テラーノベル
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今日のシュメリの装いは、いつもと違っていた。
鎧を纏った姿を初めて見た。
「今日から、屍狼の討伐に行ってくる。数日かかると思うから、留守を頼むね」
「わかった、気をつけてな」
シュメリとバルトが、拳を合わせた。
「リンネも」
シュメリが僕に向かって拳を向けた。
僕は首を傾げながら、拳を出した。
「敵に勝って無事に帰るって、おまじないみたいなもんだ」
バルトが教えてくれた。
僕は気合を入れてシュメリの拳に自分の拳を合わせた。
「無事に帰ってきてね。怪我しないでね。早く帰ってきてね」
「全部、実行できるように頑張るよ」
シュメリが微笑んだ。
「それじゃ、行ってくる」
僕はバルトと一緒にシュメリの後姿を見送った。
それから二日。
シュメリはまだ帰って来ない。
シュメリのいないお屋敷は、どこか物悲しい。
「早く帰って来ないかな」
ぽそりと呟いて、僕は庭の草を抜いた。
「とにかく数が多いって話だったからな。梃子摺っているのかもな」
庭木を剪定しながら、バルトが教えてくれた。
今日は二人ともお休みだから、庭の手入れをしている。
「魔術師団でも話題が上がってた。長引くようなら応援隊を出すらしい」
「バルトも行くの?」
バルトが首を傾げた。
「俺は、どうだろうな。まだ新人だが、森の地理には明るいから、選出されるかもな」
「魔窟の森なら僕も詳しい!」
僕は思わず立ち上がった。
「リンネはないだろ。攻撃系の魔術じゃないし、そうそう出してもらえないと思うぞ」
魂に関与する術者は数が少ないから貴重らしい。
現場には中々行かせてもらえない。
「むー」
僕はモヤッとした気持ちで、また座り込んだ。
ブチブチと草をむしる。
「心配しなくても、そのうち帰ってくる。あのシュメリが怪我するわけないだろ」
「そうだけど」
聖騎士で団長だから、シュメリは強い。
わかっているけど、心配になる。
(シュメリがいないと、こんなに心細い)
食事の席に座っていないだけで、不安になる。
一人のベッドで眠るのは、心まで寒い。
(隣で笑ってほしいよ)
シュメリがいないとこんなに寂しいなんて、知らなかった。
僕はなるべく考えないようにしながら、無心で草を抜いた。
三日が過ぎても、騎士団の討伐隊は帰って来なかった。
魔術師団から応援隊が送り込まれることになった。
「屋敷から出ないで、大人しくしていろよ。風呂から上がったら、ちゃんと髪を乾かすんだぞ」
「わかってるよ。僕、もう子供じゃないもん」
「そうだな。じゃ、いい子で留守番できるな」
「……うん」
バルトが頭を撫でてくれた。
それでも、沈んだ気持ちは晴れなかった。
(バルトまで行っちゃうなんて、益々寂しい)
本人が言っていた通り、魔窟の森の地理に明るいという理由で、バルトは応援隊に選出された。
魔窟の森は魔獣の巣窟だ。
迷路のように入り組んでいて、人の感覚を狂わせる。
本来なら人が住めるような場所じゃない。
そんな森にバルトが住んでいたのは、暗殺を生業にしていたからで。
猫魔の僕を育てていたからだ。
(それが、こんな形で役に立っちゃうなんて)
行ってほしくないけど、そうは言えない。
僕はクロノアと一緒に、バルトが属する応援隊を見送った。
クロノアの部屋に戻って、訓練の続きになった。
今日は魔力を形にする練習だ。
僕は水にするのが一番、やり易い。
「こうして物質にしておくと、それを含んだだけで魔術を施せる」
「便利だね」
「何種類かできるようにしておくといい。何がイメージできる?」
クロノアに問われて、最初に浮かんだのは。
「キャンディかな」
「可愛らしいな」
クロノアがクックと笑った。
「だって、美味しいよ。口に入れるなら、美味しいほうがいいよ」
「そうだな」
クロノアが僕の頭を撫でた。
「リンネの髪は触り心地が良くて、触れたくなるね」
「猫魔だもん」
皆、僕の髪を撫でるけど。
子供扱いされてるみたいで、ムッとなる。
「そういえば、リンネも魔窟の森の獣人だったね。森には詳しいのかい?」
「うん、詳しいよ!」
僕は身を乗り出した。
「屍狼に出会ったとこは?」
「何回かあるけど、会わないようにしてた。オバケオオカミ、怖いから」
僕らがオバケオオカミと呼んでいた屍狼は、アンデットだ。
昼間は出くわさないが、夕方から夜は危険だ。
攻撃性が強くて、生者を見付けると反射的に喰いにくる。
屍狼の主食は、生物の魂だ。
「弱点を知っているか?」
「お日様の光と、強い魔力って、バルトが言ってた」
「そう。魔力で核を砕くんだ」
「核?」
「魔獣の核。砕けば、存在ごと消える。屍狼の魂のようなモノさ」
「そういうのが、あるんだ」
オバケにも魂がある。
変な感じだ。
「シュメリたちは、どうして討伐に時間がかかっているのかな」
強い魔力を持つ騎士団が三日かけても討伐できない。
何か理由があるんだろうか。
「中心核を持つ親狼が見付からないらしい」
「中心? 親?」
わからない言葉ばっかりだ。
「狼は群れで動く。それは屍狼も同じだ。群れの中心にはリーダーがいる。それを親と呼ぶ。親狼が持つ核を砕かない限り、子は何度でも蘇る」
「え! 倒しても、起き上がるの?」
「死なないからね」
僕は絶句した。
オバケだから、もう死んでるけど。
魔獣だから弱点はあるのに。
(親が弱点なんだ。親を叩かないとダメなんだ)
改めて、魔獣の恐ろしさを感じた。
「どうして、親狼は見付からないんだろう。オバケオオカミは見付けやすいのに」
「見付けやすい?」
クロノアが首を傾げた。
「だって、胸の右側が光ってるから。夜でもわかるよ」
あの灯りが見えると、僕は逃げてた。
「その光っているのが、屍狼の核だよ」
「えぇ! そうだったんだ」
「ふむ。リンネには屍狼の核が見えるのか」
クロノアが考える仕草をした。
「人の魂も見えるかい?」
「目を凝らすと、ぼんやり光ってるのは、わかるよ」
でも、よく見ないと見えない。
「充分だよ。普通は見えない」
「見えないの? 僕が精魂師だから見えるの?」
「精魂師でも、見えない場合が多い。リンネはそれだけ敏感なんだ」
「そうなんだ」
僕にとっては普通のことが、普通じゃない。
クロノアと話していると、初めて知ることばっかりだ。
「魔花が開いて魔力量が増えれば、見えるものも増える」
クロノアがミルクコーヒーを淹れてくれた。
「だからといって、あまり無茶はしないことだよ」
「うん……」
今の僕にはクロノアの言葉の意味が、よくわからなかった。
コメント
1件
あぁもう、めっちゃ切なくなる回だったよ〜😭💕 シュメリが討伐に行っちゃってから、リンネの「寂しい」って気持ちがじわじわ伝わってきて、胸がギュってなった…!「隣で笑ってほしいよ」ってとこ、言葉少なだけど重みがあって泣けた🥺 それに、リンネの「屍狼の核が見える」能力が活かされる伏線…!クロノアとの訓練シーンで世界観の説明も自然で、すごく読みやすかったよ✨ 続きでリンネがどう動くのか、めっちゃ気になる…! 霞花怜さん、今回も良すぎました…!🌟
お股ポテト
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はるにし
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