ゴォン!!!
「あ!?!?」
早朝、六時。
爆音が外から鳴り響き、俺は飛び起きた。
「な、なんだっ!?!?」
窓からは影しか見えないが……何やら巨大な物が玄関の方に見えるのが映り込む。
俺は途端に嫌な予感が脳裏に過ぎる。
いつもは遅く起床するルリアールも、物音に目覚めたのか、機嫌が悪そうにのそのそと起きてきた。
恐る恐る、一緒に玄関を開ける。
「グッッッモーニンッ!! 優ッ!!」
「はぁ……」
嫌な予感は的中したようだ。
何故か巨大ロボットの肩に乗り、ニタニタと俺たちを見下ろすのは、ゲス野郎こと、ロドリゲス・B・フォードマン。
「んだよ、ゲス野郎。テメェ今何時だと思ってんだよ」
「時間はあまり気にしない。人と言うのは陽の登りと共に目覚め、陽の沈みと共に眠るものだ!」
いつも通り人様の迷惑を鑑みない思考回路に、俺はいつも通りの厄介さと面倒臭さを感じる。
そして、コイツの設定……久々の登場だから少しだけおさらいしておこうと思うが……。
「そんなクソでけぇロボットになんか乗りやがって、自分が指名手配犯ってこと忘れてんのか……?」
そう、コイツはUT変異体の実験に参加し、家が金持ちだったこともあり、大量の技術をその身に受ける為、B型から俺のいたL型まで居座り続けた挙句、本来の目的は『宇宙人を排除すること』だった為、特殊部隊への入隊を拒み、反乱分子となった男だった。
その為、あまり関わり合いにはなりたくないのだ。
高さ二階の一軒家を優に越える肩から飛び降り、簡単に着地すると、真剣な目付きを向ける。
「ナンセンス。私のことはロディと呼べと言っているであろう。そして失礼だぞ。コイツは確かにロボットのような見た目をしているが、立派な生物であり、俺の……」
そして、少しだけ顔を赤面させる。
「可愛いペットだ」
その言葉に俺とルリは目を見開く。
「ハァ!?!?」
そんな中、いつものように学が来たかと思ったら、見掛けない神々しい衣装を着た少年が現れた。
「わあ! 素敵なペットさんですね! 確か機械の惑星で人工知能を宿すことに唯一成功した星で、ポ○モンのような相棒とされる方が多いペットさんですよね!」
その人物に、俺はギョッとすることになる。
「天界人 第三皇子……パラレル皇子……!?」
天界人とは、数多の宇宙人の中で技術力の頂点に立ち、それでも自身らが上位的存在として侵略するのでなく、星々と友好な関係を築こうとする種族で、地球もまたその友好関係の中に築かれ、ある意味で、宇宙の中の中心的存在を、我々地球人は”天界人”と呼ぶ。
驚いた、と言うより、声が漏れた理由はもう一つある。
”βの使徒”という、『宇宙人を排そうとする反乱組織』を作った張本人、βの司教 ロドリゲス・B・フォードマンが惜しくも居合わせたことだった。
何にせよヤバい……コイツが捕まるのか、コイツが皇子を殺害してしまうのか……一抹の不安が募る。
「あぁ、どうも。君は見る目があるようだな。君も、何かペットを飼っているのかい?」
おいおいおい、何で知らねぇんだよ、何で普通に世間話してんだよ、天界人っつったら、お前が一番排除したい相手のはずだろ!! 第三皇子であまり公の舞台に姿を見せないからと言って、無知にも限度があるだろ!!
し、しかし……一応トラブルは回避できたのか……?
どうやら皇子も、反乱する指名手配犯の顔など、いちいち覚えてはいないらしい……。
「はい! 僕のペットはこの子なんです!」
そう言うと、皇子は小さな小鳥を肩に手懐けていた。
そうか……前に変な惑星のスライムを持ち込んで、山田さんを辞職させることになったから、自重して、地球に持ち込むペットを選んで連れているのか……。
天界人は友好的な種族ではあるが、第一皇子、つまり宇宙の中心となっている人物は、威厳があって当然なのだが、やはり少しだけ取扱注意のような立ち振る舞いだった為、ここまで腰も低く、聞き分けが良いことで、ホッと肩を撫で下ろすような気分になった。
「ははっ、可愛らしい鳥さんですね。皇子は今回、どうしてこんなところに来たんですか?」
ガブッ
「いたたたたっ!! 痛い痛い!! なんで!?!?」
ホッとした俺が、皇子に友好的に半歩近寄ると、大人しかった小さな小鳥は、俺の腕に噛み付いた。
「お、おかしいな……。この子、侵略者は食べるけど、この世界の人には温厚な生物なのに……。あははっ、ダメだよ、ブルー。もしかして、動物に好かれないタイプの方なのかな? あははははっ」
皇子の優しい笑みに反し、俺とルリアールは同時に顔を見合わせ、同時に青褪めた。
そう、恐らくこの小鳥は、”異世界の魔力”を感じ取り、捕食しよう、排除しようとする力がある。
その為、侵略者含め、俺やルリも対象内なのだ。
『なんじゃ? 騒がしいな……』
この脳裏に響く声は……クロ!!
や、やべぇ、クロも今は猫の姿だけど、異世界では龍族として生き、魔力を吸ってエネルギーにしている!!
と言うかお前、テレパシー能力あんのかよ!!
しかし、小鳥はクロの前に近付くと、友好的にクチバシをコンコンと優しく挨拶するだけだった。
『ふむ、恐らく妾は猫の姿だからじゃろ。主らは身体ごと転移してるから魔力も強いが、妾は魂だけを移しているからな。この小鳥では嗅ぎ分けられないのじゃ』
ズ、ズリィィィ……!!
じゃ、じゃあこの緊迫感の中、常に動揺し続けなきゃいけないのは、俺とルリだけなのかよ!!
宇宙人を排そうとする反乱分子の親玉、そのペット、人工知能を宿したロボット。
天界人と名を馳せ、宇宙間の中心の皇子、そのペット、異世界の魔力を感知して排除しようとする鳥。
俺たち、簡単に言えば異世界人。そのペットとして見られているのは、異世界の元ドラゴン……。
お、恐ろしい三つ巴が出来上がってしまった……!!
つーか、なんなんだよ!! 混沌とし過ぎだろ!!
でもやっぱ、一番に面倒なのは、宇宙人を排そうとしている癖に宇宙人をペットにしているロディだ……。
クソ……ややこしいことしやがって……。皇子のペットも、俺たちからすればヤバいが、一応、天界人として侵略者を排除しようとする理にはかなっているのに……!
「あ、おはようございまーす! わ! 大きなロボット! げげっ! パラレル皇子!?」
挨拶と今までの俺たちのリアクションを、僅か二行で納め上げた我らが発明家、学。ナイスタイミングだ……!
俺は学を裏に呼び込み、この混沌と緊迫感に溢れた今の状況を、早口に説明した。
ポン! と学は手を叩くと、ニコリと表に出る。
「皇子の小鳥さんが危ないって聞いたんですけど、もしかしたら、僕の発明のせいかも知れません! 先日、侵略者と人間を融合させる殺人犯が現れたのはご存知ですか? 生きた侵略者を匿うと犯罪になってしまうので、亡骸の一部を武装に使ってみたんです! もしかしたら、その残留していたものに反応しちゃったのかな〜!」
さ、流石だ……! 学……! お前はやっぱ天才だ!
「え……? 違法なんですか……?」
「はい……?」
「この子、一応侵略者なんですけど……生きたまま保有するのはこの惑星では違法なんですね……。僕としたら、また無知に人を傷付けてしまうところでした……」
悲しげな顔を浮かべ、早々に帰ろうとする皇子。
「まあ待て。若い頃と言うのは、罪は必ず犯してしまうものだ。地球人に害はないのだろう? 私から、その子だけ特例を出せぬか、一緒に頼みに行こう」
そう立ち止めたのは、ロディだった。
バッカ野郎ゥゥゥ!!!
せっかく危険生物を連れた皇子が帰ろうとしてたのに、何で引き留めやがんだ、コイツは……!!
それに、お前が一緒に頼みに行ったら、今度こそお前が捕まるんだよ馬鹿野郎ゥゥゥ!!
後半へ続く
――
◇緑一派
鯨井・LU・優(異世界の魔王の息子)
ルリアール=スコート(異世界の最強魔法使い)
佐藤 学(新米技術者)
クロ(異世界の元龍族)
◆βの司教
ロドリゲス・B・フォードマン(反乱分子の親玉)
そのペット(人工知能を宿したロボット)
◇天界人
パラレル第三皇子
そのペット(異世界の魔力を感知して喰らう侵略者)
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