テラーノベル
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クロノアの授業を終えて、僕は部屋を出た。
今日は屋敷まで、一人で帰る。
(いつもなら、バルトと一緒なのに)
建屋の外に出れば、時々はシュメリが待っていて、三人で帰る。
それが普通だったのに。
(普通……は、変わるものなんだ)
ずっと一緒だと思ってた。
だけど、そうじゃない。
仕事が入れば、二人はいない。
一緒に帰れない。
(僕が婚約したら、バルトはお屋敷から出て行く)
そうやって変わっていく、少しずつ。
いずれそれが普通になる。
(それが、大人になるってことなのかな)
僕は、廊下の窓から外を眺めた。
お日様は南中から西に傾いている。
休みの日なら、シュメリとバルトとお茶している時間だ。
「伝書鳩だ。討伐隊からだぞ!」
鋭い声が響いて、僕の意識は部屋の中に向いた。
魔術師団の団員が、鳩を腕にのせている。
僕の足が自然とそっちに向かって走った。
『クル、クルル……途中経過、途中経過』
鳩が喋った。
ドキッとして、僕は物陰に隠れた。
『親狼らしき屍狼を発見、攻撃が通用しない。負傷者多数。治癒師の派遣を求む……クル』
ドクン、と心臓が下がった。
(負傷者多数……シュメリとバルトは、大丈夫なの?)
魔術師団がざわついた。
鳩が羽を広げた。
『クルル……親狼の中心核の位置が掴めない。攻撃難攻中……クルルル』
鳩が羽を畳んで沈黙した。
「屍狼の中でも、上位魔獣か。厄介だな」
「とにかく、治癒師の派遣準備だ」
「わかりました」
団員が走り出す。
(僕だったら、オバケオオカミの核が見える。役に立てるんじゃ……)
そう思った瞬間には、飛び出していた。
「あの、僕も連れて行ってください!」
団員が、振り返った。
「君は……魔術師団員か?」
「そうです。クロノアの授業を受けている、リンネです」
「リンネって、精魂師の子供か」
「子供じゃないよ、獣人だから成人してるもん!」
リンネの訴えを余所に、団員たちが顔を見合わせた。
「精魂師なら、屍狼の核の位置を把握できる」
「正確な攻撃の導になるんじゃないか」
団員から前向きな発言が出た。
(連れて行ってもらえるかも)
「しかし、クロノア様の秘蔵っ子だ」
「精魂師を危険な現場に出すわけには、いくまい」
「それ以前に、子供を連れて行くわけにはいかないだろう」
団員たちが口々に否定的になっていく。
「僕、子供じゃないってば!」
叫んだ僕の頬を、冷たい指が撫でた。
ドキッと、心臓が跳ねた。
「ダメだよ。リンネは行ってはダメ」
クロノアが隣に立っていた。
「クロノア様!」
団員たちが一斉に頭を下げた。
「でも、僕ならオバケオオカミの核が見えるよ」
「それでも、ダメだ」
「何でダメなの? 子供だからダメなの?」
「リンネが、アスランズ王国の宝だからだ」
「そんな……」
納得できないモヤモヤが胸に広がっていく。
「力を持っていたって、必要な時に使わなかったら、意味ないよ!」
「無茶をするなと言ったはずだ」
僕の叫びはクロノアの静かな圧に抑え込まれた。
「屍狼如き、騎士団と魔術師団で制圧できる。この国の魔術師たちを愚弄する気かい」
「そんなつもりじゃ」
ただ、助けたいだけなのに。
僕は力を持っているのに。
どうして、使わせてもらえないんだろう。
僕は唇を強く噛んだ。
「リンネは大人しく屋敷におかえり。それがシュメリとバルトのためだ」
クロノアが、僕の背を押した。
それが、いいのかもしれない。
場馴れしていない僕が行っても、足手纏いかもしれない。
それでも。
(それでも僕は、シュメリとバルトの役に立ちたい)
一瞬でも役に立てる瞬間があるなら。
二人を助けられる可能性があるなら。
「クロノアの……」
「ん?」
「クロノアの、馬鹿ぁ!」
僕は全力で走りだした。
「やれやれ、困った坊やだ」
クロノアの溜息を背中に聞く。
魔術師団を飛び出して、猫魔の姿になった。
森に向かって真っ直ぐに走り出す。
(待っていて、シュメリ、バルト)
全速力で走る僕の後ろを、クロノアの使い魔の蛇が追いかけてきているなんて、この時の僕は思いもしなかった。
コメント
1件
読み終えました……クロノアの“ダメだ”にリンネが叫んだ「クロノアの、馬鹿ぁ!」、あの一瞬に全部の感情が詰まってましたね。力を持ってるのに使わせてもらえないもどかしさ、守られてるだけじゃ嫌っていう気持ち、すごく伝わってきました。それに最後の蛇。こういう細かい仕掛け、好きです。 リンネはどこまで行くんだろう。続き、楽しみにしてます🌷
お股ポテト
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はるにし
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