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「天野さん?」
思ったよりも長い時間を、思い耽っていたのだろう。車のシートをかなり後ろに下げて、持て余すほどの長い脚を組み、手持ち無沙汰な様子で優陽は柚の答えを待っていた。
「……そうですね、色々と店長を心の支えにしてしまってました。 でも、そこからどうにかなろうなんて本当に考えてなくて……」
「そっか……、でも心の支えにするほど? 好きなんだ?」
「それは、その、はい……好き、です」
深く答えを考える余裕もなく、口から溢れ出てきた言葉。 これは、きっと本心なんだろう。
声にしてしまっただけでも手に汗握る。
「……なるほど! うん。わかった、ありがとう、もうこれで充分かな」
(はい?)
柚に合わせるようにして深刻な声を出していたのに。
突然、それは明るくなった。
同時に空気が軽やかになる。
「え? っと、何がじゅうぶん??」
暗がりで、しかし優陽の口元がニヤリと笑みを浮かべたのを見た。
「でも、どう? 気持ちがバレたら一緒に働きにくくなるね? 辞めたら彼女でもないし、会えなくなっちゃうね」
「……は? 」
この人の行動や言動がいい理解できない。
意図がわからない。
人の心の内側にズケズケと手を突っ込んで、気持ちを言葉にさせて。
若干の怒りは声の大きさとなって喉を突き抜ける。
「ちょっと待ってください……!どうしてそんな……バラすなんて!」
「んーと、今までの会話録音させてもらったんだけどさ」
感情的になった柚を前にして、僅かだった笑みが深くなり、その声は弾んでいたようにさえ思う。
「……はあ?」
優陽は、手にしていたスマホをわざとらしく柚の顔の前に持ってきて、録音アプリが起動されているままの画面を見せつけてきた。
「意味がわかりません、どうしてそんなこと!?」
「バラされたら困る?」
「こ、困ります……店長は全く私のことは眼中にないですし、今後を邪魔するつもりもありません。でも……もう店長だけなんです、私には」
もう、まわりには誰もいない。
だから、唯一の拠り所。ホッとできる場所。
邪魔なんてしないから、奪わないでほしい。
そんな柚の哀れで小さな願いが、この人にわかるだろうか。
(いや、無理そう)