テラーノベル
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「はい、本当に僕の兄です。いまは姉ですが。なんなら親父の戸籍でもとってきて見せますよ?」
未央はブンブン首をふった。橋本先生と郡司くんは恋人同士じゃなかったんだ……!!!!
「はぁーーーーー」
未央はちゃぶ台にガンっと頭をぶつけながら突っ伏してため息をついた。
「未央さん、未央さん」
亮介に肩を揺すられても、未央はすぐ体を起こせなかった。突っ伏したまま、顔だけ横にして亮介の顔を見る。「ごめんね、郡司くん。私勘違いしちゃってた。あんなきれいなふたり見せつけられたら、誰でも恋人同士だと思うよ」
「そうでした? 俺、いやがってたつもりだったんですけど」
「じゃれあってる感じで、すごく楽しそうだった。私ひとりで勘違いして……、勝手にステーキ食べたり、ぐしゃぐしゃの顔も見せちゃって……」
亮介は首を振って、にこりと穏やかな笑顔を向けた。
「未央さん、おなかすいた」
亮介は未央のほっぺをツンツンする。甘えた顔はずるくてかわいい。
「うん、お肉焼くよ。ちょっと待ってて」
未央はステーキを焼き、簡単にサラダも作った。
「未央さん、きょうはおめでとうございます」
「ありがとう、郡司くんのおかげだよ」
「じゃあ乾杯!」
グラスをカチンと鳴らしてワインを飲む。
「未央さん、このワインいけますね」
「でしょ! ちょっとフンパツしたからね! お肉も食べてみて」
「うわ! なにこれ! やわらかー!! めっちゃうまい」
塩コショウだけのシンプルな味付けが、肉の旨味をひきたてる。口に入れると肉は、サッと溶けるようになくなった。亮介はあまりの美味しさに、バクバクと勢いよく食べだした。
ひとしきり、ワインを飲んでステーキを食べ、わいわい騒いで、時計はもう22時をまわっていた。「もう22時か。郡司くんそろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
畳に寝転んで、サクラとじゃれている亮介に声をかけた。眠たいのか目がとろとろだ。
「はーい、そうでしゅね」
そうでしゅって……、郡司くんけっこう飲んだからな。ワイン3杯に、缶ビール3缶。いい感じに気持ちよくなっているのがわかった。亮介は座り直して首をぐるぐる回している。
「ほら、郡司くん、立って……きゃ!」
未央は亮介を立たせようとしたが、逆に引っ張られて、ストンと腕の中に抱き寄せられた。
「未央さん、未央さん」
亮介はぐりぐりと、頭を未央の胸に押し当ててくる。子犬みたいだ。
「郡司くん? どうしたの? 酔ってる? ねぇっ?」
未央はアルコールの香りがする彼に、首筋を舐められてゾクゾクっとした。
「未央さん、かわいい♡」
お酒の勢いなんかじゃ、いやだよ……、いまからのこと、ちゃんと覚えてて欲しいから。
未央は、もうこのまま流されてしまいたいと思ったが、ガクンと亮介が肩にもたれてきた。顔をのぞくともう夢の中。気持ちよさそうに寝息をたてている。
なかなか好きって言えないな。告白ってどうするんだったかな。完全に迷子だ。
亮介を揺すっても起きる気配は全くない。引きずってベッドに連れて行くのも難しい。
仕方ないので未央はそっとその場に亮介を寝かせると、タオルケットをかけた。ほんのり赤くなったほっぺにチュッと軽くキスをする。「み……おさん」
郡司くん、寝言かな? 起きる気配はない。
「みお……、すき……」
えっ……いまなんて……? 好きって言った? 亮介はまた寝息をたてはじめる。確かめる術もなく、未央は亮介の美しい寝顔をただ眺めているしかできなかった。
好き……、たったふた文字。郡司くんにはきっとバレバレだよな、私の気持ち。
好き? って夢の中で私に訊いてたのかな。夢の中の私、なんて答えた? 素直に好きだって言えた?
郡司くんに好きって言おう。うまくいくかわかんないけど、傷ついてもいいから好きだって言いたい。
心の中の大好きバロメーターはとっくに振り切れて壊れている。あとはハートでいっぱいになった甕をひっくり返すだけだ。
未央は布団を亮介の隣に持ってきて、一緒に眠ることにした。知ってか知らずか、亮介は未央をぎゅっと抱きしめてきた。ドキドキ胸が鳴って、まったく眠れなかった。
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