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うぐいす
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強引に振り向かされた視界に映ったのは、息を切らした葛葉だった。その隣には、必死に周囲を探していたのであろう、肩で息をする伏見ガクの姿もある。
「……葛葉、ガクくん。なんで」 「なんでじゃねえよ! GPS共有してんだろ、俺たち!」
葛葉が、怒りと安堵が混ざったような顔で怒鳴る。 「お前、あんなゴミみたいなコメント真に受けてんじゃねえよ。数万人がお前を見てんのに、たかが数個のクソみたいな言葉に負けんなよ……!」
剣持は力なく首を振った。 「……負けたわけじゃない。ただ、もう、何が正解かわからなくなったんだ。僕が何を言っても、誰かを傷つけたり、嘘っぽく見えたりするなら、いっそ……」
「刀也さん!!」 ガクが、剣持の両肩を掴んで真っ直ぐに目を見つめた。 「誰が何を言ったって、俺たちは君と一緒に笑ってきた時間を知ってる。君がどれだけ真剣に、みんなを楽しませようとしてるか、一番近くで見てきたんだよ」
ガクの声が、震えている。 「あんな無責任な言葉に、君の全部を奪わせないで。俺たちが、君の中身をちゃんと知ってるから。……お願いだ、一人で抱えないでよ」
剣持の目から、堰を切ったように涙が溢れた。 「……悔しいんだ。あんな言葉に、僕が揺らいでしまったことが。みんなが信じてくれてる『剣持刀也』を、僕自身が壊しそうになったのが……っ」
「いいんだよ、揺らいでも。人間なんだから」 葛葉が、不器用な手つきで剣持の背中を叩く。 「叩かれたら痛いし、言われたらムカつく。それでいいんだよ。お前が完璧じゃなくても、俺らが補ってやる。……だから、勝手に終わらせようとすんな」
冷たい夜風の中で、二人の温もりが剣持の冷え切った心を溶かしていく。 画面越しの何千何万の悪意よりも、今ここにいる二人の体温の方が、ずっと重くて確かだった。
「……カッコ悪いですね、僕は。あんなに偉そうなこと言っておいて」 「今更だよ」と葛葉が笑い、ガクが「それが刀也くんでしょ」と優しく微笑む。
橋を去る三人の影。 剣持の足取りは、まだ少し重い。けれど、彼のスマホの通知欄には、アンチコメントを遥かに凌駕する数の「おかえり」という言葉が、仲間たちの手によって用意されていた。
独りでは抗えない悪意も、この二人となら笑い飛ばせるかもしれない。 虚空の底で、彼は初めて、本当の意味での「居場所」を見つけた気がした。