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「は、はい。 あの、店長のことっていいますと……?」
語尾が小さくなっていくのが自分でもわかってしまって情けない。
「えーっと単刀直入に、君、航平のこと好きなんだよね?」
対して、優陽のあっけらかんとした声が。
「……え??」
予想もしない質問をするではないか。
柚は間抜けな声をあげて聞き返すことしかできない。
何故、今日会ったばかりの人が、そんなことを聞いてくるのか。 意味がわからないままに彼を凝視する。しかしそんな柚のことなど恐らく気にも留めず。
彼は更に言葉を続けた。
「実は俺の知り合いが航平のこと好きでさぁ」
優陽は、シートに深くもたれ掛かり、横目で柚の反応を探るようにそう切り出した。
「お前もそろそろ身を固めろよって意味も込めて、その人のことを真面目に紹介したいと思って今日来たんだ」
「……身を、固める」
「うん。 でも天野さん素直で可愛らしいから。 見てたらすぐ君の航平への気持ち気づいちゃって。なんかごめんね」
なるほど。
呼び出されたというのに、特に歓迎もされてなさそうなこの空気って。
彼の邪魔をしてしまったからだったのだろうか。
「私、初対面の方にもバレてしまうほどわかりやすいのでしょうか」
「どんなところが好きなの? 航平の」
柚の、その問いに答えてもらえることはなく、逆に問われたのは、こちらにとって答えにくいこと。
半年も”気になる人”止まりでブレーキをかけて、結局想いを伝える事、認めることさえもできていないままで。
(何の為に、安定した正社員の立場を捨てたってゆうのよ)
変わりたかったんじゃないのか。
同期の社員や、先輩社員が結婚していく姿を眺めて。
年齢的にも、私はいつ頃かな? だなんて呑気に思っていた。
でも違った。
裏切られた。いや、裏切られたのかさえわからない。だって恋人だと思っていたあの人が別の人と結婚すると聞いて、問いただした柚に、投げつけられた言葉は。
『お前みたいなつまんない女、彼女にした覚えねぇし』
そんな短い言葉で終わった。
いつまで経っても、変わらない。
まだ何事にも、この心を乱されたくないから。
そんなふうに逃げてるから、航平に影どころではない。確かな相手ができてしまうのだろうか。