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さて、デデストの死について不審の点があるから『調査』のために、と称して派兵を申し入れてきた隣国のノブリア王国であるが。それは単なる口実で、真正面から軍勢を入れてザウアシュ侯国を蹂躙するつもりであるのかと思われていたのに、本当に『調査団』だとしか言いようのない規模の部隊を先遣隊として送り込んできていた。隣の国なので街道くらい通じているし、その街道を通って堂々と都まで入ってきたのである。その数、約百名程度。ザウアシュ侯国は大国というほどの大国ではないとはいえ、だからといって百名の自称調査団に都を攻め落とされなければならないほどの弱国でもない。その調査団なるものを率いているのは、フロリーネと名乗る女の隊長であった。ザウアシュの宮殿の前までやってきて、ノブリア王クセノフォスの特使である、開門されたし、と名乗った。外交使節を名乗る集団に向かっていきなり武装攻撃を加えるのが野蛮の所業であることは地球においてもアルティメイアにおいても太古の昔から変わりがないので、フロリーネは王宮内に招かれ、モニカの謁見を受けることになった。
「殿下におかれましては、ご機嫌うるわしゅう。わたくしがフロリーネでございます」
フロリーネと名乗った女は恭しく挨拶をし、そして、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「本日、お目にかかれました記念に。モニカ殿下からの、握手を頂戴させていただいてもよろしいでございましょうか?」
外交的な挨拶としては特に不審な点がなく、断わるべきとも思わない申し出であった。モニカは進み出て、握手の申し出を受けようとした。しかし、彼女の横にあってそれを止めた者がいた。オゾンである。
「二つ、不審の点がある。貴国は既に、国境近辺に大軍勢を集結させておられるはずだ。単に調査が必要だというだけであるなら、そのようなことは無用の余地であるはず……そして、もう一つ」
オゾンの目は鋭くフロリーネに注がれている。
「お前の目。分かるんだよ。俺も地球で苦労してきているからな。人を欺いて、笑顔でこちらを食い物にしようとする類のやつは。みんなお前さんみたいな目をしていたものだ」
そう言って。オゾンはモニカに代わって手を差し伸べ、フロリーネと握手を交わした。その、次の瞬間だった。
「もしも本当に握手のつもりだったのなら、申し訳ないが……こちらの力を使わせてもらった。第一段封印解放、『ハンガーノック』」
フロリーネの方も、実際のところを言えばただ握手の意図だけをもってモニカに手を差し伸べたわけではなかった。
「……見破られて、しまいましたか。無念。私の『エネミー・イレイザー』が……」
フロリーネがハンガーノック状態を起こして崩れ落ちるのと同時に、オゾンにも異常が現れていた。その崩れ落ちたフロリーネの方を庇うようにして、腰に差していた自らの剣を抜いたのである。フロリーネの『エネミー・イレイザー』は、催眠と洗脳の能力。触れた相手の精神に干渉し、自らの手駒に変えてしまうことを可能とする。が、オゾンはスキル以外の点ではたいした戦闘能力を持ってはいないので、すぐそばにもう一人控えていた人間形態のテトラに頭をどつかれ、すぐに正気に戻った。フロリーネは応急手当の上で捕縛、投獄された。
「ここまでは、ほんの小手調べ。というところなのでしょうね。クセノフォス王は、本気でわが国を潰しに来る……」
モニカの予言通り、ノブリア王国軍がクセノフォスの親征軍によって率いられ、両国国境を正面から踏み破ったのは、その直後のことであった。今度こそ、正面きって戦争の始まりである。