展示週間初日。
学院内は、まるで魔法のテーマパークのように賑わっていた。
オクタヴィネル寮のブースも、
海の深層をイメージした幻想的な装飾で多くの注目を集めていた。
ネリネは機械室の片隅で、泡発生装置の調整をしていた。
「……ジェイド。展示の説明、どうせボクにやらせるつもりだったでしょ」
「ふふ、もちろん。あなたの方が的確に説明できますから」
「……ほんと、ボクばっかり働いてる」
「でも……あなたがここにいてくれると、安心するんですよ」
その言葉に、工具を持つ手が一瞬止まった。
(ジェイドが、ボクのことを“安心”って……)
ネリネの胸に、またぽつりと泡が生まれる。
けれどその数分後、
その泡はすぐにざわめいた風に包まれて崩れ始めた。
「わぁ……すごい。海の底みたい……!」
そう呟きながら、監督生がオクタヴィネルの展示スペースに現れた。
青い照明が彼女の頬を優しく照らす。
その姿を見つけたジェイドが、自然と微笑む。
「ようこそ、小エビさん。お足元に気をつけてください」
「はい……!ジェイドさんが説明してくれるんですか?」
「もちろん。こちらが、我が寮の泡魔法の応用装置……」
ジェイドの説明を、監督生は真剣に聞いていた。
目を輝かせて頷く様子に、ジェイドも柔らかく微笑を返す。
その光景を、少し離れた場所からネリネは見ていた。
( ……ボクが作った装置なのに。
なんでジェイドがあんなに楽しそうなの )
「ねぇ、ネリネ。顔、怖いよ?」
いつのまにか背後にいたフロイドが、肩越しに覗き込んでくる。
「……怖くない。普通」
「ふーん?でもなんか、ピリピリしてる感じ〜。……もしかして、ヤキモチ?」
「……ちがう」
即答したはずなのに、言葉が自分でも空っぽに聞こえた。
監督生の方を見るジェイドの目が、
自分の知っているものと少し違って見えた。
(なんで。なんでこんなに胸がざわつくの)
ネリネはそっと展示室を抜け出した。
いつもなら、眠ることで全部リセットできたはずなのに。
今日だけは、どうしても眠れそうにない。
その日の夜。
ベッドに横たわっても、ネリネの瞼は重くならなかった。
泡のように心に浮かぶ感情。
言葉にならない気持ち。
見つめるだけで満たされていたのに
今は、見ていられない。
(ジェイド、ボク……なんで、こんなに……)
ネリネはまぶたを閉じた。
けれどその先に浮かぶのは、あの静かな微笑みと、
泡の外で誰かに向けられた優しさだった。