目を開けると、森の光景はまだまぶしく揺れていた。
昨日までの痛み、死の恐怖はもうなく、代わりに身体の奥で何かがざわめいている。
――まるで体の細胞が自分の意志で動き出すような感覚だった。
白銀の光を放つ存在は、俺の前で静かに立っている。
「汝はすでに死を経てきた。だが、今度こそ己の力で歩むべきだ」
その言葉と同時に、頭の中に剣技の映像が流れ込む。
空中で回転しながら斬撃を放つ技
相手の動きを先読みして受け流す剣法
盾や防御術を組み合わせた複合戦闘
「……こんな技、俺には無理だ……」
一瞬そう思った。しかし、体が自然に動く。映像に従って剣を振ろうとすると、木の枝が弾かれるように切れた。
「……え?」
初めて握った剣の感触は、重くも軽くもない。まるで体の一部のように自然に反応する。
前世で培った反射神経、戦場での生存本能、すべてが剣技の基礎に融合しているようだった。
「なるほど……これが剣王の力か」
理解よりも先に、身体が剣の感覚を覚えた。
振り抜くごとに、風の流れ、刃の重み、相手の虚を突く感覚――それらが体に刻まれていく。
神は言った。
「力だけではない。剣を極める精神もまた、汝の道である」
言葉を聞きながら、俺は自然と深呼吸する。剣の重さ、風の流れ、体の感覚すべてを意識する。
ただの戦闘力ではなく、剣そのものと心を通わせる――それが、剣王の道だということを理解した瞬間だった。
森を歩きながら、ふと考えた。
「この力……俺は、守るために使うのか。生き延びるために使うのか」
答えはまだわからない。だが、今はただ、目の前の森の中で、自分の剣と向き合うことしかできなかった。
光の中で、剣を振る。
風を切る感覚が、まるで新しい命を吹き込まれたように体を貫く。
「……よし、ここからだ」
俺の心は静かに燃えていた。これから始まる旅――剣王として歩む新たな世界――への覚悟が、全身を満たしていた。