コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
異世界での長い旅を終えた――と思った瞬間、俺は再び死んでいた。
胸を締めつける痛み、全身を駆け巡る痙攣、そして息がまともにできない。体が燃えるように熱く、同時に冷たい。視界は揺れ、時間の感覚すら消えていく。
「……また、死ぬのか……」
声にならない声を口にする。だが返事はなく、耳に入るのは自分の荒い呼吸と心臓の鼓動だけだ。
苦痛の中で、ふと前世の記憶がフラッシュバックする。
あの世界で俺は「寿命で死にたい」と願った。しかしその願いが叶う前に、世界は俺を受け入れなかった。死に際の悪寒、冷たい世界の感触――それが脳裏に鮮明に蘇る。
だが次の瞬間、奇妙な感覚が全身を駆け巡った。
――前世からのチート能力、《異世界転生》。死ぬことで別の世界へ送り込まれる力だ。
意識がふわりと軽くなる。痛みも、恐怖も、徐々に遠ざかっていく。
「……また、転生か」
俺の頭の中で、前世の記憶が静かに整理される。知識、経験、戦闘の感覚――それらは確かに自分のものだ。
次に目を開けたとき、そこは見知らぬ森。
木々は天を突くように高く、光は葉の隙間から差し込み、静かな木漏れ日を作っている。鳥のさえずりが聞こえ、草の匂いが鼻をくすぐる。しかし、どこか不穏な空気も漂っていた。
「ここは……どこだ?」
立ち上がろうとしたが、足元の地面は柔らかく、まだ眠気のような感覚が体を支配している。
そして、光が徐々に形を帯びる。白銀の光を纏った神のような存在が、静かに俺の前に現れた。
『汝には新たなる加護を授けよう』
声は体の奥深くまで響くように響き、俺の意識を一点に集中させた。
『その名は《剣王》。剣を極め、剣と共に生きる道を歩め』
言葉と同時に、数えきれぬ剣技の映像が脳裏に流れ込む。まだ手にしたこともない剣の形、剣を振る感覚、敵の動きを読む速度――全てが体に染み込む感覚だった。
「……剣王……?」
理解はできない。しかし、身体中に熱い衝動が湧き上がり、胸の奥で何かが目覚めるのを感じた。
周囲の森の匂い、風の音、地面の感触――全てが鮮明に感じられる。これまでとは違う、自分の身体ではないような感覚。
俺はまだ何も知らない。しかし、確かに何かが変わったことを理解していた。
「……これから、俺は……」
意識が次第にはっきりしてくると、体の奥から覚悟が湧き上がった。
死んだことすら無駄ではない。今度こそ、己の意志で未来を切り開く――その予感だけは確かだった。