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「お父さん、早く早くー」
晃は、駐車場に停めた車の後部座席から、水着のバックを3人分持って、瑠美、塁にそれぞれに持たせた。
「お父さん、ゴーグル持ってきた?」
「え。見てないけど、瑠美確認してきたの?」
晃はがさこそと袋をのぞく。
「いつもお母さんやってくれるもん。入ってなかったら、ゴーグル買ってよ。つけないと目がかゆくなるんだよ!!」
「そうなんですか。わかりました。よく探してなかったら、買うから。塁はあるの?」
「え、僕はゴーグルいらないよ。今、顔を水につける練習してるから。幼稚園のたっくんがもう、できるようになったんだって。僕もできるようにならないと!!」
「よし、塁はがんばれよ!! さて、瑠美のバック見せて、見てみるから」
「はい。見てよ」
瑠美は晃にバックの中身を見てもらう。
「あ、思い出したんだけど、学校だわ。ゴーグル」
「なんで?」
「学校と水着が違うから、ゴーグルひとつしか持ってなくて、あっちのプールバックだ!だから、買ってくれないと困る」
「わかった。買うから。無いんだもんな。仕方ない」
「よかった」
「瑠美、1人で更衣室入れるよな? 俺、男だから、一緒に行けないけど大丈夫だよね?」
「学校で1人で着替えてるもん。平気だよ」
「しっかり鍵閉めるの忘れるなよ。はい、これ、コインロッカー用の100円」
「ありがとう」
「今、入場料払ってくるから、塁と一緒にいて」
「はいはい」
塁は早くも黄色いプール帽子をかぶって準備していた。瑠美はため息をついて、呆れながらも一緒にいた。
「ほら、払ってきたぞ。あと、プールの方に行ったら、大プールで待ち合わせね。んじゃ、瑠美あとでな」
「瑠美バイバイ!」
塁は手を振って別れた。
塁は男子更衣室に嬉しそうに行く。その後を晃は着いて行った。
瑠美は手を振って、プールバックを持ち直した。
「ねぇ、お父さん。瑠美大丈夫かな」
「お姉ちゃんだから大丈夫だって。人の心配するより、自分のことな。塁、1人で着替えるんだぞ」
「わかってますよー。それくらい!!」
と言っていた塁。
更衣室に着くと、あれやってこれやってのオンパレード。
さっきの意気込みはどこにいったのか。
晃はため息ばかりがこぼれていく。
結局は父である晃がほとんどの服を脱がしては、水着を着せてという状態になった。
手がかかる息子だとつくづく思う。
普段、この子を見てるのは母の絵里香であって、体力を要するなと感心させられる。
着替えを終えて、晃と塁はプールサイドに行く。
軽く準備体操をして、シャワーを浴びる。
「お父さん! こっち」
瑠美は早々に準備をして、大プールの方に行っていた。
塁も一緒に晃へ着いていく。
「瑠美、準備するの早いな。ここ深いけど自分で行ける?」
「うん。大丈夫だよ。私、もう大体は泳げるし」
「そっか、んじゃ、塁と俺、あっちの方に行くから。監視員の人いるからふざけちゃだめだぞ」
「はーい」
瑠美はやけに素直だった。晃は塁を連れて、お子様向けの小さな浅いプールの方に行った。
そこにはまだ2歳くらいの子どもを連れたママさんがいた。
晃は豊満な胸に目のやりどころが困った。
水着も結構オシャレで絵里香には着れなさそうなものだった。
軽くペコっとお辞儀をして、塁を引き連れてチャプチャプとビート板を使って泳がせた。
「お父さん、見て!!僕、目をつけて泳ぐよ」
「はい、見てる見てる」
塁はバシャバシャ言いながら、親子連れの近くまで泳ぎに行く。
晃は見ているとヒヤヒヤした。ご迷惑をかけるんじゃないかと思う。
「お父さん!! できた!!」
大きな声でこちらを向く。
「上手だねぇ」
近くにいたママさんが塁のことを褒めてくれた。
「あ、すいません」
「だいじょうぶです」
2歳の女の子はチャプチャプして、顔に水がかかるのが楽しいそうにしている。
「2歳くらいですか?」
「はい、そうなんです。今日がプールでデビューなんです。」
「そうなんですか。すごい、怖がらないですね」
「お庭でプールはするんですけどね。好きみたいです」
キャキャキャとすごく嬉しそうにする女の子。
「僕、泳ぎ上手だね」
「そうでしょう、そうでしょう。いっぱい練習してるから」
塁は変なことを言っている。
「練習するんだね。すごいねー」
褒められて鼻が高々の塁はニコニコしていた。
晃はなんだかんだ言って、話が盛り上がり、その女性と仲良くなった。いつの間にか、塁をそっちのけで、1人、ベンチで話し込む。瑠美も1人で泳ぐのが飽きて、晃を探すが見えなくなる。
よく見ると知らない女性と話していた。
「お父さん!!ウォータースライダー滑りたい」
話してる途中で晃は呼ばれた。
「え、何、滑り台?いいよ、瑠美、やっておいで」
「1人で行けない。着いてきて」
「まじか。んじゃ、そろそろ行きますね」
「お話ありがとうございます。」
プリっと胸が大きいお姉さん。瑠美はじーと晃を見る。何だかイライラしてきた。
「お父さん、おっぱい大きいひと好きだよね」
「はあ? 何言ってるの?たまたま話が盛り上がっただけだって。勘違いするなよ」
「おとうさーーーん。おいてかないでよ!!!!」
塁が遠くから走ってくる。
「ばか、塁、走っちゃダメだって」
びたん!!
顔から転んだ塁。鼻から血が出ていた。
涙がとまらず、ギャンギャン泣く。
「あーあ。言わんこっちゃない」
そっと手を差し伸べて、起こす。膝や肘も擦りむいていた。医務室の方へ塁を連れて行こうとだっこをして連れていく。
前途多難な1日になりそうだ。