
〇〇「えー絶対面白いのに」
北斗はまた小さくため息をつく
でも本気で止める気はもうあまりなかった
〇〇「えへへ」
〇〇はソファの上で完全にルンルンしている
スマホを見ながら足までぱたぱた揺れている
北斗「……楽しそうだな」
〇〇「楽しい」
北斗「なんでそんなテンション上がってんの」
〇〇「お揃いだから」
北斗「だから俺は了承してない」
〇〇「でも黒選んだじゃん」
北斗「勝手に話進めんな」
〇〇「絶対似合うってー」
〇〇はもう完全に買う気満々で商品ページを見続けている
〇〇「ねえこれ名前刺繍できるらしい」
北斗「やめろ」
〇〇「えーなんで」
北斗「怖ぇよ」
〇〇「北斗“HOKUTO”とか似合いそう」
北斗「やめろって」
〇〇は声を出して笑う
さっきまで悪口で落ち込んでいた人とは思えないくらい機嫌が戻っている
北斗はそんな〇〇を見ながら少しだけ力を抜く
北斗「……単純」
〇〇「失礼」
北斗「数時間前まで沈んでたくせに」
〇〇「だって今は楽しいし」
北斗「切り替え早すぎだろ」
〇〇「北斗いるからじゃない?」
北斗「……」
〇〇は無邪気に笑う
でもその一言だけで北斗の心臓は変に跳ねる
〇〇「よし、買った!」
北斗「マジで買ったの?」
〇〇「うん!」
北斗「行動早」
〇〇「届くの楽しみー!」
北斗は呆れながらも、その嬉しそうな顔から目を逸らせなかった
北斗「……じゃあ俺先風呂入る」
〇〇「はーい」
〇〇はまだスマホを見ながら上機嫌で返事をする
北斗「ちゃんと飯食えよ」
〇〇「食べてるー」
北斗「絶対適当だろ」
〇〇「ちゃんとしてますー」
北斗は呆れた顔をしながら立ち上がる
そのまま洗面所へ向かいかけて、ふと振り返る
ソファでルンルンしている〇〇が視界に入る
数時間前、自販機の前で立ち尽くしていた顔とは別人みたいだった
北斗「……」
〇〇「なに?」
北斗「いや別に」
〇〇「変なの」
北斗は小さく息を吐く
北斗「風呂出るまで寝んなよ」
〇〇「えー」
北斗「絶対寝落ちするだろお前」
〇〇「今日は大丈夫」
北斗「信用ゼロ」
〇〇「ひど」
北斗は少しだけ笑って洗面所へ入っていく
ドアが閉まる
少ししてシャワーの音が聞こえ始める
〇〇はソファに寝転がりながらスマホを胸の上に乗せる
画面には注文完了の文字
〇〇「ふふ」
一人で小さく笑う
今日はいろんなことがありすぎたのに、不思議と今は少しだけ安心していた
ーーーーーーーーー
北斗side
シャワーを浴びながら北斗は小さくため息をつく
北斗「……なんなんだよあいつ」
頭を流しながら今日のことを思い返す
自販機の前で泣きそうだった顔
“守ってくれた”って笑った顔
そして今さっきまでバスローブでルンルンしていた顔
感情の振れ幅が大きすぎて頭が追いつかない
北斗「……疲れる」
そう呟くくせに、結局全部気になってしまう
廉の話だってそう
“まだ好きって言われる”
その言葉がまだ胸の奥に残っている
北斗はシャワーを止めて壁に軽く頭を預ける
北斗「……会うんだ」
分かってる
仕事関係だし、止める権利なんかない
そもそも自分はただの同居人
それ以上でも以下でもない
なのに胸の奥がずっと落ち着かない
その直後、ふと別の言葉まで思い出す
“北斗いるからじゃない?”
北斗「……っ」
思わず顔をしかめる
完全に無自覚で言っている〇〇の言葉に、毎回勝手に振り回される
期待させるだけさせて、本人はケロッとしてる
北斗「……ほんとずるい」
でも嫌いになれない
むしろ、あんな顔見たあとじゃ余計放っておけない
風呂場の外は静かで、たぶん〇〇はまだリビングにいる
北斗はもう一度ため息をつく
北斗「……好き放題しやがって」
声は小さいのに、感情だけがやけに重かった
風呂場のドアが開く
北斗「……あっつ」
タオルで髪を拭きながらリビングへ戻る
〇〇はソファでスマホを見たまま待っていた
〇〇「あ、おかえり」
北斗「ただいまじゃねぇよ」
〇〇「えー」
北斗は冷蔵庫から水を取り出して一気に飲む
〇〇「お風呂気持ちよかった?」
北斗「普通」
〇〇「絶対気持ちよかったじゃん」
北斗「なんだその質問」
〇〇はクッションを抱えながら笑う
北斗はそんな〇〇を見て小さく息を吐く
北斗「ほら次入れ」
〇〇「んー」
北斗「またソファで寝る気だろ」
〇〇「まだ寝ないもん」
北斗「信用ないって言ってんの」
〇〇「はいはい」
〇〇はゆっくり立ち上がる
そのまま洗面所へ向かいかけて、ふと振り返る
〇〇「ねえ北斗」
北斗「なに」
〇〇「今日ありがとね」
北斗「……」
〇〇「ほんとに」
昼間のことを言っているのだとすぐ分かる
北斗は視線を逸らしながら髪を拭く
北斗「別に」
〇〇「またそれ」
北斗「いいから早く入ってこい」
〇〇「はーい」
〇〇は少し笑って洗面所へ入っていく
ドアが閉まる
少ししてシャワーの音が聞こえ始める
北斗はソファに座りながら、さっきの“ありがとう”が頭から離れなくなっていた
コメント
3件
100話おめでとう!!! いつも、読ませてもらってるよ!! これからも、頑張ってね〜🎀🤍
北斗くんが自販機の前で〇〇ちゃんの耳を塞ぐシーン、胸がぎゅっとなりました。あの「聞かなくていい」の一言に、全部の優しさが詰まってる気がします。普段はツンツンしてるのに、一番大事なときには静かに守ってくれる距離感、すごく好きです。廉くんとの話が出たときの空気の変化もリアルで、読んでてドキドキしました。