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「その、今の魔法って?」
「えっと、少し変わった『魔術』という魔法でして……」
「まじゅつ? 聞いたことないですけど、す、すごいです、それ! すごく驚きました……! それに、ありがとうございます。お客さんが来ないから、売上が少なくて補修できていなかったんです。
こんなに簡単に直るなんて! うちおおばあちゃんが朝起きたら、きっと感激しますよ!」
宿の女性は心底嬉しそうにそこまで語ってから、慌てて自分の口をおおう。
「す、すいません。こんな時間に騒ぎ立ててしまいました。ほんと興奮してしまって。もう寝られますよね。おやすみなさい……!」
やたらぺこぺこと頭を下げた末、彼女は逃げるように部屋を出ていった。
あんなに喜ばれるなら、他の部屋にも【補修】を施してもいいかもしれない。
そもそも泊めてもらった感謝をしたいのは、俺の方なのだ。
翌朝、それをさっそく行動に移した俺は、宿の女性に許可を取ったうえで剥がれた壁や傷んだ床の修理を行う。
すると、もう感激しきりであった。
「宿代も無料にします! 何泊でもしてください。ご飯もつけます! あとそれから、お茶菓子もどうぞ!」
「いや、これは受け入れてもらったお礼で……」
「そんなわけにはいきません! なんとしても受けてもらいます!」
さすがに連泊の無料は申し訳なさすぎるので固辞したが、結果として、やたらと手厚いサービスを受けることになった。
朝、宿から出て行く際もとにかく丁重で、店の前まで見送りに出てきてくれる。
「お帰り、お待ちしておりますね!」
なんて、にこやかな笑みとともに声をかけられたので、挨拶を返そうとしていたところで、なぜか首筋がゾッとする。
「…………なんで、ここがわかったんだ?」
振り返ればそこには、なぜか目を顰める美女――リーナ・リナルディがいた。
待ち合わせは、中央通り広場の噴水だったはずだ。そもそもこの場所は、昨日の夜に俺が決めた場所だ。
「先生は今お金を持っていませんから。泊まりそうな場所は限られます。そこから推測しました」
……相変わらず、恐ろしい推理だな、おい! そして、またしても当たってるし。
俺が内心で恐ろしさすら感じていたら、彼女は詰め寄ってくる。
「昨夜、なにをやったんですか……。その女性とはどんな関係ですか」
「なんにもないっての。ただ、少しだけ【補修】の魔術を使っただけだ」
やましいことがあるわけでもない。
俺はこう言い切るのだが、リーナからはしばらく、じっとりした視線が注がれたのであった。